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老いらくの恋 第15話

日本国憲法に恋しています。
第14話に続いて、憲法のはなしです。今回のテーマは「憲法改正」です。
皆さんはこんな事を聞いたことありませんか?
『日本国憲法は、制定されてから70年以上経っても一度も改正された事がない。こんな憲法は日本だけだ、おかしいじゃないか。』
『憲法改正のハードルが高すぎる。憲法第96条の規定は 
“憲法改正には各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会に提案して承認を得なければならない。さらに国民投票で過半数の賛成を必要とする” 
これでは激動する世界情勢に対応できない』

まず、憲法改正のハードルが高いとの指摘ですが、第14話で示したように、ハードルが高い(硬性憲法)からこそ、最高法規であり、憲法なのです。
憲法は国民に遵守を求めるものではない。国家権力を名宛人とし権力者(総理大臣、国会議員、公務員)に、遵守を求めるものです。権力者にとっては都合の悪いものです。
だから、憲法改正の動機は権力者の権力集中を狙いとすることが多い。
例を挙げましょう。
第一は2020年のロシアの憲法改正です。
この改正で、「現職大統領および大統領経験者のこれまでの任期は、2期までとの制限がはずされた。この結果プーチン大統領は2024年で任期ぎれになるところを、さらに2期(12年間)まで延長する事が可能になった。また、元大統領の不逮捕特権も追加された。プーチン独裁化に利用された。

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第二は中国“習近平(シー チーピン)”国家主席の任期延期。
国家主席の任期を2期10年までとする規定を、憲法改正で撤廃した。
この結果、2022年で終わるはずの習近平国家主席が2023年以降も継続されることになった。
ここにも権力者の行動パターンが見て取れます。

ロシア憲法は硬性憲法か? 硬性と軟性が混ざっています。ある条項は硬性で別の条項は軟性です。上記の改正は軟性でした。
硬性憲法だといっても安心はできません。上記2020年のロシアの憲法改正では、国民投票を必要としなかったが、あえてプーチンは国民投票を実施し圧倒的多数で承認を得ました。徹底的な弾圧を行って、承認を得る事に自信があったからです。言論の自由の必要性が確保されねばなりません。

ついで”96条改正の動き“ について話します。
日本国憲法で硬制憲法を定めているのは第96条です。これが邪魔でこれだけを撤廃しようとの動きがありました。これを主張したのは安倍首相でした。またこれを支持する人もいました。
これらから言えることは、日本人の中には“独裁政治”を求める人々がいることです。

『日本国憲法には国民に義務を課する条項が少ない。だから個人主義が横行する』こんなことを聞いたことはありませんか?
確かに日本国憲法で、国民に“義務”課すのは「教育の義務」「勤労の義務「納税の義務」のたった3件だけです。国民に義務を課すには法律ですみます。
では憲法を変えてまでしないと出来ない義務とは何でしょう。私はたった一つだけと思います。それは「徴兵」の義務だけです。「徴兵制度を導入したいから」憲法を改正する。これをあなたは望みますか?

次の本に移ります。
題名は「憲法と言う希望」です。
著者は 木村草太(そうた) 首都大学東京 法学教授です。
対談として 国谷裕子 NHK「クローズアップ現代」でキャスターを務めた方です。
この本は、先に紹介した「憲法主義」より、地味な印象があります。
第2章に 人権条項を生かす
第3章に 「地方自治」は誰のものか
などより具体的な問題をあつかって、詳細な論が語られています。学生向きかも知れません。
この印象をほぐすために、簡単なエピソードを紹介しましょう。
木村草太(そうた)さんは、南野森(しげる)さんに、ちょっとコンプレックスを感じているようです。
「南野さんは森とかいて“しげる”と読む。かっこいい。一方私は草太とかいて“くさった”と呼ばれかねない。」冗談でしょうが人柄がにじんでいます。

将棋が趣味で、棋士の中村太地7段と親交があります。中村7段は首都大学東京で法学特別講義で非常勤講師を務めた事もあります。

憲法という希望

実は、この本で一番「目からうろこ」の思いにいたった事があります。
それを紹介します。

みな当然のことに思っていると思う(私もそう思っていた)ことに、首相による衆議院解散権です。
首相が好き勝手に衆議院を解散してよいとは、憲法の何所にも書いてありません。
関連する条項は、憲法第96条です。

内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、または信任の決議を否決した時は、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職しなければならない。


つまり、内閣が信任を得られなかった時だけ、衆議院を解散できるのです。
アメリカの大統領は絶大な権限を持っているが、下院を解散することは出来ません。
日本の首相はアメリカ大統領より強い権限を持ってしまう。
だから、政争の種が尽きない。時の権力(首相)は世論調査などで自党有利な時に衆院解散選挙を実施してきました。
このことが、日本の政治を劣化してきた原因だと思う。議員はいつ首を切られるか分からない状態に置かれているのです。だから内閣の意向を過度に意識する。
日本と同じように議員内閣制をとっている英国は、法改正(憲法改正ではなく)内閣不信任のとき以外は解散できないようにしました。(2011年議会任期固定法)。しかし、最近この法律を廃止しようとの意見もあります。
功罪色々あるが、議員が落ち着いて議員本来の仕事に精出させるにはどうしたら良いのでしょう。

もう1件、議員の質を下げる制度があります。
それは「政党交付金」です。
政党交付金は総額の2分の1が議員数割合いで、残りは得票数割合で交付される。総額は315億円です。無所属議員には交付されません。
このお金は、党の幹事長のもとに預けられ、幹事長の意向しだいで使い道が決まる。多分大部分は選挙対策費になるのでしょう。結果、党幹事長の権力が異常に高くなる。議員は幹事長の意向を忖度することになり、議員間の自由な論議を妨げます。
2019年7月参院選挙広島で河井案里氏に渡った1.5億円はこの政党交付金から出たと思われます。
各党の離合集散した際に、交付金はどの党に交付されるかの問題も生じます。

日本の国会議員数は702名です。315億円を議員数でわると、一人4500万円になります。
衆議院議員の歳費は約1600万円です(通信費などは除く)。私は、この政党交付金を全額 議員歳費に計上すればよいと思う。合計で約6100万円です。これは高いでしょうか。私はそうは思いません。
政党交付金を廃止する事で無駄な仕事が減ります。交付金の配分計算、交付作業、政党が離合集散したさいの配分計算など、言うまでもないが上記の仕事は何の付加価値を生みません。優秀な国家公務員をこんな下らない仕事で忙殺させてはいけません。

今回は、随分退屈だったでしょう。
次回の老いらくの恋は、ガラッと変わって女性作家について紹介します。楽しくなるはずです。


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