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製造・販売が中止になったお菓子

ゴウンゴウンゴウンゴウン………

重厚な雲に閉ざされた暗黒の空の下、地表を覆い尽くす巨大な工場が、ライトアップにその威容を浮かび上がらせる。

煙突、配管、隔壁、通路、鉄塔……工場を構成するパーツは無秩序に果てしなく繰り返され、いまや一つの巨大な装置となって地表を覆い尽くしていた。

目的と意味を失った今もなお、それらは正体不明の稼動音を上げ続けているのだ。

嘗て人間の手で建造され、人間によって管理されていたであろうこの施設に、もはや人間の気配は無かった。

……否。

たった今、彼方の鉄塔から動いた二つの人影がある。
彼らは空中で切り結びながら自由落下を続けていた。
一人は、全身余すところなく金属光沢のある異様な男。ターコイズ色の肌、赤錆色の髪。その顔立ちは不自然な程均整が取れており、塵一つ無い白色のスーツに身を包んでいる。
もう一人は、蛍光ピンク色の髪の少女。こちらは白いタンクトップに黒レザーのジャケットとパンツという簡素な出で立ち。
上下逆さになりながら、男が音速で繰り出す拳を少女はブレード状の武器で防ぐ。その度に火花が散った。

「貴様が最後だ! もはや切り離されたこの空間に生身の人間が存在してはならぬ!」
「知るか! アンタはなんなんだ!」
斬撃が男の胴体を薙ぎ払う! だが攻撃箇所は流体金属のように歪み、まるで手応えがない。

「無駄だ!」
哄笑とともに再び拳が飛来する。少女は歯を食いしばり、両手で武器を支えて受けた。重い! 今の一撃で、刀身に亀裂が入った。彼女はそのまま斜めに弾き飛ばされるが、背後の配管を蹴って跳躍すると、そのまま居合の斬撃姿勢に入った。
「ハイ、ヤーッ!」
空中で刀身がバラバラに散った。

「何だと……!」
男が驚愕に目を見開く。その体は胴体から真っ二つになっていた。初めて手応えがあった。
「《エヴァーグリーン》が…なぜ…ここに……」
体の輪郭がノイズに飲まれ、男の姿は消失した。

壁を蹴り渡って勢いを殺し、クルクルと回転しながら着地した少女は、敵を切り裂いた己の獲物を見た。金属の刀身が砕け、その中から木刀のようなものが姿を見せていた。

食糧は無事だろうか。腰のホルスターを確認する。襲撃を受ける前と同様、数枚の丸型ビスケットが無事、収まっていた。シェルター内で育った彼女が、物心ついて以来食べたことのあるものといえば、これだけだ。

彼女の育ての親を含め、シェルター内のレジスタンスは、全員謎の消失を遂げた。それは、ビスケットに含まれる微量のウナギニウムという成分が原因ではないかと推測されている。

彼女が一人取り残された後も、ビスケットは食糧庫に無限供給された。だがある日、供給が突如としてストップした。そこで仕方なく、彼女はシェルターの外に出たのだ。初めて見る外の世界がこんなだったとは。そして襲撃してきた男は一体……。

「アタシは食糧が欲しかっただけだ」
独り呟いた彼女は、ホルスターからビスケットを一枚取り出すと、無造作に齧った。

その時、異変が起きた。彼女の身体の輪郭がぶれ、ノイズが走った。
「これは」
父親や仲間の姿が消失した際の記憶が蘇る。そして襲撃者の去り際。同じだ。

次の瞬間、彼女はこの世界から姿を消した。


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