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令和版粋なゲーマー養成講座:ダークサイド2:大惨事のあとしまつ

解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。ライトサイド2の続き。KP(GM)における上手下手の意識とか、時の流れに涙する老害とか、ヤバい世界とか。

文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ

ようこそ、私の研究室へ。


 さて、我々は前回、クトゥルフ神話TRPG(以下CoC)の拡大によって、動画配信者や同人シナリオが普及し、それに憧れたファンが完成度を求めすぎる弊害に関して、検討した。そこには、現在の若い世代の完成度信仰に基づく問題がある一方で、昭和世代の『ざつ』なタフネスや、平成世代とのジェネレーション・ギャップも明らかになっていった。ジェネレーション・ギャップを越える方法は、あるのだろうか? それはさておき、時代の激変がありすぎて、しゃれにならないんですがね? 

令和4年3月

激動の世界でも俺たちはゼリア飲み


 さて、無事に邪神系オンリー・コンベンションも閉幕。
 GMを頼まれた(なんかい・すきお、59歳)と色々知照(いろいろ・しってる。52歳)は、二人でゼリアでイタリア飲み(*1)。そこに主催者の少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳)が挨拶にやってくる(*2)

少々「本日もありがとうございました。娘も肩の力が抜けたようです」
色々「どうかなあ? ああいう成長傾向そのものは悪くないんだけれど、失敗したら、落ち込むから注意して上げて」(*3)

 しかし、スマホの画面を見つめたまま、返事をしない難解さん。

色々「難解さん、どうしたんですか?」
難解「いや、ロシアが装甲列車(*4)を繰り出した」
色々「ウクライナ侵攻。車列がスタックしてましたからね」(*5)

 この原稿の執筆時期は令和4年3月11日(*6)。
 リアル世界で色々ありすぎて、正直シンドイ。(*7)

難解「ぞっとするな。『ディプロマシー』(*8)やってた身からすれば、ロシアがクリミアやウクライナを失ったことへの恐怖は分かるが、戦争して取り返そうというのはいかんよ」
色々「なんで今、なんですかね?」
難解「戦争はいきなり起きない(*9)。これは想定されたスケジュールだよ。クリミアを取り、親露勢力を送り込み、兵力を配置し、北京五輪が終わるのを待っただけだ。命令書は半年前から準備されている。
 何しろ、『ディプロマシー』は、半年1ターンだからな」(*10)
色々「嫌な解像度の上がり方ですね」(*11)
難解「ドイツはエネルギーで交渉したから不干渉。中国とはツーカーなので、経済面で英仏米は手を出せない、核カードをちらつかせればバイデンは引くと踏んだ」(*12)
色々「シミュレーション・ゲームで学んだ地政学が、リアルな戦争の解像度を上げるのは、ちょっとシンドイですよ」(*13)

 そこで、少々は、はっとなる。

少々「あの、お店の手前があるので、あまり戦争の話は・・・」(*14)
難解「すまん。ここのサイゼに出禁は避けたいな(*15)。だが、これ、わしの本業にも関わっておってな、ニュースは分析したい」
少々「難解さんの本業って、IT系のエンジニアですよね?」
難解「ああ、まだ、コロナ(*16)が続いている上に、この戦争だ。色々、緊急仕事や、おかしな状況が重なっていてなあ」
少々「サイバーテロ(*17)とか、ハッキング(*18)とか?」
難解「アノニマス(*19)のハッキングで、ロシアの放送網がハックされて映像流されたやろ? あれで配信系は今、大騒ぎやで」
色々「サイバーパンク物のTRPG(*20)でよくネタになりますが、本当に出来るんですねえ」
難解「あいつらの技術力、なめたら、あかんわ。まあ、後、内部に手引きした連中がいるはずだ。ソーシャルハッキング(*21)とか、ヒューミント(*22)とかやってるはずだな。
 それより、某銀行系で、うちのトラブルもロシアのせいに出来ませんか? というジョークが流行っていてな」(*23)
少々「出来るんですか?」
難解「あんなスパゲッティ・コード(*24)、ハッキングするのが面倒だわ。何種類のOSが絡んでいると思っているのや?」

 一同爆笑!

少々「静かに!」

『大怪獣のあとしまつ』は見た?


