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右手と左手の役割

薩摩琵琶のような弦楽器を演奏するにあたり、弦を弾く右手と弦を抑える左手をいかにコントロールするかは常に考えさせられる問題です。

ヴァイオリンやギターなどもそうだと思いますが、薩摩琵琶にも当然右手左手、それぞれの役割があります。

右手の役割

薩摩琵琶は柘植や椿などで作られた扇形の撥を使用します。

短いもので七寸(約21cm)、長いもので一尺(約30cm)と他の撥弦楽器と比較すると大きな道具を使用します。
これは"薩摩琵琶を創始した島津忠良公が工夫した"、"侍が陣中で武器として使うため"など様々な説があります。

右手の役割は、この大きな撥を用いて音色やダイナミクスを操作するということです。
柔らかく弾く、強く弾くなどと言いますが、右手が持つ撥捌きで、琵琶から出る音は如何様にも変化します。

右手持ち手①
右手持ち手②

また、大きな撥は琵琶の腹板(桑の木で出来た硬い表板)を打ち付けることができます。
これを撥音と呼びますが、この撥音を入れたり抜いたりすることで、音に立体感が出ます。

音色と強弱、打音このあたりが右手に与えられた役割といえます。

左手の役割

一方、弦に触れる左手は音をミュートしたり、柱(フレット)を使って音階を操るために動きます。

薩摩琵琶の柱は朴の木で出来た高い柱が着けられていますが、この柱と柱の間の弦を引っ張ったり、緩めたりして音階を変えます。

左手下段


また、語りが入る場面では琵琶の音が出ないよう弦全体を左手でミュートします。

左手の弦ミュート

琵琶のメロディを操るために、様々な技術を要します。
ヴァイオリンや三味線は指板(棹)の上を動かして音階を変えますが、琵琶は柱の間で同じような効果を担うわけです。

右手と左手の関係

右手と左手の役割を定義すると建築で云う、意匠(右手)と設計(左手)に分別できると思います。

右手で琵琶の表現をデザインしますが、左手の音が正確でなければ、曲として成立しません。
右手と左手は曲を演奏するために使うといえど、役割は大きく異なるのです。

また、右手は見た目も含めて、琵琶の表現に大きな影響を与えるため、存在感があります。
私の所属する士弦会の宗家、普門院紫城先生の演奏を聴いた方の感想に多いのが、撥捌きに寄るところが多いのです。

掛け撥(弦を引っ掛ける)

左手は目立ちはしませんが、ここで琵琶の上手下手が出ると言っても過言ではありません。
薩摩琵琶を習い始めて、初めの内は右手の方にばかり意識が向きがちです。
実際、初めは撥づかいの練習が多いのです。弦をうまくヒットしないことには音が出ないため、当然のことです。

そして、ある日を境に左手の重要性に気付きます。
運指や余韻の変化、ビブラートなど、左手が思う通りにいかずスランプに陥る人もいると思います。

左手上段

薩摩琵琶は正確な音を出すのが、構造上難しい楽器ですから曖昧な音も味わいと言えば味わいです。
しかし、そこに甘んじてしまうのももったいない。
この葛藤が琵琶を弾く人間たちにとって、原動力にもなり得るわけです。

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