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網走3日目①: 現地で目視することが大事、なにごとも

最終日の朝9時27分。私は網走バスターミナルの中で呆然と立ち尽くしていた。

宿のチェックアウトも済ませて持ってきたバックパックが余計に重くなるのを感じた。
荷物を預けてしまって空港に向かう前に戻ってくるかどうかは、宿を出る直前まで悩んだ。普段の旅ではそうする事が多い。
でも今回の場合、宿やバスターミナルがある市街地よりも最終日の目的地である網走監獄・北方民族博物館がある天都山エリアの方が女満別空港に近い。動線からして市街地へ戻るのはタイムロスだった。復路は19時台の便だったので、夕方頃に網走監獄から国道へ出て空港行きバスに乗るのが最適だと判断した。博物館であればロッカーも完備されていた。

私は決して方向感覚が鋭い方ではない。
でも、極度の方向音痴かと聞かれたら、実際そうでもないと思う。行きの道で覚えておこうと思えば何に頼るでもなく同じ道を辿って帰るし、地図も読める。目印になる建物などがあれば何となく歩いて到着もできる。使い慣れない国内外の大きなターミナル駅での乗り換えも困ったことがない。ただ、知らない道を迷って歩きたくない時にはスマートフォンで位置情報を確認しながら歩くようにしている。GPS機能に頼り出したのはまだガラケーを持っていた頃からのことだから、もう20年近くは文明の利器に頼って歩いていることになる。

この網走旅を改めて振り返っても明らかであるように、施設の営業時間や交通機関の乗り換えも私はGoogle Mapを使って調べる。普段からそうだ。地元の最寄バス停や駅の時間も掲示物ではなく検索して見ている。その方が、後の乗り換えや徒歩の所要時間を加味してくれたりするから便利だ。依存をしていると言っても良いくらい使う。

特に網走監獄や北方民俗博物館を巡る「観光施設めぐり(天都山方面)」ルートは1日に4本しか走っていなかった。それを前日のGoogle Map検索で知っていたから、朝一番の9時34分発を狙って、少し早めに、すべての荷物を背負った状態でバスターミナルにやって来たのだった。

前日に調べて保存していたスクショ

所定のバス停に予定の10分前になってもバスが現れないことに嫌な予感がした。バスターミナル始発のはずだから乗務員と車体が待機しているはずだった。

情報は無いか、とバスターミナルの中に入ると、求めていた答えは直ぐに見つかった。

③観光施設めぐり(天都山方面)

9時5分。30分前に出発済みだった。
10時55分。次来るのは約1時間半後だ。

あーーーー。


改定している。
改定しているというか、空港行きと観光巡りの行だけ貼り付け表示になっているのを見ると、季節による積雪状況や観光資源の増減によって柔軟に調整されていると見るのが正しいだろう。

言うまでもなく完全にこちらの落ち度だった。

GoogleMapもバス会社も悪くない。
知っていた。Google Mapの情報は完璧ではない。特に個人店や地方の交通機関は、都市部と比べてユーザーが少ないから変化があっても修正される機会がどうしても少なくなる。公式の視察が管理している場合もあるだろうけれど、それもまた利用者が多いからこそ費やされる労力だ。
最新情報かどうかは目視で確認るしかないことは知っていた。

改定後の時刻表を前に、私は走馬灯のように、初日このバスターミナルに到着した日のことや、2日目も何度か前を自転車で通り過ぎたたことを思い出した。

一時間半時間を潰すという可能性にも考えを巡らせたが、そうすると残り3本しかないバスの時間と噛み合わなくなってくる。北方民俗博物館からオホーツク流氷館へは徒歩移動できるが、そこから網走監獄へは徒歩48分かかる(これもGoogleMap調べ)。

「GoogleMapを過信せずバス停の時刻表を直接見ろ」に匹敵する諺は知らないが、「時は金なり」、「タイムイズマネー」という言葉ならよく知っている。

「バスがないならタクシーに乗れ」という意味である。


Google Mapから直接リンクが出ている配車アプリ

そこからの切り替えは早かった。

バスターミナルのベンチに荷物を下ろし、GoogleMapに表示されているタクシー配車アプリDiDiをタップし、早速ダウンロードを始めた。利用するのに必要な個人情報を入力して、目的地を入力する。最初は北方民族博物館だ。

なんで表示した?


