こじらせ女子の初彼氏
※プライバシー保護の為、一部フェイクを混ぜています。今思い出すと私が狂いすぎてて、全部フェイクであって欲しい。
中学、高校に続き、またしても私は女子校に留まってしまったので、ぼーっとしていたら恋愛らしいことが何一つなく1年目が終わってしまった。
このままずっと独り身なのかもしれない。
そんな不安と彼氏が欲しいという欲求は日に日に強くなっていった……
そしてとうとう、大学2年の夏、
私に念願の彼氏ができたのである。
中学から女子校に通い、雌ゴリラのようなツレとウホウホゆるく楽しいカレッジライフを送っていた私に、舞い降りた奇跡だった。
この時、私は初めて神様っているんだな、と思った。
彼はタカシくんといい、バイト先の友人が紹介してくれた同い年の大学生だった。
友「彼氏いたことないの?!紹介するよ!」
私「…!!!(嬉しすぎて言葉にならない)」
友「どんな人がタイプなの?」
私「…………」
私は男の子との交流が小学生の時点で途絶えていたので、この時まで私は自分の好みのタイプというものをまったく考えたことがなかった。
私の中での男の子とは、わたしよりも華奢で鼻水を垂らしながら大きな声でう○こと叫びながら走り回ってケタケタ笑ってる。そんな生き物だった。
苦心の末、私がオーダーしたのは、
・できれば男性
・う○こと言わない人
この2つだった。
友人は目を丸くして驚き、仕事中にもかかわらずゲラゲラ笑っていた。
私は、笑う友人を見ながら、私のような恋愛未経験女が、こんな高望みするのはダメだったかと思い、条件を訂正した。
・できれば男性
・う○こ以外の言葉も喋る
友人の笑い声が止まることはなかった。
そうして、紹介されたのがタカシくんだった。友達は、連絡先教えるから2人で会ってくればと言ったが、私は土下座をする勢いで絶対に付き添ってくれと頼んだ。
タカシくんと初めて出会ったのは、バイト先近くのファミレスだった。
私は2人っきりで話すことは絶対に無理だと確信していたので、友達に30分前に来てもらった。友達と話していれば緊張が解れるかと思ったのに、ずっと指先が氷のように冷たかった。
「どうも。はじめまして」
背後から男性の声がし、
私は緊張で魂が抜け落ちそうになった。
日に焼けた肌にシンプルな顔立ち。男性の髪型はよく知らないけど、角刈りに似ていた。
タカシくんは男性だし、人語を解す。
まさに私のオーダー通りの人物だった。
その時、私は友達とタカシくんの会話を聞くのが精一杯で、ほとんど話せなかった。
それでも一生分男性と接した気がした。緊張しすぎて何を話したか全く思い出せないし、呼吸の仕方も忘れた。陸にあげられた魚の方が、この時の私よりもきっと上手く息してたと思う。
LINEは交換したが、なんとなくもう会うことはないだろうな〜と思った。二度とないであろうチャンスを棒に振った自分に悔しくてたまらなかった。
ところが、帰りの電車でiPhoneを見ると、
「今日は楽しかったです!今度は2人で遊ぼ。」
という文字が輝いていて、
私は、この人と結婚するのかな?
と思った。
こうしてタカシくんと私は、
2人でお祭りに行くことになった。
お祭りデートなんて、ずっと駄作のゆる系ギャグ漫画みたいだった私の人生では絶対に起こらないイベントだと思っていた。
お祭り当日、私は浴衣を着て行こうと思ったが、あまり気合を入れすぎたら引かれるのでは…?と思い留まり短パンとTシャツにした。
夕方、駅で緊張しながら待っていると、短パンとTシャツ姿のタカシくんがやって来た。
服装が奇跡的にほぼ同じだったため、
私はまたしても結婚を意識したが、
タカシくんは、「浴衣じゃないんだね」と残念そうに呟いた。
私はお祭りでは必ず、イカ・じゃがバター・ニジマスを買っているが、絵面的にあまりにも華がなすぎるし、完全にガッツリ食べたいオヤジ向けフルコースなので、この日だけはぐっと我慢した。
よく読む少女漫画みたいに、可愛らしさ重視で綿菓子やかき氷などを購入した。
お祭りの人混み、音、灯り、手にはかき氷、隣にはメンズ。格好こそTシャツ短パンだったが、私はそれだけでもうなんだか漫画の主人公になれた気がした。
少女漫画界において、告白は夏祭りと相場が決まっている。
きっと花火が上がった瞬間等で告白されるに違いない。花火の音と重なって聞き取れないアクシデントも既に想定済みの私は、上手く対応出来るだろう。
私は味のしないほぼ水となったかき氷を、お祭り特有の細いスプーンで無理やりすくいながら、そんなことをぐるぐる考えていた。
「そろそろ帰ろうか」
とうとう花火は上がらなかった。
タカシくんに声をかけられ、私はハッと我に帰る。
まぁ、1回目だし、告白されることはないのかな…。
「ちょっと寄り道して帰ろうよ」
あっ、こっちのパターンね!!!!!
