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台湾人日本国籍確認訴訟

現在、最高裁で審理されている台湾人日本国籍確認訴訟は、昨年100歳になられた台湾人楊馥成ら3人の元日本軍人・軍属だった台湾人らが日本国を相手に自分たちが日本国籍を保有していることを確認する訴訟です。
この裁判は台湾の地位未定論と密接に関係するものです。  
 
台湾の地位未定論は、台湾の領土の主権に関係するものですが、台湾に居住する台湾人の国籍についても主権の問題が生じています。
すなわち、通常は領土主権が定まれば、領土に付随する人民に対する主権も自動的に及ぶことになるのが国際慣習法ですが、領土については、未だに主権が定まりません。

その場合、その領土に結び付けられた人民の国籍はどうなるかという問題です。
原告ら台湾人は、日本人の両親から日本人として生まれ、日本人として教育を受け、日本語を用いて生活し、日本ために志願して日本軍の兵士あるいは軍属となりました。

戦争に負けて台湾に戻ると、突然日本の国籍を剥奪され、これまで戦ってきた中華民国人だとされました。元日本兵の大半は、反逆分子と見做され228事件で拘束され、多くは中華民国の兵として人民解放軍と闘いました。そのうちの幾人かは、中国の捕虜となり、朝鮮戦争の前線に送り出されているのです。

彼らの多くは、いまも日本人だというプライドを持ち続けています。曰く「最後は、日本人として死にたい」。悲痛な証言が法廷でこだましました。 
  
 1. まず、主権には領土主権と人民に対する対人主権があります。日本はサンフランシスコ条約で台湾に対する領土主権は放棄しました。しかし、台湾人に対する主権については条約には、なんら言及がありません。対人主権は放棄できないからです。    
 
2. サンフランシスコ条約に続いて、日本は中華民国政府との間で、日華基本条約を締結しています。台湾については日本が主権を放棄したこと、そして中華民国が実効支配していることを認めるという内容です。あくまでも中華民国の主権を認めたものではなく「実効支配」すなわち、「施政権」を認めるというものです。

これはアメリカが「尖閣諸島」が日本の領土だとは認めずに、日本の「施政権」を認めていることと同じです。 
 
しかし、領土主権については、放棄することは認められますが、対人主権については放棄することはできません。無国籍者の発生は禁じられており、それが国際慣習法となっているからです。すると、領土の法的帰属が決まっていない以上、台湾人に対する日本の潜在的主権は残っており、国籍は日本のままであって、台湾人は日本国籍を法的には喪失していないということになります。
 
3. 国連の世界人権宣言には、人民の権利として「国籍を奪われない権利」を規定しています。サンフランシスコ条約は、世界人権宣言の尊重をその前文においてうたっています。そのサンフランシスコ条約によって、世界人権宣言に反する効力を認めることは矛盾です。 
 
4. そして、日本国憲法には、出自において差別されない事が明記してあります。日本国憲法が発効した1947年の時点において、台湾人も本土人と同じく日本の国籍を有する日本人でした。1952年のサンフランシスコ条約の発効とともに、台湾人であるがゆえに、台湾人だけが日本の国籍を剥奪されるというのは、出自ないし出身による「差別」そのものです。
 
おおよそ、以上の点を論点として最高裁の判断を求めています。憲法問題としての論点は構成していますので、何らかの判断がなされるものと期待しています。
(R4/10/13)

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