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だからこそ今、〈移動〉を考える

新年もあっという間に、1ヶ月が過ぎてしまいました。高校や大学では、年度末という節目を迎えるにあたって、多くの人が、今年度の活動をふりかえる、大切な時間を過ごしていると思います。何か一つのことが終わる時は、新しいことへと向かうエネルギーが生まれる時でもあるように感じます。

2020年度は、何と言っても、新型コロナウイルスの影響とともにありました。多くの人が、コロナ前とは異なる生活を強いられた1年でした。生活の変化の質や度合いは、暮らしている地域、このウイルスに対する認識、本人や身近な人の健康状態、その人がおかれている社会的・経済的な状況などによって違います。しかし、新型コロナウイルスの影響を考えるうえで、さまざまな違いを超えて、みんなで共有できると思われるキーワードがあります。それは、〈移動(mobility)〉です。

私は以前から、人びとの〈移動〉の経験についての研究をしてきました。ここでいう〈移動〉は、人の身体的な移動だけを意味するのではありません。物の移動、想像による移動、メッセージやイメージの移動なども含まれます。社会学者のジョン・アーリが述べた「距離の隔たりに対処する」ための方法としての多様な〈移動〉に注目してきました。

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新型コロナウイルスは、地域や国などのさまざまな境界を越えて移動する人びとの身体に入り込み、世界中に拡散しました。ウイルスの拡散をおさえるには、私たち人間の身体的移動を制限することが効果的だということで、各国で対応がとられてきました。それまで自由に移動できることが「あたりまえ」だった多くの人にとっては、行きたい場所に行けない、会いたい人に会えないという、大変苦痛で不便な状況になりました。しかし、「あたりまえ」だったことが揺らいだ今こそ、多様な〈移動〉が私たちの生活に果たしてきた/果たしている役割や価値について考えたり、「移動できない/移動しづらい」という経験について理解を深めたりするチャンスだと感じます。私はそのような思いで、「移動の生活学」という授業や「演習(ゼミ)」で、学生のみなさんと〈移動〉について考えてきました。

「移動の生活学」では、〈移動〉という観点で生活を見直しています。たとえば、コロナ禍で持ち歩く物がどのように変化したかを写真に撮り、物を通して、自分たちが実践している日常的な「移動の戦術(移動の際の自分なりの工夫)」についてみんなで考えました。下の写真は、その時に履修者から共有された写真の一部です。

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また、大橋ゼミでは、この1年、〈移動〉に関する文献を読んだうえで、ゼミの一人ひとりが、自分でたてた「問い」にこたえるための調査研究「マイプロジェクト」に取り組んできました。調査の対象は、コロナ禍でも営業を続けている移動式カフェ、コロナ禍でYouTubeが支えになっている一人暮らしの大学生、コロナ禍でのサッカーの観戦スタイルの変化など、さまざまです。そして、「マイプロジェクト」の成果を、ビジュアル・エッセイにまとめました。ビジュアル・エッセイというのは、イメージ(写真、スケッチ、イラストなど)とテキスト(文章)を組み合わせて編集されるエッセイです。調査の結果を有意義にコミュニケーションできる形式として、国際的な学術論文誌でも採用されています。現在、全員分のビジュアル・エッセイを束ねた冊子の製本に向けて、私も編集作業を頑張っているところです。

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新型コロナウイルスの影響がいつおさまるのか、まだ誰にもわかりません。ただ、嘆いても悲しんでも、事態が改善しないことはたしかです。今起きていることをよく観察し、そのなかでできること、潜在的な可能性を見出すことの重要性を感じています。「距離の隔たりに対処する」ための方法としての多様な〈移動〉に注目することで、新しい見方を提案できるような研究を、これからも学生のみなさんと一緒に実践していきたいです。

(大橋香奈)

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