進研ゼミで見たやつだわ!!!みたいなテンションになった私は、しっぽを振って付いていく。
隣に歩くタカシくんが、
なんか近い。
時折手が当たる気がする…。
わたしはサッと手を引っ込めて、
ラーメン屋の店主みたいなポーズで歩いた。
2、3分歩いて、着いたのは小さな公園だった。
「少し話していこう」
はいはいこのパターンね…。
わたしは頷き、2人でベンチに座る。
タカシくんは、
相変わらずなんか近い…。
私は、すかさず間に荷物を置いて、
パーソナルスペースを確保した。
2人でたわいもないことを話す。
最初に会った時よりも、私はスムーズに喋れるようになっていた。
いきなりタカシくんが、黙って真顔になり(こわい)、切れ長の目がこちらを見る。私はパッと目を逸らす。
あっ、これも少女漫画で見たやつ!!!!!?
告白する直前のシーンのやつ…!!!!!!!!
私は彼氏が欲しいという気持ちがあるはずなのに、この時どうしても恥ずかしさが勝ってしまい、
「見てみてー!!!!でっかい蛾が飛んでるよー!!!!」
とびきりアホな笑顔で小学生風の台詞をでっかい声で言った。
タカシくんは、真顔から通常モードに戻った。
告りたいタカシvs.恥ずかしい私
両者一歩も引かずそんな攻防戦を何回も繰り返したら、気づけば1時間が経っていた。
ああ何やってるんだろう…?!!
私は彼氏を作りたいのに、このままでは彼氏をゲット出来ずにこのイベントが終わってしまう…!!!
私は恥ずかしさとむず痒さを、己の足をつねることで必死に堪える。静寂に身を委ね、真顔タケシをじっと見つめると、タケシの口元がゆっくりと動く。
「俺たち、付き合おうよ」
テンションがブチ上がり、脳内ではファンファーレが鳴り響き、盛大なカーニバルが行われていたが、私は平静を装いコクリと静かに頷いた。
はい、彼氏、一丁上がり!!!!!!!!!
任務が完了した私は、お疲れ様っっしたという気持ちでタカシくんから背を向けようとしたが、
抱き止められた。
タカシ「ありがとう」
私「」
他人とこんなに近距離になったことがなかった私は、すっかり魂が抜け、動けなくなった。
タカシくんは、"岩みたい"と一言だけ呟いた。
私は本物の岩になりたい、と強く強く願った。
そんな私を見つめるタカシが、
ズイッと顔を近づけてきた。
あっ、、このシーンも少女漫画で………
考えるよりも早く、拳が出ていた。
私の右手はタカシの頬を直撃した。
びっくりするタカシくんの表情が今も忘れられない。私も、同じくらいびっくりしていた。
私はこの日、初めて人に告白され、初めて彼氏が出来、初めて人を殴った。
ピンチの時能力が開花する主人公ってこんな感じなのかな…と思った。
私は少女漫画の主人公ではなく、少年漫画の方だったのかもしれない。
その後駅まで歩く2人は、
お通夜のようなテンションだった。
私は抱きしめられたショックが抜けず、ゾンビのような足取りで、恋愛の難しさを痛感していた。
不安すぎる初彼との日々は、
ここから暫く続いてゆくのだった……。
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