Through

「何故もう既に死んでいるのだ、どういうことか?」
「将軍、この国は軍事国家ではありません、
なので兵は皆無なのですが、それにしても一体どういう事なのか意味がわかりません。」
「殆どの死体が笑顔だ、一体どうなっている?」
「既に眠るように死んでいる者もいますね、服毒自殺でしょう。」
「へっぴり国民共め、それにしてもこれでは我軍の士気が上がらぬではないか、
これでは訓練にすらならん、兎に角生きている者は皆殺しにしろ、
国王の首を取ったら引き上げるぞ、これでは戦争ではなくて侵略ではないか、」
えっ違うのですか?」
「だまれ!行くぞ!」

そして軍隊は王宮へと向かった。


王宮にて

「国王陛下、既に国民全てに瞬間即死薬が配られ、
既に殆ど今頃は来世にて陛下をお待ち申し上げている頃と存じます。」
「そうかご苦労だった、国民はそれで納得してくれたのか?」
「はい、国王陛下と共に来世へと旅立つのです、皆喜んでおります。」
「私がもっと力があり軍を率いて敵国と戦う勇敢な王ならばこんなことにならなかったのかもしれぬな。」
「いえいえ、国民は皆幸せに暮らしておりました。
平和のまま来世へ苦もなく旅立てるのですから、この王様のアイデアには皆賛同しているのです。私個人の見解では敵国が攻めた後我々の姿をみると戦の愚かさ、無駄さ、無意味さを実感することでしょう、
戦争好きは戦争好き同士で勝った負けたと一喜一憂していれば良いのですから、それに我が国が戦争の愚かさを知らしめるという大義を果たすという意味でもこれからのこの世の未来に平和の一歩を築く礎となるのです、
さあ急いでお飲みになって下さいませ。」
「いや、君は先に来世へ行ってくれ、私には敵軍に用があるのだ、
なあに、唯話してみたいだけだ、これはこの世での最初で最後の命令だ。」
「畏まりました、では来世にて、、」


王宮では王と敵軍の将軍が対峙している

「将軍とお見受けしました。、何故戦や侵略がお好きなのですか?
苦しめて楽しいのなら残念でした、そして御期待に沿えなくて申し訳ありませんでした。」
「バカにするのか虫けらめ、惨めに切り刻んで犬の餌にしてやる。」
「はい、お犬様の餌にして頂けるとは恐悦至極にございますな〜〜」
と言って王は薬を飲んだ。
目の前に怒り狂って真っ赤になった将軍の顔があった。


「うわっ、」
「目覚めましたねこれで治療の第一段階は終わりです。
ストレスというのは色々な臓器に影響するものでして貴方の場合はどうやら心臓にストレスが襲って来る様です、しかも直撃ですなあ、
なのでこの様な妄想を観て頂いた次第です。
想った事を口に出すと倍返しが怖いので我慢する、
そうしているうちに自己表現が下手になりやがてそれすらも出来なくなる、感情を飲み込むと臓器に負担が掛かると言う次第です、
では第二段階へと参りましょう。」
「いや、その必要はありません、もう大丈夫です。
お陰様であらゆるストレスの原因が体を素通りして何も感じなくなった様です、呼吸困難も起こらないでしょう。」
「そうですか、分かりました。又会社でしんどくなったら来て下さい、
第二段階の妄想も面白いのでお薦めですよ、少しだけ内容をお話しますと、あなたは将軍のもとで働いている傭兵と言う設定です、
今までの将軍の蛮行に我慢できなくなった貴方は王宮で拾った瞬間即死薬を使って何をするのか、
叶わぬ相手でもせめて一太刀浴びせようとするのか、第一段階の様に怒らせて安楽死するのか、何もせずに安楽死を選ぶのか、実に興味があるのです。瞬間安楽死薬に加えて武器を持って将軍に逆らえる状況が第一段階とは違うところでしょうか、いずれにしても安楽死してこちらに戻るという訳です。」
「私なら既に隊を離れて逃げているでしょうね。」
「なる程、貴方らしい選択ですなあ、逃げた後のストーリーも新たに加えてみますので又の来院お待ち申し上げております。お大事にどうぞ、」
しかし私は再び治療を受けることとなった。