設定や時間帯の関係で実は使えるのかもしれないが、手間取っている暇は無い。
大都心の交差点でもあるまいし流しのタクシーはそう簡単に見つからない。
タクシー会社の電話番号を調べて迎車を依頼することも考えたが、私の今のスマホの契約はいわゆるかけ放題ではない。もっぱらアプリ経由の通話で電話をかける頻度が少ないから、かけた分だけ料金が発生するうになっていた。
駅にタクシー乗り場があるのではないか。駅にはまだ行っていなかったし、これを機に立ち寄るのもいいだろう。網走駅までの道は大通りで繋がっていたはずだ。徒歩15分圏内なら行こうじゃないかとまた検索をする。

DiDiちゃんはいま黙って?

巡回してるように見えるタクシーのアイコンはなに?


やかましい

網走駅まで、歩くには地味に距離があったけれど、頭を整理するのにはちょうどいい時間だった。

GoogleMapのバス時刻が必ずしも信用出来ないとなってくると、夕方に乗るつもりだった女満別空港行き国道沿いの天都山入口バス停の時刻を確認し直さなくてはならない。
ここはまだ市街地だから駅に寄ったり迎車したりすることが容易でも、山の裏のバス停でそう簡単にタクシーを呼んで乗れるとは考えにくい。空港で夕飯を食べるため早めのバスに乗るつもりだった。予定が崩れて空腹のまま夜の羽田に戻るのは何としても避けたかった。

駅のタクシー乗り場に着くと、客待ちをしているハイヤーの車体が何台か見えた。助かった。

せっかく予定外の出費をするので運転手さんを質問責めにした。ありがとう運転手さん。


Q. 北方民俗博物館からオホーツク流氷館への移動は?
A. 坂を登ってすぐ。歩ける。

Q. そこから網走監獄へ歩くのは?やっぱり無理?
A. ちょっと無理。おすすめ出来ない。

Q. 網走監獄から女満別空港までタクシーだと大体いくら?
A. 5000円以上はかかる。

Q. 桜はもう咲いた?
A. 桜が今ちょうど見頃の季節。ソメイヨシノではない。

Q. 今の季節でも行ける観光地で博物館以外おすすめはあるのか?
A. 能取湖は絶景(昨日自転車で行ってきました)。モヨロ貝塚が有名(一昨日歩いて行ってきました)。

今日の予定博物館だけ?夜のフライトまで時間持て余さない?
と逆質問されたが、博物館には何時間居ても楽しいので問題ないと答えた。

有難かったのは、網走ではタクシーもバスも、PayPayなどのQR決済が搭載されている事だった。バスはSuica等の交通系ICカード非対応であっても小銭に気にせず気軽に乗れるし、タクシーでも財布からクレジットカードを取り出す手間もない。おまけにアプリ内に旅のあいだの決済履歴が残ってちょっと嬉しい。

駅から最初の目的地・北方民俗博物館へは10分足らずで到着した。料金にして1570円。
タクシー運転手のおじさんに別れを告げ、いざ!

※以下、博物館内の展示の写真は積極的に載せません。是非現地で実物をご覧下さい。


北海道立北方民族博物館

噴水もオフシーズン?

来たかった!!!!

アイヌ関連の展示物が大好きだ。
東京国立博物館はもちろん、札幌や函館へ行くと必ずと言っていいほど博物館には立ち寄ってしまう。そしてこの北方民俗博物館では、北海道アイヌの他、ニヴフ、ウイルタ、イヌイト等、様々な民俗の文化を学ぶことが出来る。
特に印象的だったのは北極側から見た北部各国の地図による文化間共通点の納得性、それから知恵や意匠が凝らされた衣服や住居。民族毎に対比されているのが分かりやすくて面白かった。寒い冬をストレスなく過ごすためのおもちゃが豊富にあったというのも興味深い。さすが北海道立のボリュームで見応えがあった。入館料550円(公式サイトにクーポンあり)、音声ガイダンス貸出無料、ロッカー無料。
そんなによくして頂いていいんですか……

