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芸能人は歯が命、アメリカ人もね


今回のテーマ:歯
by らうす・こんぶ


アメリカで日本での常識が通用しないことがしばしばあるが、そのひとつが”歯”。最近は違うかもしれないが、かつて日本では八重歯がチャームポイントの芸能人も珍しくなかった。虫歯になりやすいから歯の健康を考えればいいことではないからか、大人になったら似合わなくなるからか、大人になると八重歯を抜いてしまう人が多かったが、子供や若者の八重歯がのぞく笑顔はかわいくて、私は好きだった。

でも、ニューヨークでは八重歯を見かけたことがない。八重歯の代わりに10代の子供たちの口元にのぞくのは歯の矯正のためのワイヤー。アメリカでは歯並びのよさが重要で、八重歯なんてとんでもないのだ。子供に歯の矯正を受けさせるのは親の責務で、大人になっても歯並びが悪いと、親に経済的な余裕がなくて歯の矯正を受けさせてもらえなかったのね、と思われるらしい。だから、ミドルティーンくらいで歯の矯正のためのワイヤーをつけている子供は多い。

ニューヨークに住み始めたばかりの頃は、子供たちがにっと笑う口元にごついワイヤーが絡みついた歯がのぞくのを見るたび、吸血鬼が正体を表した瞬間を見てしまったようで、「おおっ」と思ったが、慣れてくるとあどけない顔とゴツいワイヤーのミスマッチが可愛らしいと思うようになった。青春のシンボルか、大人への通過儀礼のようではないか。

白い歯に対する意識も日本人よりアメリカ人の方が強いかもしれない。ニューヨークのドラッグストアのデンタルケアのコーナーに行くと、歯磨きチューブや歯ブラシの他に、ホワイトニングキットが棚にずらりと並んでいる。漂白剤のようなものが塗られたプラスチックのシートのようなものを上下の歯につけて30分くらい置く。これを数日繰り返すと、徐々に歯が白くなっていく(らしい)。

私も使ったことがあるが、長続きしなかった。口の中に塩素系の味と匂いが充満して苦痛で、30分も我慢するなんて拷問に近い。しかも1回では白くならないので、途中で挫折してしまう人も多いのではないかと思う。

が、私の知人のひとり(アメリカ人男性)は白い歯へのこだわりが強く、いっつも真っ白な歯をしていた。「その白さはちょっと不自然だよ」というくらいに。私は真珠のように多少アイボリーがかっている方が自然で美しいと思うが、その人の歯は白の絵の具を塗ったように白かった。それほどこだわりが強い人でも、やはり30分もホワイトニングシートを歯に貼っておくのは面倒らしく、「よく見えるのは上の歯だから、時々手を抜いて上の歯だけホワイトニングするんです」と言っていた。

日本では「芸能人は歯が命」というキャッチフレーズが流行ったことがあったが、アメリカでは「一般人でも歯が命」。想像するに、いい会社に入るにもモテるにも、アメリカでは歯並びと歯の白さは隠れた重要ポイントなような気がする。



らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote:

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