車の知識を身に付けたが、皆さまにはそれほど一般常識じゃなかった。

 ゴールデン・ウィークで読まれる方の数も減っているみたいだし、どうでもいいことを書こうかと思う。車の話。あの、いつもどうでもいいことを書いてはいますけど、そこは突っ込まないでください。

 彼氏とのデートに出かける時は、片道4~5時間延々運転しているが、大体その間は、前や後ろや隣の車線や、追い越していった車を見ている。そしていちいち、「あー、この青いハスラー遅い」とか、「このハリアー、ハイブリッドだなぁ……」とか、車の名前でカウントしている。普通車には時々分からないものもあるけど、軽自動車なら、まあ今無事に道路を走っているやつなら、名前は大体全部分かりますよ。

 これは完全に、結婚して車屋をやって身に着いた習慣だ。店で扱う車は名前(あとは色、もし重複するならナンバーか年式)で把握しなければならなかったし、お客さんと車の名前はセットで覚える。元夫と一緒に車に乗っていれば彼はいちいち「あの白いライフ」とか「そこのスイフト」とか話題にしてくる。しかも、「テールランプの形を見て、何の車か分かるようになって欲しい」と要求する。そんなの無理!と思っていたが、2年経ったらできるようになっていた。よくよく考えてみたら、日本のメーカーが出している車の種類なんてそんなにたくさんないし、日本で走っている外車なら、なおさら少ない。ドヤった顔で、「テールランプで見分けろよ!?」とか言われるほどのことでもなかった。

 とはいえ、結婚前はずっとペーパードライバーで、車に何の興味もない人生。元夫とのあるデート時、「紺色のセダンに乗って行く」と連絡が来たのに、理解できたのは「紺色」の部分だけだった、ということがある。しかも結婚した後で知ったのだが、その車はクラウンだった。もう、元夫が「クラウンで迎えに行くぜ!」くらい言いたいところを抑えて「紺色のセダン」とか渋く言ってきたのに、伝わったのは「紺色」のみ。さらに、車の褒めどころが分からなくて、「空調が快適」とか、褒めた。元夫もさぞ張り合いがなかったろうと思う。というか、なんでそんな張り合いのない女を、車屋の嫁にしようと思うかなあ。

 まあ、そんな張り合いのない女も車屋を2年やればいろいろなことを覚えるのだが、ところが離婚してから、どうやらこんな知識は皆さん別に身に着けてはいない、ということに気づいた。まったく知識がゼロだったところから車屋に入ったから、「わたし以外の人はみんな知ってる」と思い込んでいたのだが、そうではなかったのだ。

 どうやら一般の人は、自分の乗ってる車くらいしか興味がないのだ。一緒に車に乗りながら、「あ、ほら、あのフィット、あれ〇〇さんの乗ってる車だよ」とか「あのシエンタ、あの青いのが○○家の車」とか言っても、いまいち反応が薄い。ご縁の薄い貨物車だと、「軽トラ」でひとくくりだ。それが「サンバーかキャリーかハイゼットか」なんて、どうでもいいのだ。下手すると軽のバンも「軽トラ」扱いされる。「わたしの車、リヤワイパーないんだよね。買う時にオプションだと気づかなくて、元夫が付け忘れてー」と笑い話のつもりでしたら、そもそもリヤという言葉を使わない、と指摘された。ホイールがアルミかスチールか区別できない人もいるらしい(わたしも最初区別ができなくて信じられない扱いをされたので、みんな分かってるんだと思っていた)。それどころか、友人女子が新車を買う相談に乗っていた時、「ホイールって、必要?」と訊かれた(彼女は、ホイールは飾りだと思っていたらしい)。

 あ、そうか、「知ってて当然だろ!?」と放り込まれた世界の知識は、別に「知ってて当然」ではなかった。車屋の世界の一般常識は、別に皆さんの世界の一般常識ではなかった。やっぱり、ものを知らない、ということは、ディスアドバンテージだなあ、と思う。勿論、「車のことを何にも知らない」のも勿体ないことだが、「みんなが知ってる車のことをわたしは知らないと思い込んでいる」状態も、一種の盲目状態だよなあ、という気がする。自分の状態を、相対視できていない訳だから。まあ、わたしの身に着けた知識も、ヘンに偏っていたりするんだけど。スモールライトの点け方やハイビームの使い方は、この前やっと覚えた。セルフでガソリンを入れることは、まだできない。なんていうか、ボンネットの開け方を知っている、とかよりも、普通にドライバーする限りでは、そっちの方が役に立つよね、と思う。

 一般常識ということで言えば、アメリカでは鍵のかかっていないガレージに車を停めておくことはNGだそうだ。彼氏は一度鍵をかけ忘れて、車をすっかり盗まれたという。全部バラして持ち去るのだそうだ。警察から呼び出しがあった時には骨組みしか残っていなくて、諦めて手放したら、後日その車が道路を走っているのを見たという。警察もグルで、パーツを隠しておいて見せて、後でまた組み立てるんだって。だから、日本の車屋みたいに、露天に現車を展示しておくようなことは、あり得ないのだそうだ。

 そんなアメリカには車検制度もないので、彼氏は「車検って無駄にお金がかかる」と思っているみたいで、自分で陸運局に車を持ち込んで車検を受けているのだそうだ。「今度の車検、日本語で書類書くの、タスケテね」と言われて「okay」と引き受けたが、まあ大体手続きは分かるけど、でもこの人、自賠責ちゃんと自分で掛けてくるのかしら、点検整備簿はどうするつもりかしら、でも、前も自分でやったみたいだし、と、ちょっとハラハラしている。

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