難解「ところで、『大怪獣のあとしまつ』は見たか?」(*25)
少々「え? 見てないですが……」
色々「難解さん、好きですね、その話題」
難解「だって、ここまで滑った映画も久しぶりだろ! どう見たって、失敗作なのに、見に行って激怒した連中の怨嗟の声で炎上したんだぜ!」
少々「見たんですか?」
難解「ああ、見たよ。2日目の朝一でな」
色々「なぜ、2日目?」
難解「『シン・ゴジラ』(*26)のぱくりCMに、監督が『熱海の警察官』(*27)『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』(*28)などの三木聡(*29)が監督と脚本だぜ、滑るに決まっているよ。当然、見に行く予定もなかったが、公開2日目朝に、Twitterは炎上。
『難解さんなら見て解説してくれますよね?』
と煽る奴までいた。いや、覚悟して見に行ったよ」
色々「そこで行くんだ? 勇気があるというか。
 で、ここまでネタにするなら、面白かったんですか?」
難解「最初の10分間は面白い(*30)が、後はバラバラな作品で、ギャグは滑るし、面白くない」
色々「でも、見ると? ああ、忘れていた。
 難解さんは地雷を踏むのが好きなんだ!(*31)」
少々「静かに!」

ジェネレーション・ギャップに苦しむ老害世代


難解「1900円の価値ある映画かと言えば、まあ、100円ぐらいしかないが、ブログのネタ(*32)にはなったし、『見るぞ!』とTweetしただけで『見たら語り合おう』という同好の士(*33)が集まった。あの後のZoom飲み会(*34)は実に盛り上がった。1900円払って見て、カタログまで買った甲斐はあったな」(*35)
色々「まあ、何かDisる時に、必ず、言いますからね。
 やっぱり見に行った方がいいかな」
難解「文句言っていいのは、見た奴だけだぞ。それより早くしないと、上映終わるで。もうほとんどないわ。(*36)
 でもな、あれ、映画館で見たから、あれで済んでいるんや。家のTVで見たら、半分も行かずに消すな」(*37)
色々「うわああ」

 そこで、二人の会話を聞いていた少々がぽつりとつぶやく。

少々「いいですね。失敗作の映画に金を支払えるなんて」
難解「ど、どうした、少々」
少々「僕は怖くて、そんな駄作に金を払えませんよ」
難解「……」
少々「今の40代にそんな余裕、ありませんよ。梶理の教育費用を考えたら、2000円だって無駄にしたくない(*38)。あの就職氷河期(*39)を生き抜いた僕ですらこうですよ。洞窟入(どうくつ・はいる 43歳)なんて、ブラック企業で心を病んで無職ですよ(*40)」
難解「聞いたよ。居酒屋に転職したら、コロナで閉店(*41)。免許があったんで、今は配送業らしいな(*42)」
少々「昭和の人は、失敗が出来るんですが、今の僕たちは、失敗のリスクが大きすぎて、臆病になっているんですよ」

 日本経済の低迷は、平成に親になった世代に大きな影を落としている。いつの間にか、サイゼリアのマグナム・ボトル(*43)が空になっていた。

難解「すまんな。……ってか、お前も昭和生まれやろうが!」
色々「老害扱いされた・・・」
少々「すいません。愚痴が出ちゃいました」
難解「お前も苦労しているんやなあ」
色々「梶理ちゃんの完璧志向も、それの反映かもしれませんね」
難解「失敗できない、の範囲が高まっているんやな」 

緊急事態!


 そこで、難解さんのスマホが鳴る。メールが着信したようだ。

難解「あ、俺、帰るわ」
色々「どうしたんですか?」
難解「うちのひろこと、そこの真弓(*44)が映画を見に行ったらしい」
少々「まさか?」
難解「あれだよ、あれ。真弓が激怒しているらしい」
色々「難解さん、楽しそうに語ってましたからねえ」
難解「ここに来るらしい。あ、これ、俺の分な」

 席を立つ難解さん(*45)。

少々「素早い!」
色々「逃げ足が速いのも、いいエンジニアの素質(*46)だそうですよ」
少々「そんなものですかね? しかし、あの人、よく結婚できましたね?」
色々「ひろこさんが押し込んだらしい」
少々「意外に豪腕だな」
色々「決め台詞は、『今年30になるんです』だったかな」(*47)
少々「責任とって! じゃないんだ」
色々「しかし、あの人が結婚できて、なんで俺は独身なのかな」(*48)
少々「結婚は勢いですよ? 高子(*49)さんといい感じだったじゃないですか? どうしたんですか?」
色々「あの時、『ゲームと私、どっちが大事なの!』って聞かれてさ」

 とっぴんぱらりのぷぅ。

解説っぽい何か

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