同僚の甘えを甘受する筋合いはわたしにはない。

 年度末を迎えて仕事のチームメンバーが2人とも辞めることになり、やりきれない思いを抱えている。20代の男子と、30代の女性だ。2人とも、実質数か月しか働いていない。

 わたしはとある事業を担当しており、その仕事は、イベントの企画から広告宣伝、集客、運営まで幅広く含む。それほど大きな予算を扱う訳ではないが、やることは多岐にわたる。

 うちの職場は少々特殊で、採用時にきちんと職分が決まっている訳ではない。入職してから自分で仕事を探し、形にしなければいけない事情があり、それができないと、いわば職場内で路頭に迷う。

 彼ら2人はそれぞれ昨年の秋と冬に入職し、ちょっとした事情を経て、わたしのチームで働くことになった。いってみれば、用意された仕事に「加わる」形となった訳だ。

 それでもこの事業も始まってそれほど経つ訳でもなく、今年度からが本格始動だ。彼らはちょっとしたスタートアップメンバーでもある。昨年の年度末には、3人でブレスト的なミーティングを行い、今年度1年の事業計画とそれぞれの担当業務を決めた。そして、今年度がスタートした。

 さて、20代男子だ。彼は6月の半ばから休み始めた。

 5月の半ば、上長から、彼が仕事をうまく処理できないと訴えている、と相談を受けた。このチームの仕事の他に受けた、webの仕事と両立できないというのだ。webの仕事は彼が後から個人的に引き受けたものだったし、それほど多くの業務量を分担してもらっている訳でもない。いぶかしく思ったが、能力のキャパシティの問題もあるので、事業のスケジュールを変更して、彼の時間を2か月空けた。

 ところがまたそのすぐ後、チームを抜けてwebの仕事に専念したいという申し出を受けた。専念するも何も、キャパが足りずに専念するなら、最初から入っていた仕事の方だ。しかも、彼が業務を担当すること前提で、スケジュールと予算を組んである。

 しかし、これはイベントの仕事だ。ルーティンでこなすペーパーワークでもなく、若干クリエイティブ。やる気を失った者に任せていい結果が出る訳がない。わたしはスケジュールと予算を試算し直した。とりあえず、彼が抜けても仕事を回せる算段はついた。その試算を示し上長と相談したうえで、なんとかなるけど、彼のことは若干嫌になった、と伝えた。

 それから彼が正式に抜けるか抜けないかをはっきりさせないうちに、別件でミーティングをしていた時だ。少し話が紛糾した場面で、彼は少し苛ついたのかもしれないしイニシアチブを取りたかったのかもしれない、突然切り口上で、「聞いてると思いますけど、チームを抜けようと思うんですけど」と言い出した。わたしもかちんときた。即答で「あなたが抜けても、チームの業務に支障はない」と告げた。

 その翌日から休み出した。鬱なのだという。専念したかったはずのwebの仕事も放り投げた。

 わたしも最初のブラック企業で鬱になって長く大変な時期を経たので、鬱には造詣が深い方だ。この程度の業務負担で鬱になるとも思えなかったし、晴れてやりたいwebに専念できることになったのに病む理由も分からない。かといって本人が鬱だというのを否定もできない。理解しがたくて、一時本当に悩んだ。

 しかし、彼の仕事の後始末をしているうちに、だんだんと飲み込めてきた。

 要するに、彼は、チームの仕事もwebの仕事も、できなかったのだ。でも、できない自分を認められなかった。自分の心の中で彼は、チームの仕事ができないのはwebの仕事があるせいにし、でもおそらく、webの仕事ができないのはチームの仕事があるせいにしていた。そこでわたしが、チームの仕事をゼロにした。彼はwebの仕事に直面せざるを得なくなった。逃げ場がなくなった彼は、病気に逃げたのだろう。

 彼にとって一番都合が良い道は、チームの仕事を完全に免除されることではなくて、簡単な仕事を与えてもらいつつ、どちらの仕事もできないのは仕方ないと自分に言い訳し続けられる状況を保つことだったのだと思う。

 30代女性の方は、もっと早く仕事から抜けた。産休だったのだ。

 そもそも、入職した時にはもう妊娠していた。それを知った当時の上長は腹を立て(彼も若干問題のある人だった。今はもういない)、わたしに、彼女をチームに入れるけれども仕事は与えなくていいと言った。要するにマタハラだ。でも、わたしはそれはおかしいと思ったので、彼女には、このチームで仕事をすることも違う仕事をすることもできると伝えたうえで、このチームで働くつもりなら受け入れる、と言った。彼女とて産休まで残り数か月だ。自力で自分の仕事を開拓することもできなかったのだろう。彼女はこのチームを選んだ。チームに入ってすぐ抜けることになるが、育休が明けたら復帰し、チームの仕事を継続することになっていた。

 しかし、彼女は戻ってこなかった。言葉は悪いが、数か月の労働で産休・育休中の給付金収入を確保し、挙句休み逃げ、もらい逃げだ。ついでに言えば、彼の方も、傷病手当金のもらい逃げだ。

 働き方についての本で、『人間は「あなたは大切な存在で、生きている価値がある」というメッセージを、つねに探し求めている生き物だと思う』という一文を読んだ。わたしはおそらく2人には、「あなたたちを一緒に働くチームのメンバーとして信頼しますよ」というわたしのメッセージに対し、「仕事で応える」というやり方で、わたしを尊重してほしかった。ところが彼らは、「仕事を辞める」というやり方で、「あなたのことはそれほど」というメッセージを送って返した。だからわたしは傷ついたのだと思う。

 しかも、2人ともそんなことをしておいて、それでもわたしが後はよしなに取り計らってくれる、それどころか自分たちの状況や判断に理解を示してくれる、くらいのことを思っていそうな(またはそう思ってその行動に踏み切ったような)空気が伝わってきて、げんなりする。残念ながら、わたしはあなたたちのおかあさんでも恋人でも友達でもないのだ。そんな都合のいい甘えを受け止める筋合いは、ない。

 わたしは彼氏に話を全部聞いてもらい、「わたしは彼らとパートナーシップを築きたかったの。でも、できなかった」と言った。彼氏は、「彼らはそれを理解するには若すぎるんだよ。あるいは、傲慢」とわたしに教え、「僕はそういうのよく知ってる」と、泣き顔の絵文字を送ってよこした。

 長いこと経営をしてきて、たくさんのスタッフを使ってきた彼氏は、そういうことがよく分かる。そしてやっぱり豊富な人生経験は、高齢男子の強みだ。「時間はかかる。でも、強くなれる」と言われたから、もういいや、頑張ろう、と決めた。はい、終わり!バイバイ!Pleas go your own way!

 

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