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『チ。―地球の運動について―』が今一番面白い漫画だと力説したい

ニュートンの言葉に、「天体の軌道は計算できるが、人々の狂気は計算できない」という言葉がある。

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まあそのとおり。絶対的ルールに従って動く天体と違って、人々の考えや心理はいくら計算しても完璧に理解できるものではない。だから今でも多くの人文系の研究者が、人々の考えを理解しようと研究を重ねている。

でもちょっと待て。ニュートンだって、彼一人で天体の軌道を解明し計算したわけではない。ニュートン以前の多くの研究者たちの、血のにじむような努力と、狂気にすら感じられるような研究への情熱があったからこそ、ニュートンが天体の軌道を計算できたのだ。

ということで今回紹介する漫画は、狂気じみた情熱と探究心をもって、天体の軌道を解明することに命がけで挑んだ科学者たちの物語。『チ。-地球の運動について-』だ。

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『チ。-地球の運動について-』は、現在「ビッグコミックスピリッツ」で連載中の魚豊(「うおと」と読む。鱧ではない。)先生による漫画。
15世紀のヨーロッパを舞台とした、当時科学的・宗教的に主流であった天動説に背き、命をかけて地動説を研究した学者たちが主人公のストーリーである。

こう聞くと、歴史や天文学の知識がないと楽しめない固いマンガのように思えるかもしれないが、そんなことは全くない。

『チ。-地球の運動について-』は天文学をテーマにした難しいマンガではなく、自分の信じるもののを貫く人々の狂気と信念を、めちゃくちゃかっこよく描いたマンガなのだ。


『チ。-地球の運動について-』の登場人物たちは、一般的な意味での魅力溢れる人々ではない。というかぶっちゃけ、周りにいたら友達になりたくないタイプの人間だ。

たとえば第1部の主人公ラファウは、パッと見は爽やかで優秀に見えつつも、心の内には子供じみた全能感と傲慢さを抱えた嫌なやつ。

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第2部の主要人物であるバデーニは、「自分が地動説を証明できないなら過去の地動説に関する研究資料はすべて燃やす」とのたまう、自己顕示欲の塊な嫌なやつ。

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他の登場人物もたいてい似たりよったりで、主人公サイドなのに人格的に優れた人はほとんどいないのだ。

なのに、『チ。-地球の運動について-』のキャラクターたちは全員、とんでもなく魅力的だ。それは彼らが、自分の信じたものに対して、命の危険を犯してでも、まっすぐに向き合おうとしているからである。

彼らが生きている時代は、科学と宗教が密接に結びついた時代。宗教的に認められた学説は天動説だけだったし、地動説を研究するものは、神の教義に背く異端者として、厳しく罰せられた。

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だが、拷問や処刑のリスクを犯してでも、ラファウやバデーニは地動説の研究を進め、天体の運動に関する真理を突き止めようとした。それは彼らが、地動説によって説明される天体の軌道を正しいと、そして美しいと感じてしまったからだ。

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この、キャラクターたちの性格難と地動説に対するひたむきさのギャップが、『チ。-地球の運動について-』の登場人物たちを魅力的にしている。地動説の持つ魅力に見入ってしまったラファウやバデーニのように、私達もまた登場人物のもつギャップに、どうしようもなく心惹かれてしまうのだ。


そんな魅力的な人物が数多く登場する『チ。-地球の運動について-』は、現在コミックス3巻まで発売中。そして6/30には第4巻が発売予定だ。

「マンガ大賞2021」では2位にランクインもした話題作。ぜひこれを機に読んでみてはいかがだろうか。

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