それにしても酷い連中だ、侵略に成功したからそれで良いではないか、
奴らときたら戦争には犠牲が付き物だと言って見方である我々を抹殺しようとしたのだから、更に口封じに全員殺しにかかったって訳だ、
決められた俺達傭兵への報酬を奴等で山分けしようって腹なのだろう。
俺は必死に逃げ延びて山奥に隠れた次第だ、
それにしてもこの国は温暖気候でフルーツは美味いし川は綺麗だし、
やはり平和な国家だったのが良くわかる、
ここで木の実でも食べて行けば十分に生きていけるだろう。
おや、誰か近づいてくるぞ、あれは小隊長殿ではないか、
しかもかなりの深手を負っている様だ。
「小隊長殿も逃げて来られたのですね、」
「ああ、何とかな、しかし部下たちの事が気になる。何とか部下達を逃す為に盾となって戦ったのだが、あのエリート特殊部隊の連中にはかなう訳が無い、何とか死んだふりをして命から柄ここまで逃げてきた次第だ。
それにしても部下達の事が気掛かりだ。これでは死んでも死にきれん。」「ご立派であります小隊長殿、」
「立派なものか、部下を守れ無い隊長なんぞ、、」
銃声が近づいてきたこれで俺達もおしまいだろう。
しかし良いものがある、この国の王宮で拾ってきた瞬間即死薬だ、
ちょうど2錠ある、これを小隊長殿と飲んで仕舞えば楽になる筈だ。
しかし少隊長殿はこんな無責任な死を望まないだろうが、ここは嘘を吐くしかない。
「小隊長殿、痛み止めであります。この薬を飲めば少しは楽になるでしょう、さあ奴等に見つかる前にこれを飲んで逃げるとしましょう。」
これは驚きだ、飲んだ瞬間に息を引き取った。
俺が殺したようなものだが、苦しまれるよりは良いだろう。
さあ俺も薬を飲むとしよう。


どうやら私は眠っていた様だ。
「お目覚めですね、これで治療の第二段階は終了です。
これで言葉の暴力やらでの内臓への負担は皆無となった筈です。
言葉の暴力というのは人の人生をダメにするものでして、
例えば同じ過ちを繰り返させるコツはその過ちを言葉で責め立てれば良い訳です。『又やらかしやがって、何度言ったら分かるんだ。』、とかね、
これでダメ人間一丁上がりと言うわけです。
まあそれはそうともうお一方隣にいらっしゃる方もそろそろおめざめです。」
隣のベッドで目覚めたのは勤務している会社の社長だった。
「もしかして社長でおられますか?」
「君はうちの会社の社員かね、ここに来ていると言うことは仕事上のストレスなのかね?」
私は会社での事を話してしまった。
「そうか、会社というものは大きくなると細部にまでは目が届かなくなるものだな、こんな情けない事が社内で行われていたとは、と言ってももう私は社長では無いのだよ、重役会で辞職勧告を受けたのだからね、
専務が呼び付けた一流大学出のエリートか何だか分からんが、
彼らがコンサルタントとしてやってきて、
今までの下請会社との契約を切ってもっと安価な下請にする様に言ってきたのだが、
私は猛反対した、会社の設立当時から世話にまでなった優秀な職人達のいる下請会社なのだからね、
しかし彼らは『そんな甘い馴れ合いだから利益が上がらないのだ』と言い張って来て、速攻更迭、辞職という事になったのだよ。
私はどうなっても良いのだ、今までの下請が契約を切られて路頭に迷うのが気掛かりでならんのだ、彼らは本当に良い仕事をしてくれる国の宝と言っても過言では無い、そんな心配がストレスとなって心臓発作で倒れてここに運ばれたらしいのだよ。」
医師が尋ねる。
「責任感が御強いだけに掛かってくるストレスも大変です、ところでご気分は如何でしょう?」
「何故かスッキリしてる、しかも別なやる気まで出て来たみたいだよ、
こうなったら会社を捨てて今までの下請達と新会社を作る気が出て来たよ、小さな会社から始めてみようかとね。」
「それは前向きで素晴らしいお考えです、どうでしょうお二人共、
今からもう一度このベッドで治療しませんか?これで更に先に行ける筈です。」

