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「ちえ」①「同級会」

高校を卒業してからの初めての同級会が、みんなが大学を卒業した年の夏に開かれました。

そこで「ちえ」と再会しました。

再会したと言っても同級会の最中に言葉を交わすことはありませんでした。

高校時代も「ちえ」と喋った記憶は、ほとんどありませんでした。

そんな「ちえ」に同級会が終わって、それぞれがバラバラになった頃に、思い切って声をかけてみました。

「ねえ、Kさん。同級生のSって覚えてる?」

「うん、覚えてるけど⋯」

「そのSがさあ、Kさんの予定知ってるって言ってたんだけど、なんか連絡とか取り合ってるの?」

「えっ、別に連絡とかしてないけど⋯」

「ふ~ん、じゃあなんでSがKさんの予定知ってるなんて言ったんだろう」

「私知らない」

これは、まったくの口からでまかせでした。

Sとは、そんな話をしていませんでした。

ただ「ちえ」に話しかけるきっかけが欲しくて言っただけでした。

お店を出てから「Kさんは、この後どうするの?」

「私は車で来てるから帰るけど」

「じゃあ俺も帰ろかな」

「T君ちって遠いんじゃなかったっけ?」

「うん、実家はね。でも、今はアパートで一人暮らしだから歩いて帰れる距離なんだよね」

「ふ~ん」

「ねえKさんって彼氏いるの?」

「彼氏?そんなのいないよ⋯」

「T君は彼女いるの?」

「いないよ。もし、いたら他の女の子に声なんてかけないから」

「ふ~ん、そうなんだ⋯」

「ねえ、彼氏いないんなら、誘っても良い?」

「えっ⋯」

「ダメかなあ?」

「ダメじゃないけど⋯」

「じゃあさあ、明日とか空いてる?」

「明日はちょっと⋯」

「じゃあ来週の土曜日は?」

「う~ん、空いてるけど⋯」

「じゃあ一回デートしてくれる?それとも俺じゃダメかなあ?」

「ダメじゃないけど⋯」

「じゃあお願いだからデートして」

「うん、分かった⋯」

半ば強引に「ちえ」をデートに誘うことに成功しました。

「じゃあ来週の土曜日の10時に迎えに行くね。おやすみ」

「あっ、T君って私の家知ってるの?」

「あっ!そうだっけ、Kさんの家知らないじゃん。バカだな俺も(笑)」

「Kさんの家ってどの辺?」

「私の家は〇〇だけど」

「あー、それならだいたい分かるよ。F小学校の近く?」

「うん、家から歩いて5分くらいかな」

「じゃあ来週の土曜日の10時にF小学校の前で待ち合わせで良いかな?」

「分かった⋯」

「じゃあね、よろしく」

「あっ、そうだKさんってなにか書くもの持ってる?」

「メモ帳ならあるけど」

「じゃあちょっと貸してくれる」

「これ、俺のアパートの電話番号。もし、嫌になった電話して。留守番電話に入れてくれても良いから」

「電話がないことを祈ってるけど(笑)」

「じゃあ、おやすみ」

と言って「ちえ」と別れました。

                                                                       つづく

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