意外と男の影響を受ける。みたい。

 元夫の影響を受けて変わったのは、車が好きになってそれなりに詳しくなった、というところが一番だと思うけれど、それはまあ仕事だったのだし、あと、食わず嫌いで尻込みしていただけで、多分もともと嫌いではなかったんだろう。バイクの中型免許を取るように強要もされていたけど、それについてはのらりくらりと確約を避けておいてよかった。だって、離婚したら絶対無用の長物免許になったから!

 好きな人にはついつい合わせてしまいやすい。バイクも免許こそ取らなかったけど、元夫とタンデムしてツーリングにはついていったし(それまでの人生に一度もバイクが登場したことはなかったにもかかわらず)、過去好きな人に連れられて競馬場に足を運んだことも何度もある(馬券を買わないのにもかかわらず)。しかし、元夫に何度指摘されてもブラジャーを変えようとはまったく発想もしなかったので、(あれ、ということは、やっぱりそれほど好きじゃなかったのかな?)と思う。そのブラは、某ブランドの、縫い目とかタグとかなくてソフトでベルトが幅広で着け心地最高で女の子に優しいけど色気がなく、元夫に「防御力最高」と言われていたやつでした。

 彼氏との最初のデートの前には、速攻で勝負下着を買った。その時買ったのは、ヨーロッパだかアメリカだかで今感度の高い人たちは着けているとかいう、パッドなしの一枚レース物の盛らないやつ、「抜け感ブラ」とかいうコンセプトのやつだった。その頃激やせしておっぱいも萎んでいたので、それほどホールド力がなくても問題なく、レースだけで覆われた小ぶりの胸は可愛らしく、(エフォートレスのいけてるわたし)くらいに悦に入っていた。

 ところがデートを重ね、体重も上昇基調で胸も順当な回復ぶりを見せ始めた頃、彼氏がそんな小洒落た女の自己満みたいな胸より、寄せて上げて盛って強調した胸の方が好きだと判明したのだ。「おっぱい大きいんだから、もっとこうぐっと出せばいいのに」と言う彼氏の言葉に耳を疑い、「え、あなたそういう方が好きなの?」と訊くと、「ofcource!」と言う。しかもショーツは、Tバックが好きだというのだ。彼氏はおじいちゃんだから、そういう分かりやすい女の色気が好きなのだ。家に帰ってから、速攻で、寄せて突き出すパターンのブラとTバックのショーツを買った。Tバックは、家で洗濯して干していると、母が「そんな履いてるんだか履いてないんだか分かんないようなパンツ」とディスる。さらに最近気が付いたが、彼氏はブラジャーどうこうより、ブラを着けていないナマの状態のおっぱいの方が、どうも好きだ。

 そういうベタな好みを明らかにした彼氏だが、メイクは薄い方が好きだ。わたしはもともと薄いメイクしかせず、化粧も15分くらいで終了する。ところが彼氏は、「メイクしない方がキレイなのに」と言う。え、あれか、ナチュラルに見えるメイクほど手間暇かかる、そして男はそれをノーメイクだとかナチュラルメイクだとか思ってる、っていう、あれか!?と思ったが、彼氏の家に泊まる夜は完全にすっぴんを晒しているから、やっぱり彼氏はトーコはすっぴんの方がキレイ、とそう思っているのだ。困った。わたしもいいお歳だからすっぴんを晒して歩くほど美に自信はないし、若い頃に無頓着で日焼け止めすら塗らなかった過去がたたって、そこそこシミソバカスにまみれているのだ。化粧は、したい。

 そこで熟考の末、色のつくローション、程度の軽いリキッドファンデーションを薄く伸ばし、それをピジョンのベビーパウダーで押さえることにした。あと少しだけチークを置いて、パウダーで眉を描いて、終わり。これでなんとか、すっぴんに毛が生えた程度に見てもらえるのではないか。その効果の程はよく分からないが、とりあえずその後は何も言われない。クリアしたようだ。

 彼氏のテイストで、身に着けるアクセサリーも変わった。ちょっとハードな、ごつい感じのものになってきたのだ。ある時同僚に、「トーコさんて、前からそんなの着けてたっけ?」と言われ、やばい、女は見るとこ見てる!と焦った。

 わたしは若い頃から白髪が多いので、今では染めなかったら坂本龍一教授くらいの頭になる自信があるのだが、1年前の春くらい、彼氏が「春だし、ライトブラウンが似合うと思う♡ちょっと goldish で♡」と言って寄越したことがある。え、ちょっと待って、ライトブラウンでちょっと金髪!?それにはちょっと困った。白髪はだいたい、薄い色は染まりが悪いのだ。しかも、日本で金髪にするには、ちょっと社会のメインストリームから降りるくらいの覚悟はいる。それでも、ヘアーサロンJ(行きつけの床屋)で、「もうワントーン明るい色でお願いします」というトライはしてしまったが、ライトブラウンには遠かった。

 そんな感じですので、この先自分がどんな人間になっていくのか、自信がない。もし皆さまに「金髪にしました」というご報告をした時には、「ああ、とうとう舵を切ったな」と思っていただきたい。あと、ピアスの穴が増えていかないように、特にボディピアスに手を出さないように、(なんかこの前、彼氏が意欲を示していた)気を付けたいと思います。

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