我々は同意して治療を受ける事にした。


「御目覚めかな」眼前に老人がいる。
「あの薬には解毒剤があってのお、まあ君は生き返ったとう言うわけじゃ。
一緒にいた人も同様だ、かなり深手を負っていたが既に完治しておる。
後他にも数人保護したのだが君の仲間じゃろう。」
そうなのか我々の小隊は隊長はじめ全員保護された様だ、
そして我々は再会を喜んだ。
ここは何処なのか老人に尋ねてみた。
「君達が侵略した隣の国じゃよ、陸続きなもので御近所の様なものだ。」
私は奴等が再び数多の傭兵を従えて近いうちにここも侵略するだろう事を伝えた。
「ワシらは良いのじゃ、ワシらの体はあの薬を飲んで数日後には肉体も消滅する、
侵略された隣の国民も同様だ、今頃は既に消滅しておる筈じゃ。
君達アクア種とは違うのじゃよ。
そしてわしらウエーブ種は新たな世界へ行くことができるのじゃ、
言わば死というものはないのだよ。」
しかし私は放っておけない気がして奴等の侵略を食い止める約束をした、
私には考えがあった。
海岸には既に奴等が傭兵達を従えて上陸済みだった、
私は夜になるのを待って傭兵達の野営キャンプの適当な小隊のテントに入った。
そして一芝居打つ事にした。
「なあ、オカシイと思わなねえか?
味方の死体はあるが敵さんの死体が一つも無い、
それにこれをみてくれ、味方の兵士の死体の側にあった銃弾だ、
驚いた事にこれは我が軍の銃弾じゃあねえか、
そこで察するに将軍一派がやったのじゃあねえかと踏んでいる、
俺達傭兵の報酬を奴等で山分けする算段なのかもな、
だとしたら俺達も皆殺しにされる。
まあ考えてみてくれ、じゃあな、」と伝えて私は戻った。
そして小隊長と仲間に作戦を伝えた、皆の賛成を得た。
老人もその話を聞いていたらしい。
「この薬を実行前に飲むと良い、これは苦痛が全く無くなる薬じゃ、
やられると分かっていても突進できるのじゃ。
それに君達アクア種はこの世界には長くは居られないのだ、
ここは我々ウエーブ種の世界なのだからのお、
そして悔い無きように思い切って元の世界に戻るが良い。」

我々は奴等のキャンプにいる。将軍が壇上で攻撃の説明をしている様だ。
「同志諸君、これより我々は総攻撃を行う、
敵兵はかなりの強者達だと聞く、前の国もそうだった、
諸君も見てきた通り我々は粗壊滅に近い犠牲を被ったのだ」
その時我が小隊長が叫んだ、
「嘘だ、前の国もこれから攻撃に向かう国も兵士などいない、
あんたらが我々の報酬を山分けする為に仲間を皆殺しにしたんだ、
そしてこれからもそうしようとしているんだ。」
「貴様、ヌクヌクと生きておったのか、その通りだ、
この国の攻撃なら我々幹部だけで十分だ、
何せ非武装民達だからな、今から貴様等全員には死んでもらおう。」
「そうはさせるか、」 
私達は銃を構えて将軍達に向かって突進した。
将軍達のマシンガンに比べ我々のは猟銃程度でしかない、
勝敗は決まっていた。
砂嵐が如く私の体を無数の銃弾が襲う、しかし痛みは全く感じない、
どうやら他の傭兵達も後方から将軍達へ銃弾を浴びせているようだ、
しかし私の体は既にバラバラの肉片と化している筈だ、目も見えない、睡魔の様な心地よさが襲ってきた、

「はい、お疲れ様でした、これで治療はお終いです。」
目の前にはドクターがいた、隣の社長も御目覚めの様だ。
社長は開口一番「君は定年はいつかね?」
「はい、明日で定年退職致します。」
「ならば明日の務めが終わって落ち着いたら我が家に来てほしい、君とこれからのビジネスの打ち合わせをしよう。」
「はい、私ごときでよろしければですが。」
「これも何かの縁だろう、ここで治療を受けたのだ、何等かの才能が芽生えたかもしれんな」

私は今日で定年退職となる、会社に着くなりいつもの若い社員がやってきた。
「おい、3日間てめえが休んだせいでこちらに皺寄せが来たじゃねえか、
落とし前助けてもらおうか。」
「有給を使ったまでだが悪いかね?」
「てめえ最後の日だからって言いたいこと言いやがって、」
「そうだ、いじめる事しか楽しみの無い君のような人間にはつくづく同情するよ。」
「てめえ、」若い社員は私のネクタイを締め上げ床へと投げ飛ばした。
不思議にも怖くも痛くもない、やはり私は変わったのだろう。
若い社員は蹴りを入れ始めた、そこで警備員がやって来て事態は終息した。
警備員室にて私は軽い治療を受けていた。
「それにしても酷いことをするものですなあ、
ところで今の出来事は防犯カメラに保管されてます、
実はこれは新社長の命令でしてね、
まあ細部に至るまで把握しようという事なのでしょう、
なかなかご立派な心掛けですなあ。」
私は直感的にそれは違うと感じていた。
それが的中したのは数日後だった。
動画サイトに例の防犯カメラの映像が投稿されて大反響となっていたのだ、
さらに社名まで公開されていた、
さすがに顔にはモザイクがかけられていたが、
視聴回数もとんでもない数となっていた。
バラエティ番組にまで取り上げられた。

