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なぜ人は「カキコム」のか?

掲示板とは?

皆さんは「5ちゃんねる」を知っていますか?
旧2ちゃんねる。
今話題のひろゆきさんが立ち上げた、ネットの大きな掲示板です。
日本最大級の匿名掲示板で、毎日さまざまな話題でスレッドが立ってはカキコミがなされています。
この掲示板には、ある特有のルールのようなものがあり、合言葉のように使われる独特の言葉があります。
例えば、「今スレッドにきたのでこれまでの経緯を3行で示して欲しい」ということを表す「今北産業」や、言葉尻に「ンゴ」をつけるなど。
こういったスラングは、掲示板にカキコミをしたことのない人たちにも浸透し、使われることも多くなっています。
2ちゃんが発祥ではありませんが、今ほとんどの人が使っている笑いの表現「www」なども、よく2ちゃんで使われていたスラングです。
こうしたスラングとともに、仲間意識を生んできたカキコミの世界。
匿名の電子掲示板とはそもそもどんな特徴があるのか、そしてこの世界ではどんな仲間意識が生まれ、どんなスレッドが登場してきたのかについて探っていこうと思います。

ケータイ小説と掲示板

まず、掲示板の特徴を表すために、ケータイ小説と比較してみます。
ケータイ小説では、匿名の作者が小説を書き込むことで、物語が作られていきます。
これはブログに近いものでもありますが、コメントが残されることでエンディングに影響を与えられるのではないかと考えられます。少年ジャンプなどが使う、アンケートのハガキに近いものでもありますが、ネット上のカキコミの方が速度が速く、反映される可能性も高まるのではないでしょうか。
こういったネット上で表現されるもの、つまりケータイ小説は、従来の価値観でいうとFAXと重なります。
個人の創作あるいは経験談である古来の小説という文芸が発表の場をインターネット上に移しただけで、その本質はアナログと言えます。
つまり、カキコミによって盛り上がったり、ネット上で発表することによって掲示板に近い存在ともなりますが、結局のところネットか紙かの違いで片付けられてしまう可能性があります。

しかし、インターネット匿名掲示板サイトは自分の匿名の書き込みにより、新たなスレッドが立ち上がったり、そのスレッドの展開に影響を与えたりします。
2ちゃんねるではその速度が、前述したケータイ小説の比ではなく、盛り上がったスレッドなどでは1分1秒単位でカキコミがなされていきます。
会話がどんどん続き、流れが生まれる中で、スレッドを最初に書き込んだ人、ネットスラングでいう「スレ主」が思ったスレッドにならない可能性がでてきます。
舵取りはできても、エンディングまで思い通りに描くことはできない。
操作性が低い掲示板では、カキコミによって話がつくられていきます。


掲示板の特徴

テーマが決まったスレッドの中であっても、様々な話題がひんぱんに移り変わっていくのですが、それらのほとんどが「名無し」という匿名で書き込まれるのも特徴の一つです。
誰が書いても「名無し」という名で標記されるという、ある種、普遍化された匿名性が独特の軽みを生み出しています。
前述したカキコミによってつくられていくスレッドが、「名無し」たちによって書き込まれることで会話のスピードが格段に上がることが、この掲示板の「軽み」になるのです。

2ちゃんねる上では合言葉のような専門用語があることについて書きましたが、そういった側面から暗黙のルールが形成され、一種のコミュニティとして確立していくとともに、匿名、あるいは「名無し」という共通のハンドルネームを名乗ることによって、新しい参加者の投稿を増やしていくことにも成功しました。

また興味深い話題に対しては、それを投げかけた投稿者に対する質問や批判、アドバイスという形の気軽な書き込みが増えることになります。
匿名ながらIDが付与され、投稿に対しても投稿順の番号が付与され、投稿時刻も明記されることによって、ゆるやかな共同体意識も生まれます。

