デビルキャットは、日本にはいないんじゃないかな。

 週末彼氏のところに行ってきまして、またしても死ぬほど眠いので、今日は、高学歴と生涯年収の関係を考察するシリーズの続きをお休みして、肩の凝らない話をさせていただきたいと思います。ところで、高年齢彼氏には、ちょっと甘えて我が儘を言うとまともな意見で諭してくるのをやめて欲しいですね。そのくらい分かってんだよ、分かってて言ってんだよ、「I know」としか言えなくなっちゃうじゃんよ、このオトナめ、チクショー!そういうわたしも、それなりなご高齢です。

 さて本題。彼氏から、子どもの頃に遭遇した怖ろしいネコの話を聞いた。彼が表現するには「デビルキャット」だ。これからお話しするのは、彼氏とデビルキャットの、攻防の顛末である。

 彼氏がティーンエイジャーの頃、16歳か17歳くらいの時の話だそうである。彼氏はその頃、1匹のネコを飼っていた。さて、わたしは今まで彼氏のことを「外国人」とだけ表記して、何人であるかを明らかにしてこなかった。それは、彼氏は今まで複数の国を渡り歩いており(日本で4国目だ)、実はわたしも彼氏の国籍をよく把握していないという事情もある。また、彼氏の生国を明らかにしてしまうと、本人が特定されたりイメージがついてしまったりするのではないかという懸念もある。なので、この稿でもやはり「外国」とだけ書いておくが、まあ、彼氏も摩天楼の中で生まれ育った訳ではない。相当の、田舎だと思っておいていただきたい。なにしろ、駄獣としてロバが働いていたという国と時代である。そこで、ネコを飼っていた。

 そのネコを、夜な夜な襲いに来るネコがいたのだ。家人が寝静まる頃にそのネコはやってきて、彼氏の飼いネコに暴行を加えるのだそうである。毎夜彼氏のネコは泣き叫び、鼻先やらどこそこやら、流血の惨事となるのだそうだ。彼氏もそのネコを撃退しようといろいろ頑張ったのだが、そのネコもなかなか撃退されない。待ち構えていると姿を現さず、諦めるとやってきて狼藉を働くのだという。

 そこで彼氏は作戦を立てた。電気を使うことにしたのだそうだ。家の周りに電線を張り巡らし、かのネコが触れたら感電死するように仕組むことにしたのだ。日本でも、イノシシだのシカだの、畑を荒らす害獣対策にやるやつだ。彼氏と友達はこの作戦を思いついた時、「よし!ファッキン・グレイト・アイディアだ!」と気勢を上げたのだという。彼氏は電線で柵を作り、「近所の人が触って感電するんじゃない?」という家族の心配げな眼差しを背に、当該ネコの現れるのを、今か今かと待っていた。

 高鳴る胸を押さえて待ち構えていた彼氏の前に、夜半、そのネコは現れた。彼氏は物陰から、当該ネコの感電を、そしてその死を願い、息を殺して見守った。ネコはひらりと電線の上に飛び乗った。歩いた。そして何事もなく敷地内に侵入し、彼氏のネコを襲い、そして去ったのだという。彼氏が言うには、その電線には200ボルトの電流が流れていたそうだ。彼氏は「すごいパワーよ!人間だって死ぬよ!」と言うのだが、この稿を書くのにあたりどれだけ凄いレベルなのか調べてみようと検索したら、「感電死はボルトではなくアンペア」という記事に行きついた。どう判断したらいいのだろうか。

 いずれにせよネコは感電死せず、相変わらず彼氏のネコを襲い続けた。そこで彼氏はとうとう、当該ネコを銃撃することを決断した。友達からエアガンを借り、ネコの襲来を待ち構えた。そして、その夜姿を現したネコの尻をめがけて撃ったところ、尻に銃弾を受けたネコは、次の夜からやっと来なくなったのだという。「本当に、あれはデビルキャットよ!」というのが、この殺しても死なないネコのことを、〇十年経っても昨日のことのようにありありと語れる彼氏の述懐だ。

 わたしはこの話を、寝物語に彼氏の腕の中で聞いたのだが、死ぬほど笑い転げた。そして、「わたしはそんなデビルキャット、見たこともない」と告げたのだが、彼氏は「いるいる、一杯いる。日本にだって、絶対いるヨー!」と主張するのである。どうなのだろうか、「女の子はみんな vibrator 持ってる。日本の女の子だって、絶対そうヨー!」と主張する彼氏である、それと同様に一種の都市伝説、いや田舎伝説、なのではないだろうかと思うのだが、この稿をお読みの皆さまは、デビルキャットをご覧になったことはおありだろうか。わたしにはどうしても、日本にデビルキャットがいるとは思えない。また、ネコを撃退するために電線を張って電流を流した人も、日本ではまだ見たことがないのである。

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