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やさしいスープ

今回のテーマ:温まるもの

by  らうす・こんぶ

おいしくて体が温まるスープや鍋料理は冬の定番料理。でも、私がこれまででいちばんおいしいと思ったのは、誰かが愛情込めて作ってくれたスープや、レストランの具沢山な鍋料理ではなく、市販の缶詰のスープだった。

今から2年前の春先、世界がコロナのパンデミックで騒ぎ出した頃、不覚にも私は真っ先にこのウイルスに感染してしまった。結果的には、友人の優秀なドクターの適切な診断と治療のおかげで健康を取り戻すことができ、とても幸運だった。

それでも、感染してから体力が戻るまで2週間かかった。その間は食事を作る気力も体力も食欲もなく、ひたすら寝ているか、寝るのにも疲れると力なくソファに座ってYouTubeでお笑い番組を見ていた。さすがにこのときはお笑い番組の力でも借りないと気が滅入りそうだった。

食欲がないとはいえ何も食べないでいるわけにもいかない。そして、冷蔵庫は空っぽ。ウイルスに感染している身なので、スーパーに買い物に行くこともできなかった。そんなとき、私がコロナで伏せっていると知った友人知人が手軽に食べられるような食料をたくさん送ってくれた。その中に缶詰のスープもあった。チキンヌードルスープ、クラムチャウダー、トマトのスープ、豆のスープなどなど、どれも美味しそう。これはとてもありがたかった。体力がなくて何もしたくない私でも、缶を開けて温めるだけなので負担が少なくおいしく食べることができた。

また、コロナの特徴的な症状で味覚がなくなるとか、味覚がおかしくなるというのがあるが、私の場合は、味覚が変わって何を食べても不味くなってしまった。全く無味無臭のはずの水さえ不味かった。これには参った。でも、酸味は変わらないことに気がついた。オレンジや、蜂蜜とレモンをお湯で割ったものならおいしく飲めた。

すると、今度はフロリダから新鮮なオレンジがたくさん届いた。わざわざアパートの入り口までレモンと蜂蜜やフレッシュジュースを届けてくれたり、おいしい手料理を差し入れてくれた人もいた。

今思い出しても、ありがたくて涙が出そうになる。今までで一番私の心を温めてくれた食べ物は、コロナで参っていた時に届けられた缶詰のスープだった。そして、あのときの蜂蜜レモンやオレンジやパスタや手作りのお弁当と、周りの人たちの優しさだった。


らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote: 

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