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【気まぐれポエム】

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時々気まぐれに書いたポエムをまとめています。
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記事一覧

朝影

カランカラン。
来店を告げる鐘の音。

日曜の午後にはボサノバが流れる店内に響き渡る。

食器が触れ合う音といつもの香り。
温かい湯気が乾いたそよ風を湿らせる。

緑溢れるテラス席へ通じる白い扉から、朝いっぱいの日差しが、屋内の大きなテーブル席を照らしている。

居るだけで心地よい店内をぼっーと眺める。

今日はカウンターのあの子がいないな。

だから、ボサノバが聞こえないのか。

まだ夢とこの世

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天を仰いだ日

玄関でいつものように鍵を握ると
いつもより重たく感じた。

鍵が重たいのか、手が重たいのか

そんな、どうでも良いことを考えながら
真意と逆方向のエレベータのボタンを押す。

昨晩の木枯らしに舞った枯れ葉を
ざわついた心で踏むと
沈黙を割る警告音が鳴り響いた。

冷たい匂いと灰色の地面に
耐えられなくなって
空を見上げる。

巨大な白い翼竜が飛んでいた。
巨大な卵を食べる瞬間だった。

どんな風に

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君のいない部屋

ドアを閉めながら、君を探す僕がいる

太陽の日差しが窓をすり抜けて
小さな虹がかかったベッドに横たわる君

温かい君のハートに頬ずりする僕に
君は長くて優しい毛を揺らすんだ

永遠に続くと思っていた君と僕の時間

寒がりな君に
木漏れ日を照らしてくれるのかい
雨嫌いな君に
傘を差してくれるのかい

君のいる場所は暖かい毛布がたくさんあるのかい

春になった僕の部屋はまだ少し寒いよ
君のいた場所に涼

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波打ち際の葛藤

あの手強い波を越えたら
最高な俺になれそうだ
この波に乗ったビッグな俺は無敵だな

雲がどんよりしてきたぜ
海水が冷たすぎて足が震えてりゃー
夜更かしのせいで変な欠伸とまんねーし

次の波はもっとビッグかもしれないぜ
どうせならもっとビッグになってやる

もう少し待ってみよう
ビッグってのは焦らねーもんだ

なんなら、もう少し
次の波まで、その次の

またアイツがピークかよ
俺が乗るはずだったのに

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彩雲

一歩一歩君に近づく
教会の鐘が連打する午後
足早に歩く並木道が白光のトンネルになる

そよ風が僕の魂を揺らすと
鳥たちが冷やかし、木の葉が拍手する

彩雲が照らすあの場所に君が待っている
水平線に辿り着けない、もどかしい波の音

教会が終わりの鐘を告げたとき
本当の僕に戻れる瞬間がやってくる

あの角を曲がれば、君がいて
あの角を曲がれば、僕がいる

ジェネレーション

尖ったナイフの先端で描いた文字が
雨に濡れて消えていく

高貴な花に集まった虫たちが
新たな宿探しの旅に出る

昨日のベンチに置き去りにされた
誰かの幸せの法則

雫のグラデーションが溶けていく
午後のミルクティー

抗うことのできない南風に映る
セピア色の雲

丘を下る私を追い越していく川の流れを
ただじっと見つめながら

あてのない遊歩道

憂鬱な空と地面がまだ繋がっている

スイスイと走行する車から湿った音が弾ける

オレンジ色のランプが薄暗く光る中

今日の目的をもった戦士たちが足早に駅へと向かう

あの人は帰還の傘を持っているだろうか

あの人は反対の道を選んでなかろうか

あの人の闘いはいつまで続くのだろうか

家に帰ったら久しぶりに濃いエスプレッソを飲もう

注文した覚えのない念いを書き消すくらいの

今という時空に彷徨う同

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浪人

気ままに暮らす旅慣れど
どこかに忘れた心を慕う

どんなに愛を育めど
いつかは別れる寂しさを

ただ流れゆくままに
ただ流れゆくままに

己の姿が映ることのない水鏡

ただ流れゆくままに

疲れた足を癒すのは
雲の無情を悟るとき

ああ、流れゆくままに

エネルギーフロー

バスケットボールが豪雨のように床に弾めば
ざわめく声に融合するホイッスルが身を引き締める

タータンを照らす照明の灯かりが暗闇に浮かぶ頃
心地よい涼気が走者の黒い汗を乾かす

勝者の歓喜が発光し、敗者の涙が浄化する
今日も明日も明後日も
繰り返し 繰り返し

透き通った渦巻が周囲を道連れにして
ほのぼの電流を放出すれば
散歩中の犬がまっしぐらに走り出し

長い間つぼみのままだった花が咲いたとき

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雨上がりの今朝

いつもの並木道を歩く

ふと空を見上げると
どんよりしたグレーの空に映りこむ冬の樹
風呂上りの子犬のようにしなだれた樹冠

常緑樹と落葉樹が共存し
新しい色を作り出す

いつもの道が、新たな道に変わるとき
体中の水分が私を揺さぶり、何かを呼び覚ます

湿った葉がこびりついた地面
足元に落ちていた奇跡
何十年ぶりかの石蹴りは三度目の飛距離で満足する

景色は騒がしい朝を描き始め、双子の赤ちゃんはバギ

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航跡を辿るとき

押し寄せてくる怒りの波は

憎悪の泡を生み出し

いつしか罪の花となる

何度も何度も繰り返し

やがて航跡の渦の中に落ちていく

暗闇の静寂に寄り添う

そっと そっと

薄雲に手を伸ばせば

一ミリの波紋のない湖面の底で

碇に繋がれていた自分を知る

水漏れの旋律

水道の蛇口から滴る水の音
ポタ ポタ ポタ

ちゃんと蛇口を締めたはずなのに
ポタ ポタ ポタ

昨日も同じことが起きた
ポタ ポタ ポタ

早く止めに行かなきゃ
ポタ ポタ ポタ
ポタ ポタ ポタ

でも、今日は少し待ってみる
鳴り止まない水の音

早く蛇口を締めなくちゃ
ポタ ポタ ポタ
ポタ ポタ ポタ

雫の音に耳を澄ます
あと何回落ちるまで我慢できるかな

メトロノームのように続く
音色

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不意なおしらせ

白髪も目立つようになってきた。
毎回染め直すのも面倒だし、自然にも逆らいたくない変な意地もある。
でも、やっぱり老けていく自分の姿が気にならないわけじゃない。
ちょっとはオシャレもしたい。

美容室の待合室のソファで順番を待つ。
私が望んでいた「メッシュ」を入れている女の後ろ姿。

「あんな感じのメッシュがいいけど、あんなに黄色っぽい感じじゃなくて、グレーっぽい方がいいかな」

心の中で、美容師に

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いつかの景色を夢見て

あの山頂までは、果てしなく遠く感じるから

道中に美しい花を探したり

毒キノコを発見したり

たまには、緑の匂いにつつまれて

時々、立ち止まって木漏れ日のシャワーを浴びる

あの山頂までは、果てしなく遠く感じるから

いつかの景色を夢見て

今は、今日の山頂を目指せばいい