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論理思考には限界がある

 変化の激しい現代状況を反映してか、本屋のビジネス書コーナーに行くと論理思考のさまざまな書籍が積まれているし、次々と新刊が出版されている。たしかにビジネスにおいては、論理思考は必要だ。思考を整理し欠陥(飛躍)を見出したり、他者を説得したりする合理的方法だからだ。しかし論理思考には限界があるのも事実である。

 論理思考は、Aという前提からBという結論を論理的に導く(推論という)。これをA⇒Bと書く(AならばBと読む)ことにしよう。さらにB⇒Cが正しい推論ならば、A⇒B⇒Cが成立する。このようにして論理思考を用いれば、Aという前提(もっとも基礎になる前提を「公理」という)から、B、C・・・と多くの結論を得ることができる。(実際には複数の公理「公理系」から出発することが普通であるが、ここでは簡単のためにAという一つだけで説明した。)

  たとえば平面幾何学の性質(同位角は等しいとか、どんな三角形の内角の和も180度であるなど)は、たった数個の単純な公理系からすべて導かれる(これを示したのがユークリッドの幾何学原論)。とくにニュートンが発見した力学三法則(+α)から(これまた論理思考の産物である数学を駆使して)さまざまな現象解明がなされ、その結果として20世紀前半の工業的繁栄をもたらした。こうして論理的思考こそが社会を発展させる原動力であるかの誤解を生み出したと考えられる。

 しかし論理思考には致命的な弱点がある。それは「ある公理(系)から出発して得られる結論は総ナメすることができるが、別な公理系については何もわからない」ということだ。

 たとえば地球儀の北極から南下して、赤道で90度曲がってその上を進み、再び北極に向かって直進すれば、地球儀上に三角形を描くことができるが、その内角の和は180度を超える。これは球面上の三角形なのでユークリッド幾何学の世界とは別世界だ。だから平面幾何学における「三角形の内角の和は180度である」という結論に矛盾するわけでもないし、ユークリッド幾何学が否定されるものでもない。いってみればユークリッド幾何学が成立つ「島」と、球面図形の「島」とは別世界なのだ。そして論理思考は一つの島の中を網羅できるに過ぎない。

 ビジネスにおいても同様のことが成立つ。業界で成立つ「常識」と言われるものが公理系に相当する。いろいろな工夫も、この公理系に基づいて考えられる。たとえばトラック輸送の業界においては「多量の輸送需要が定期的に発生するところと取引する」のが常識だった。なぜならトラック輸送は満載しなければ利益が出ないからだ。だから工場から配送センターなど大口輸送のみを取り扱っていた。この「島」にいる限り、大口顧客の開拓、効率化によるコストダウン、競争優位な提案営業などが経営努力になるだろう。

 この「島」では、宅配便のような発想はけっして出てこない。なぜなら、いつ、誰が出すかもわからない小口輸送ではトラックを満載することができない、つまり利益が出ないというのが、この「島」での論理的結論だからだ。

 ヤマト運輸の故小倉氏は、この常識を捨てることから宅配便を開発したのだった。つまり小倉氏は「別な島」に移ることができた。それは論理思考では不可能なことであり、弁証法思考といわれる別な思考法なのだ。小倉氏だけではなく、まったく新しい商品やサービスを生み出した人々は、論理思考だけではなく(意識しているかどうかは別として)弁証法思考をうまく活用している。


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