社長室にて、部長が謝罪していた。
「新社長、この度は誠に申し訳ございません、私の監督不行き届きでこんな大ごとになってしまい。」
「いや、いいんだよ、人間なのだから色々問題は起こるものだよ気にすることはない、
今から私は記者会見に赴かねばならないのだ。」

記者会見にて、
「この度の不祥事にて世間をお騒がせいたしました事を深くお詫び申し上げますこれも旧体制の会社体質がこの様な不祥事を招いたのでしょう、よって部長以下この部所、及び加害者である社員を採用した人事課の全社員を解雇処分といたしこれをお詫びとさせていただきます。」
「全員解雇ですか?厳しすぎませんかね?」
「いいえ、いじめという人類の恥が弊社で行われた事に対して断腸の思いでの厳しい処置であります、この様な古い体制を変える為にも私は前社長には辞めていただいた次第であります。」

私は約束通り社長宅を訪ねテレビで記者会見を見ていた。
「社長、あの映像を投稿したのはきっと新社長でようね、
これは私をスケープゴートにして各部署をAI化しようという計画なのでしょうか?」
「そうかも知れんな、あの節約好きな専務の考えそうな事だ、
ところでそろそろマスコミがこちらにやってくる頃だろう、」
案の定玄関先にはマスコミがごった返していた。
「社長、新社長の会見は御覧になられましたか?」
「はい、新社長のおしゃるとおりです。
裸一貫から会社を大きくしたもののそれにより細部にまで目が届かなくなったのは事実であります、真にお恥ずかしい次第であります。」
「ではあなたが解雇されたのは?」
「はい、事実であります。当然の報いとして真摯に受け止めておる次第であります。」
「ではこれからは御隠居生活ですか?」
「いいえ、新社長から契約を切られた下請会社と共に新規事業を打ち立てる所存でございます。
彼ら下請会社には設立当初から世話になっております。
しかも国宝級の腕利き職人の集まった会社であります。
そこで彼らと小さな会社を設立します。
この無駄に広い屋敷を売却、貯蓄、へそくりに至るまで全てを投資に充てる所存であります。」
「また、そのお歳で思い切った御判断ですね、全て注ぎ込むとは、、」
「この新会社は、決して手を抜かず材料等も決して節約せず最高級なものを国宝級の職人達の手でつくっていく、
当然お金も時間もかかりますが最高の商品をお約束します。」
「お屋敷を売却なさって何処に住まれるのですか?」
「婆さんと私二人だけなので初心を楽しむ意味でも安アパートにでも住もうかと考えております。
孫が遊びに来るにはちと狭いのが残念ですが、、」
このインタビューがテレビに放映された途端に、この新会社への出資者が次々と名乗り出てきた、
更に仕事の注文もさっとうした、注文は政府要人や主に皇族からのものが殆どだった。

私に関する話はもう既に無い。そしてあえて登場会社の職種も記載していない、
これ等の事態は何にでも当てはまるのではないだろうか。

波から見れば観測可能な世界は本当に微細な世界に過ぎない。
目覚めている時の現実と言われている認識の世界は夢という波の世界から見ると極めて狭義な世界だ、
如何せん夢の中では死んだ人と一緒にいても何の不思議も感じないのだから、その位矛盾の方が多いのだから、
睡眠を考えると矛盾が脳に溶け込む様にすれば直ぐにでも睡眠、やがて夢の世界に入ることが出来る。
目覚めている時の世界での疲労を考えてみると、世界が狭いから疲れるのだ、とも考えられる。
「死んだ人が生きている?そんなバカな、」という世界で人は疲労する。
「時間は存在しない?そんなバカな、」「そんな事言ったってそんな筈ない、」
ここから出て自由を得る等と大げさなことではなく、単に狭い世界での疲れを取る事に過ぎない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?