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「変わる組織」はどこが違うのか? 29

あなたの「やさしい心」が会議を長くしている

 読者のみなさんは会議にどの程度時間を使っているのでしょうか? 私のサラリーマン時代を振り返ってみると、エラクなるほど会議が増え、最終的には日に10回ほどもあり、会議=仕事となっていきました。正直言って、これで仕事になっているとはとても思えませんでした。
 現場に足を運び、顧客やサプライヤーの話を聴き、資料を自らの手で分析し、調べ、考える。そういう時間なしに会議から会議へと渡り歩き、スタッフが作った資料を見て話を聞いているだけでは、意味のある意見は言えないし、意思決定もできるはずがありません。

 その後、あるアメリカのPEファンドに勤めたのですが、そこでの会議は刺激的でした。まず会議は週に1回。毎週日本時間の火曜日の朝6時から、アメリカとヨーロッパのオフィスと結んで行う投資会議だけです。
 資料は前週の金曜日までに届いています。それを週末に読み込んで、賛成か反対か、その理由、より良い判断をするために必要な追加情報は何か、といったことを整理して火曜日の早朝会議に出るのです。
 会議では資料の説明はありません。資料に書き込めなかった追加情報があれば、その追加説明だけです。ということで会議はいきなりディスカッションが始まります。読み込んでいかないとこの議論に参加できません。そういうことが続くと、あなたはこの会議に出なくていいということになるので、みんなしっかり読み込み議論します。
 案件の提案者が追加説明だけでなく、資料の説明になることがあります。そんな時は、すかさず議長から「それは資料に書いてありませんか? 書いてあることの説明は不要です」とたしなめられます。この一言で「規律」が維持されていたと思います。
 こうして日本のオフィスアワーが始まるころには。十数件の投資案件について中身の濃い議論が終わり、GO or No GOが決まっていました。

 翻って、日本の会議はなぜ長いのか? なぜ生産性が低いのか? それは資料の説明や報告があるからではないでしょうか。その場で説明を聞いていい意見を出すのは至難の業ですから、いい会議になりようがありません。事前に読んできた人にとってはこれほどムダな時間はありません。

 私から上記のファンドの話を聞いたある人が、会議で「資料は先週お送りしているので、すでにお読みになっていると思います。説明は省略させていただきます」とやってみたそうです。すると上席のマネージャーから「すまん、すまん。忙しくて読めてないんや。ちょっと説明してくれんか。悪いな」と言われて、資料説明をせざるをえなかったそうです。断ればいいのに、と私は思いましたが、この「やさしい心」が、日本の会議を資料説明や報告ばかりで、クリティカルな質疑がほとんどない、長時間の会議を生み出し、ワークライフバランスを崩しているのだとつくづく思います。

会議が長く生産性が悪くなるメカニズム

 ではこの説明を求めた上席マネージャーが悪いのか、というとあながちそうとは言い切れないところにこの「会議問題」の難しさがあります。昔の私のように、この人も日に10件近い会議をこなしているのかもしれません。その間に200通以上のメールを処理し、夜には会食がある。とても事前に資料を読み込んでくる時間がないのかもしれません。「会議で資料説明する」→「会議の時間が長くなる」→「事前に資料を読み込む時間がなくなる」→「会議の場が勉強の場になる」→「クリティカルな質疑ができない」→「意思決定ができない」→「会議が増える」という悪循環の中にいるからです。
 では、どうやってこの「会議問題」という悪循環から脱却するか。長くなるので、それについては次回お話したいと思います。

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