遊歩道案内図

遊歩道への誘導がありがたかった。
450mの間に休憩施設が3箇所も設置されているとある。ただのベンチが3箇所に備え付けられているだけだった。

オホーツク流氷館

よく見たら自転車置き場がある


ここに来た最大の目的は流氷体験だ。

マイナス18℃の世界で実際に今シーズンオホーツク海から引き揚げられてきた流氷に触れることが出来る。凍るタオルも体験出来て、入口前でコートと一緒に濡れたタオルをお借りできた。フレンドリーな職員さんで「何度でもどうぞ!」と声をかけてくれた。
寒さについては仕事で冷凍倉庫に入ることもあるので、そのままそれと同じ感じだった。が、仕事中に濡れたタオルを振り回すことはないのでちょっと楽しかった。

キタキツネとアザラシに自慢しておく。

カチカチじゃなくてしっとり固まるんだなぁ
差し出されてもきょとんてなるよねぇ


流氷体験以外にも、オホーツク海がいかに特殊な環境下で流氷が生まれてきているのかという解説や、ちょっとした海の生き物展示もあって楽しい。温暖化の影響で流氷が見られるのも限りがあるそうなので、早めの冬にまた来る必要がありそうだった。

屋上は展望台になっている。網走湖を見下ろして、昨日あんなところ走ってたのか…と感慨深くなった。

左が網走湖で、右奥は能取湖?

そしてご当地ソフトクリームノルマ。売店で売っている。

あまじょっぱいのは正義

キャラメル味にオホーツクの青い塩がかかっている。強めの甘さに、目がカッと開いた。

流氷館の窓口で時刻表を再確認させてもらい、朝乗り逃した1日4本の観光施設めぐりバス線に無事乗車

そしていよいよ…
この旅最大で最後の目的地……

博物館 網走監獄

刑務所前の川と鏡橋まで再現されている

もう、遠目に門が見えた時点で嬉しい。

早速入場券を買って中に入りたいところだったが、昼食はこのタイミングしか無かった。チケット売り場すぐ目の前の監獄食堂。刑務所献立をイメージしたメニューが食べられる。

ラストオーダー14時台

博物館外ではあるけどSNS情報だと食後の再入場も可能の様子。

食べざるを得ない

ホッケ定食。麦入りご飯と全体的に味が薄めで質素。刑務所献立なのでそりゃそうであり、食事の味を楽しむならカレーや蕎麦が無難っぽいのは言うまでもない。でもこんなの食券機に並んでたら押しちゃうでしよ……

来たよアシリパさん……(cv小林親弘)
序盤なし・2冊ずつのゴールデンカムイが入った本棚


博物館の中については、もう、感無量としか言いようがなかった。
ゴールデンカムイの作中に出てくる姿そのままが目の前にあることにいちいち感動する。特に五翼放射状平屋舎房の迫力と言ったら無い。作中に主人公の2人がが出入りして、しばらくのあいだ別れることとなった天井の硝子をしばらくじっと見上げていた。オタクなので……
栄華を極めた富豪や王朝が作った城でも何でもない明治時代に建てられた監獄であるのに、何故かどこか美しいと感じさせる。放射状に伸びる五本の廊下と牢はそれぞれほぼ同じ作りだったが、つい端から端まで歩き渡ってしまった。

改めてここに載せる必要がないくらい漫画そのままなので詳しくはゴールデンカムイ13巻と14巻をお読み頂くか、現地で確認してもらいたい。

復元移設された建物と囚人人形と少しの解説があるだけなのかしら、という想像は見事裏切られた。
北海道内刑務所と北海道開拓の関係、その過酷さ。刑務所の機能や現代に至るまでの変化も知ることが出来る。どれも残酷なほど理にかなっていた。近代日本の急速な発展の縮図を見ているかのような錯覚も覚えた。博物館として申し分のない、充実の情報量だった。


網走監獄内で最新バス時刻を見つけ、指さし確認した。

時刻改定も問題なし!ヨシ!


次回、網走旅行記最終回はバス停に行って待つだけの話です。

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