不意なおしらせ
白髪も目立つようになってきた。
毎回染め直すのも面倒だし、自然にも逆らいたくない変な意地もある。
でも、やっぱり老けていく自分の姿が気にならないわけじゃない。
ちょっとはオシャレもしたい。
美容室の待合室のソファで順番を待つ。
私が望んでいた「メッシュ」を入れている女の後ろ姿。
「あんな感じのメッシュがいいけど、あんなに黄色っぽい感じじゃなくて、グレーっぽい方がいいかな」
心の中で、美容師にどうやって思いを伝えようか練習する。
美容師との会話は、なぜか緊張する。できることなら、あまり話しかけないで欲しい派だ。なぜだろう。カフェやスーパーの店員とは楽しく話せるのにな。
女の黄色っぽいメッシュの作品が終わろうとしていた。
その時、突然女が倒れた。
椅子から転げ落ちた女に驚きいた周囲が、ざわめく。室内全体のエネルギーが彼女に集中する。
誰かが近寄る暇もなく、周囲の視線も心配も無視して女は平然と立ち上がった。
「なんで今なのよ」
女は乱れた髪を整えながら、ブツブツと小さな独り言を言った後、室内を見渡してから声を張り上げた。
「この中に自律する者が二人いる」
女はそう言い切ると、待合室のソファの先にある出口へと向かった。
ソファで固まる私の方へ近づいてくる。
もしかして…
思いが過った瞬間、女は私の右肩に手を置き、私の瞳の奥を覗いた。
「あなたよ」
女は力強くそう言って颯爽と去っていった。
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