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「変わる組織」はどこが違うのか? 4

問題の捉え方が違う!

最近ある企業から、こんな依頼がきました。
「組織に一体感がなく、社員がバラバラに動いて困っている。そこでビジョンを見直して求心力を高めたいので、ビジョン作りを手伝ってもらえないか?」。
 お話を詳しく伺ったあと、「それはビジョンの問題ではなく、バリューの問題ではないでしょうか?」とお応えしました。少し戸惑っておられたので、「魅力的なビジョンをつくって、それが社員に伝われば、理論的には組織の一体感は高まると思います。しかし、かなり遠回りです」と説明を始めました。

 前回のブログをお読み頂いた勘の良い読者は、私がどんな説明をしたのか、ここまででピンときたのではないでしょうか。ミッションやビジョンで解決しようというのは、社員の心に訴えかけようという発想です。つまり、無意識に「心の問題」として問題を捉えているわけです。
 これ、かなり一般的な問題の捉え方です。他にも著名な経営者や哲学者の本を読ませる、講演や講和を聞かせる、といった解決策もよく見かけます。無意識に「心の問題」と捉えてしまうとこうなるのですね。別に、それがダメというわけではありませんが、時間がかかることを覚悟する必要があります。地道に、重低音として続ければそれなりに効果はあります。しかし、今回のクライアントさんが希望しておられるような1年程度では解決しません。

「行動の問題」として問題を捉えるとどうなるでしょう?
まず「一体感がない」と感じさせている組織行動を具体的に洗い出します。そうですよね。ある繰り返し行われる社員の行動が、「一体感がない」という問題意識を生みだしているはずですよね。たとえば、仕事を個人で抱え込んでいるため横の人でも何をしているのか知らない。その結果、トラブルが発生した、あるいはチームで仕事をすればもっと簡単に片付くことに時間をかけている(生産性が低い)、といったことだとしましょう。
 その場合の問題行動としては、「チームで気軽に話し合うことをしない」(あえて風土とは呼びません)、「みんな忙しすぎて人の話を聞く気になれない」といったことがあるでしょう。そうすると、強制行動として「毎週金曜日の昼食後30分、チームで気軽に話し合う時間を設ける」といったアイデアが出てきます。
 しかし、強制者がいないと強制行動は長続きしません。慣性の法則です。締め切りが迫っているから、クライアントとの面談が入った、上司に呼び出された…、いくらでも言い訳は見つけられますからね。すぐ従来の仕事のやり方に戻ってしまいます。
 その強制者は誰かというと、リーダーです。野球でもサッカーでもラグビーでも、バレーボールでも、団体競技は監督とコーチが変わるだけで見違えるほど強くなります。それは彼(女)らが「良い組織行動」を強制し定着させるからです。新しい技を教えたからというケースは滅多にありません。
 
 もしリーダーにその気がないときはどうしたらいいかって? これ、残念ながらよくあるんですよね。そういう時は、リーダーを替えるか、第三者の協力を仰ぐしかありません。前者はスポーツの世界ではよく行われますよね。しかし日本企業ではあまりありません。となると後者、「第三者の協力を仰ぐ」を選ぶしかありません。
 そういうコンサルティングのあり方を、プロセス・コンサルテーションと呼びます。一般に知られている(戦略)コンサルティングは解決策を授けるのが仕事ですが、プロセス・コンサルティングは、クライアントに伴走して、その組織行動を矯正していくのが仕事です。戦略コンサルティングは「知の問題」解決、プロセス・コンサルティングは「行動の問題」解決に利用すればいいのです。ちなみに、前者は高額ですが、後者はリーズナブルです。もちろんそれには理由があるのですが、それはまた別の機会にしましょう。

 さて、こうして「気軽に話し合う時間を定期的に設け」ても問題が解決しないことがあります。それが「時間がない」問題です。
 日本の企業は、次から次へと新しいイニシャティブを取り入れます。今の流行はDXですね。生成AIが出てきて、それを利用していかにDXを実現するかです。一方でガバナンスが強化され働く時間が制限されています。ワークライフバランス。プロセス・リエンジニアリング、シックスシグマ、TQM…。どれもこれも中間管理職にしわ寄せがいくだけで成果が出ない。したがって根付きません。
 その根本的な理由がどこにあるのかというと、いままでやってきた付加価値の低い仕事を止めて、より価値の高い新しい仕事に取り組む時間を生み出そうとしない組織行動にあります。その結果、従来の仕事をすべてやりながら新しいことに取り組むことになり、とうぜん失敗するのです。何度このパターンを繰り返せば思い知るのでしょう? 
 ということで次回は、この問題に焦点を当ててみたいと思います。

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