海外で国境を越えてみる。-シンガポール&ジョホール・バル 海外ゼミ研修-
観光学を学ぶ中村忠司ゼミでは8月6日~10日までシンガポールで海外ゼミ研修(2,3,4年合同35人)を行いました。シンガポールは東京23区を少し上回る面積に592万人(2023年)が暮す都市国家です。一人当たりの名目GDPが世界5位と高いことでも知られています。
今回の研修のポイントは、2つあります。1つ目はJTBのアジア・パシフィック地域の本社機能を持つJTB Pte Ltdを訪問し、グローバルでの事業展開についてお話を伺うことです。JTBはこの地域でオセアニア・インドを含め11か国・地域に拠点を持ち、日本人のお客様のみならず、アジア発・アジア着のグローバルな旅行需要を捉えて事業を行っています。
2つ目は多文化共生社会であるシンガポールで異文化理解を深めるだけでなく、隣接するマレーシア側のジョホール・バルを陸路で訪問し、国境を自由に行き来する人・モノの国際移動について考えることです。
私たちは羽田空港からの深夜便だったので、早朝チャンギ国際空港に着きました。シンガポールでは、事前に入国管理庁(ICA)Webページでの、電子入国申告書(SG Arrival Card)の提出が必要になります。入国審査は自動化されていて、登録さえきちんとしておけば時間がかからずスムースに入国可能です。
まず向かったのはマーライオン公園です。シンガポール川をはさんで、対岸にはマリーナベイ・サンズや蓮の形をイメージさせるアートサイエンス・ミュージアムが望めます。シンガポールを代表する観光アイコンとされる場所です。私は30年ぶりの訪問で、前に訪れた時と雰囲気が違ったので調べると、マーライオンは元の位置から移設されたとのことでした。
JTBシンガポール支店(JTB Pte Ltd)はオフィス街のアンソン・ロードにあります。ここでは現地採用の高須賀マネージャーと東京から赴任した駐在員の小泉シニアマネージャーからお話を伺い、オフィスを見学させていただきました。グローバル拠点の役割としては、まず世界中にネットワークを持つことで日本人旅行者に安心・安全な旅行を提供するサポート体制があります。さらに近年では日本人に限らず、アジア発・アジア着のグローバルな旅行企画に事業を拡大させています。
最初に高須賀さんから、なぜ日系企業がアジア・パシフィック地域を重視するのかとシンガポールでの手配業務について説明がありました。「この地域は2022年に中国を抜いて14億人を超える世界一の人口をもつインド、約6.8億人の人口を有するASEAN諸国があり、それだけ旅行を買ってくれるターゲットが多いことが挙げられる。特にベトナムやマレーシア、インドネシアは30~40代が厚く海外旅行を楽しめる層が増えている」とのことです。また団体旅行のオペレーションで、どのように各スタッフがホテルやレストランと連絡を取りあいながら、チェックイン時間を短縮するかなどについて説明されました。「レストランによっては英語ではなく中国語やマレー語しか通じない施設もあるので、団体手配では常に複数言語で対応できるようにスタッフを配置している」とのことでした。
次に小泉さんから、駐在員の役割についてお話しいただきました。JTBの在外支店は現地採用が中心です。あえて日本から赴任させる理由として、意識して人流創造を起こすことと日本側と現地の意見の調整を上げていました。1つ目は「新しいアイディアを持つ人を入れ続ける」ということで、現地採用の場合は職場異動がないのでどうしても同じメンバーで事業を考えることになるので、何年かに一度日本から社員を赴任させることでビジネス創造を生み出すということを意識的に行っているそうです。日本側との調整では、「ツアー造成の際にグローバルな旅行市場では現地のクッキング教室などが人気ですが、日本人のツアー日程を考えると短期間でその組み込みが難しいので、日本人にあった旅行を作るために日本サイドと現地を橋渡しして調整する役割がある」とのことでした。
質疑応答では、海外での女性の働き方について学生から質問があり、「シンガポールは他のASEAN諸国よりも少子高齢化は進んでいるが、子供を産んでも働くことをあきらめなくてもいいように、国が企業に向けて女性の社会進出をサポートするように働きかけている」と説明されていました。
2日目はマレーシアのジョホール・バルに渡りました。シンガポールから北に車で約1時間の距離です。マレーシアとシンガポールでは物価も賃金も違い、我々が訪れた朝はシンガポールで夜間働いた人がマレーシア側に帰る時間にあたり、たくさんの青い通勤バスがイミグレーション・エリアを通過していました。国際間の労働移動とその入出国管理について、様々な気づきがありました。
ジョホール海峡を結ぶ約1キロのコーズウェイ(橋)を渡ると風景はかなり変わります。伝統家屋や多くのイスラム世界が広がっていました。シンガポールは、中華系が人口の約7割を占めているのに対し、マレーシアではマレー系が人口の約7割でイスラム教徒が約6割と多数を占めています。
コロニアル調のジョホール州庁舎や州議事堂、日本企業も投資するスマート・シティが集まるイスカンダル地区を視察した後、白壁と青い屋根が美しいアブ・バカール・モスクを見学しました。ここからは川のように見える海峡越しにシンガポールが見えます。数年後にはシンガポールと結ぶ新高速輸送システム(RTS)が開通するそうです。
その後はスルタンの新王宮で王冠のゲートがあるブキット・セレネ宮殿、マレーシア文化を体験できるマレー文化村を訪問しました。ここではマレーシアの国民食ともいえるロティ・チャナイ(Roti Canai)と甘いミルクティのテ・タレ(Teh Tarik)作りを体験しました。中村ゼミにはマレーシアからの留学生がいますが、帰国後の報告で「自分の国の文化を他国の人が学んでくれるのを見るのはうれしい。自分が既に知っている知識も深まる」と書いてあるのが印象的でした。
3日目は自由視察でしたが、シンガポールの独立記念日にあたるナショナル・デーの祝日です。街なかのマンションの窓には国旗が掲げられ、多くの人がシンガポール国旗の色である赤と白の服を着て街に繰り出します。前夜のマリーナベイ・サンズもシンガポールカラーにライトアップされていました。普段は見られない式典のリハーサルをする軍隊など、知られていないシンガポールの側面を見る機会になりました。
国際観光を考えるうえでとても参考になった点としては、観光における2重価格の制度が当たり前にあることです。観光施設によっては自国民の数倍の入場料がツーリスト価格として提示されます。さらにシンガポール国内発行でないクレジットカードで公共交通を利用する場合は手数料が加算されます。日本ではどちらかというと外国人旅行者を優先するサービスがありますが、シンガポールは徹底した自国民優先でした。インバウンドが急増する日本でも考える必要のある課題です。
最後に参加学生の感想として多かったのが匂いに関するものでした。ホテルの芳香剤や地下鉄(MRT)の車内での香水など、無臭に慣れている学生には抵抗があるようです。またフルーツの王様と言われるドリアンの季節でもあり、屋台ではたくさんパックで売られています。挑戦して買った学生は必死に食べていましたが、タクシーやホテルで持ち込み禁止の表示が出ている理由が実感できたようです。英語ではDurianと書きますが、Duriはトゲの意味です。
(中村忠司)
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