夫の金、あるいは男の金に、妻あるいは女がケツを持つこと。

 身ひとつで夜中に元夫の家から逃げ出してきて、その後慎重に、ネコ、自分の持ち物、車、ひとつひとつ取り戻してきた。ところが現在、押しても引いても動かない状態になっているのが、元夫の連帯保証人2件だ。

 調停に持ち込むまで決着がつかなかった問題は、4つあった。「①元夫がわたしの共済証書を担保にして借金をした件 ②元夫がわたしを連帯保証人にして事業用物件の賃貸契約を結んだ件 ③元夫がわたしを連帯保証人にして車両のリース契約を結んだ件 ④わたしが元夫を連帯保証人にして車両のリース契約を結んだ件」である。それぞれ、「①借金の一括返済をする ②~④連帯保証人を変更する」ということで、調停が成立した。①は少額だったこともあり元夫がお金を工面して返済して解決、④はわたしが期日通り連帯保証人を変更して解決、なのだが、②と③がまったく履行されない。

「連帯保証人って、変更できるの?できないんじゃないの?」と疑問を持たれた方もいらっしゃるかもしれない。すべての契約について知っている訳ではないので広汎的に断言はできないのだが、わたしのケースでは、できる。単に、保証能力のある新しい連帯保証人を立てて、契約し直せばいいだけである。保証人を失くする訳でもなく、契約を破棄する訳でもないので。問題は、契約者が自主的にそれを行わなければ契約は勝手に変わらない、というところにあって、連帯保証人が勝手に変える訳にもいかないし、貸主が勝手に変えてくれる訳でもない。要は元夫の自主性に任されている訳で、こんなことにマメで誠実な男ならそもそも揉めないのだ。動かないこと岩の如しである。

 調停条項に罰則規定を設けなかったことがつくづく悔やまれる。金銭のやり取りが絡んでいないので、強制執行で取り立てる訳にもいかない。「まだ迷惑をかけられた訳じゃないんでしょ?」とはどこぞの調停委員に言われた言葉だが(某芸能人が元妻に連帯保証人の件を暴露された際にも「別に迷惑をかけてはいない」と不快の意を表していたが)、言わせてもらえば、「連帯保証をさせられている時点で既に迷惑だ」し、「実際に金銭の迷惑がかかる事態になったらそれを返してくれるような男じゃないから問題」なのである。とはいえ、裁判所で調停を通して約束したのだから、当然履行するものだと思っていた。こういう男は、多分大金を損するか半殺しの目に遭うかくらいしか、行動のインセンティブがないのだろう。というか、そういう負の強制力がないと動けないというのも、なんか、人間として可哀そうだ。

 離婚後、DV被害者の集い、みたいなものに参加した時、支援NPOの方に「加害者はそういう風に、経済的な暴力をふるう」といった意味のことを言われたのだが、これは果たして経済的DVだったのだろうか。結婚していた時、別に、生活費を入れない、とか、妻に稼がせて自分が使う、とか、収入を隠す、とか、そういった類のことはなかった。生活費をすべて稼ぎ出していたのは元夫だし、すべてにわたって支払いをしていたのも元夫だし、まあわたしの給料は常に月5万円で不払いの時も多くてそのうちの半分は元夫の店を通して買った車の支払いに消えていったのだけど、そこから家計に入れろとかは求められなかったし、各支払いの実務担当はわたしだったのでお金の出入りは丸見えだったし、お金のことで苦しめられた、という実感は、それほどない。でも、気づいたら、借金の担保を提供して、連帯保証人になっていた。

 結婚マジックとでもいうのか、結婚前は「連帯保証人?やばい、絶対ない!」とか思っていたのに、実印作った時も親に「みだりに押すな」とか諭されていたのに、夫となった男に借金の片棒やら連帯保証人やら頼まれると、「えっ、はっ、はい!」とむしろ進んでなる始末。若いお嬢様方には「夫の連帯保証人には絶対なるな!」と訓示を垂れたいが、どうだろう、夫に「すまんがここに判を押してくれ!」と言われたら、「お断りだ!」と返せるか?そんな気概のある奥様は、そうそういないのではないか。それが支配の構図なのだ、DVのからくりなのだと言われれば、頷くことに少し迷ってしまう。金の苦労は夫婦で一緒に、という気持ちもあるし、夫の助けになりたい気持ちもあるし。支配、と断言するには迷ってしまうけれど、ちょっとここには、ジェンダーの傾斜はあるような気がする。逆のケースって、あまりなさそうだから。旦那さんは奥さんから連帯保証人を頼まれたら、むしろその契約自体をやめさせるような気がするんだけど、どうだろう。

 とは思うものの、結果的に、元夫はわたしを利用して欲しいものを手に入れ、離婚した後もそのメリットを手放しはしなかったのだな、ということは分かる(あの人、元元奥さんも連帯保証人だしね!)。もっと直接的な行為になると、「麻雀放浪記」でドサ健が博打の金を作るためにまゆみを吉原に売ったアレ、アレみたいなものだ。この間たまたまTVで映画を見て、「この野郎、いい加減にしろ!」と思ったし、なんかそういうところに、男と女の真実、とか、男の身勝手さと可愛さ、とか、女のいじらしさと母性、とか、ノスタルジックな憧憬を投影するの、やめましょうよ、とも思う。自分の女には何してもいい訳じゃ、ありませんよ。

 ところでうちの姉が疑問を呈したのだが、「そもそも、家計がひとつの配偶者が、連帯保証できるものなの?」。いや、わたしも改めて考えてみると不思議だ。わたしの場合は職場一緒のインカムソース一緒なので、元夫がコケたらわたしもコケる訳だから、保証になっていないような気がするのだが。連帯保証人のトラブルって多いし、結局自己破産して契約者も保証人も飛んじゃう、ていうのもよく聞くし、機能しているのやらしていないのやら。なので提案ですが、連帯保証人の制度は廃止して、保証会社一択にしませんか。履歴やら資産状況やら所得状況やらの情報のみで、本人の返済能力だけを審査する。誰かの借金に、他の誰かがケツを持つの、やめにしてもいいのではないかと思うのですが。

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