ままの日記は見ちゃいけない

ぼく、ままがすき。でも、ままはままだから、ぼくはままのことをままとしてしか見ちゃいけない。
人間には、いろんな顔がある。あの人はぼくのクラスメイトだけれど、どこかで知らない誰かと笑って、例えばどこか知らない夫婦の子どもをしたりしてるのだ。
ぼくだって、ままの前では、ぱぱの前では、子どもでしかいられない。友だちとしてのぼくの姿とか、店員としてのぼくの顔とか、ぱぱとままとは知り得ない。
でもぼく、見ちゃった。ままの日記。ごめんね
それを書いているのはままなのに、その文字を綴った彼女は少女なんだ。ぼくはままの、ままでない顔を覗いてしまった。禁忌だ
ごめんなさい。
覗いたことをままは知らない。彼女はしらない。少女は知らない。知らないまま、また文字を綴る。
犯した禁忌が刺さるでも、重くのしかかるでもなく、濡れた袖のように不快な感覚を、心臓の端の方にもたらしていく。

ごめんね、まま、もう見ない

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