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【競争社会の乗り切り方】闘争領域の拡大/ウエルベック①

 ミシェル・ウエルベック『闘争領域の拡大』を再読しました。

あらすじ

 『性的行動はひとつの社会階級システムである』

『闘争領域の拡大』河出文庫 p116

 主人公は30歳のシステムエンジニア。頭脳明晰でエリートコースを歩み、経済的に恵まれた生活を送っています。一方で、恋愛面ではあまり恵まれていません。
 仕事の一環で、同僚のティスランと一緒に出張をすることになります。このティスランという人物が、とてつもなく異性にモテない人物なのです。
 出張先でナンパを続けるも女性に無下にされ続けるティスラン。それを横目で観察し続ける主人公。経済面だけでなく、恋愛面にも格差が広がってきたのだと社会の構造に思索を巡らせます。
 ところが客観的に物語を眺めていたはずの主人公が、徐々に狂い始めてきて、、、?というストーリーです。

感想

 人生は競争が煽られる場面ばかりですよね。学校でのテスト、就職活動、恋人探し、出世競争など、、、
 美味しい思いができるポストの空きは減少しており、競争は過激化するばかりではないでしょうか。
 どのように競争社会を乗り切るべきか?この作品からヒントを得てみましょう。

 完全に自由な経済システムになると、何割かの人間は大きな富を蓄積し、何割かの人間は失業と貧困から抜け出せない。完全に自由なセックスシステムになると、何割かの人間は変化に富んだ刺激的な性生活を送り、何割かの人間はマスターベーションと孤独だけの毎日を送る。経済の自由化とは、すなわち闘争領域が拡大することである。それはあらゆる世代、あらゆる社会階層へと拡大していく。同様にセックスの自由化とは、すなわちその闘争領域が拡大することである。

『闘争領域の拡大』河出文庫 p136

 闘争の前提となっているのは自由です。自由になるほど、パイの奪い合いが発生し、格差が拡大します。そして、自由は責任とワンセットで語られます。闘争の敗北は自己責任とされてしまいます。勝者は一握りに限られる以上、大多数にとっては望ましくない結果となります。

 自由は道徳的に正しい、だから多数の敗者が生まれることは仕方ない。この理屈は欺瞞です。既に存在する格差を追認し、弱者に責任を帰属させるためのレトリックに過ぎないからです。
 このようなお題目にハイハイと従ってはいけません。もしあなたが恵まれていないと感じるなら、その境遇はあなたのせいだけではありません。
 「親ガチャ」のようなスラングの広がりや転生系漫画の流行は、このような認識が広まってきている証左だと思います。

 だからといって、競争と無縁であることもまた非現実的です。好むと好まざるとに関わらず、競争に参加せざるを得ない場面もあります。
 次の記事では、どのようにして競争社会を乗り越えるべきかを書きます。

 この記事に興味を持っていただけたら、ぜひこちらの本も読んでみてください。おすすめです。


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