「カキコミ」はゲームプレイ

そして、その時々で話題の中心となっている投稿者の、現在そして未来の体験は、そのスレッドに集まる参加者や傍観者の疑似体験でもあって、それはゲームの主人公とゲームプレイヤーの関係に近いと言えます。
ケータイ小説でも書いた、カキコミによってエンディングを変えられるという可能性が、掲示板ではかなり高くなります。
なぜなら、投稿者は「今」体験していることを実況していることも多く、書き込むことでその人の行動を変化させることができるからです。
しかし、必ず変化するわけではないし、自分の思い通りに行くことは100%ありません。
主人公は人格と自由意志を持った人間であり、単なる操り人形ではないからです。
その絶妙なある種の駆け引きが、カキコミを促し、盛り上げる要因となると分析します。

なりすましによるフィクションや自作自演による演出という可能性も残してはいるものの、それを舞台設定として割り切れれば、主人公を取り巻く物語の展開そのものに、参加者はたとえ実際に投稿してもしなくても、その世界観に没入することができるのです。

掲示板から生まれたコンテンツ

そのような新しいコミュニケーションツールであり、新たなメディアでもあるインターネット掲示板「2ちゃんねる」に、古くからの「ボーイミーツガール」という設定のもと、参加者が昭和時代の少年ジャンプ以来の「友情・努力・勝利」という要素を無意識のうちに見出したスレッドが登場しました。

「731こと電車男」そのスレッドでの731番目から始まる一連の投稿者と、そのスレッドに集まってきてアドバイスや応援を重ねる住人たちの、731番の個人的なカップル誕生に至るまでの、一連のやり取りの記録まとめられで「電車男」として知られるようになる
伝説的とも言える物語です。

この客観的でもあり主観的でもある、ゲーム的要素を取り入れたマルチエンディングのデジタル的要素が、その時代とても新しかったのです。

自分のカキコミが、投稿者の行動を左右し、恋の行方を左右する。
体感しながら進んでいく恋路は、ロールプレイングゲームのようで、エンディングがハッピーエンドかバッドエンドが分からないからこそ、夢中になり、熱狂的なカキコミを産みました。
時間を忘れて経過を見守る過程は、まるで魔王を倒す勇者の戦いのようで、自分自身が投稿者の気持ちになりながら、スレッドに大量のカキコミがついたのです。

また、電車男以外にも「風俗行ったら人生変わったwww」という電車男と同じく映画化もされたスレッドも存在します。
リアルが伝わるスピード感、操作性の低いマルチエンディング、同じ言語を使う暗黙のルールに名無しの共同体意識。
それらを含めた掲示板の特徴が、人々を夢中にさせるコンテンツを生み出しているのです。

掲示板の危険性

しかし、掲示板では軽さが重視されるからこそ、大事な情報が流れてしまったり、面白さが重視されることによって根も歯もない噂程度の情報にレスがつくこともあります。
特に噂話に関しては、盛り上がりやすいという側面から大げさな話になったり、それが広がることによって誹謗中傷になることもあります。
特に掲示板では、恨みつらみから個人情報を晒すひと、個人情報を特定する人が現れるのも特徴のひとつです。
スピードが求められ、スレッドの盛り上がりに貢献したい人々が、話題の中心となる投稿者の情報や、面白いカキコミ出てくる人や物、場所を特定する人が出てきます。
しかもその情報をネットに開示してしまうことで、家を特定されたり個人情報をばらまかれたり、被害に遭う人も大勢います。
もちろん、特定にはルーツが分からない怪談話がどこの民話が発祥だったとか、何か分からない物が発掘された時にこれはどこの古代遺跡の一部だとか、大勢の知識によって学術的に良い方に進むものもあります。


まとめ

これからもコンテンツを生み出していくであろう電子掲示板だからこそ、規制も必要となってきます。
軽みを失わずに安全性を高めるにはどうしていけばいいかを現代の課題として取り組んでいくべきです。
私たちも楽しみながら一緒に考えていける教育などが施されていくことを願っています。

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