【BTS(防弾少年団)】「잡아줘 (Hold Me Tight)」
収録
『화양연화 pt.1』(花様年華 pt.1)
2015年4月29日にリリースされたミニアルバム。
3曲目として収録。
『화양연화 YOUNG FOEVER』(花様年華 Young Forever)
2016年5月2日にリリースされたスペシャルアルバムにも収録。
概要
ピアノによる美しいイントロ、息を吸い込む音。虫の音や、雑踏、コントラバスの音も遠くに聞こえているような気がする。
ベースレスで少し宙に浮いたような印象のバース(Aメロ)から、急速に切なさを増していくサビが素敵。
迫る別れを前に、恋人に抱きしめてくれと切なる願いを伝えようとする少年を描いた、「花様年華」の切なさや儚さを一手に背負った楽曲。
寄り道①
花様年華のコンセプトフォトには「開花」「白昼夢」「不安」の3つに、DOPEを加えた、全4種があるようで、それぞれ花様年華、青春の心像を表現していると思われる。
その中でも「開花」はこの楽曲のために撮影されたのかと思うほど、儚くて、触れたら壊れそうな少年たちを描いた「잡아줘 (Hold Me Tight)」にぴったりなので合わせて鑑賞したい。
寄り道②
もう一つ合わせて鑑賞したいのは、2015年6月1日、ミニアルバム『화양연화 pt.1』(花様年華 pt.1)発売から約1ヶ月後にBANGTANTVで公開されている、VとJ-HOPEによる「안아줘(Hug me)」のカバー。
チョン・ジュニルさんが2011年に発表した曲だそうで、防弾少年団の「잡아줘(Hold me tight)」と聴き比べると、歌詞の内容は精神的成熟を感じさせる。
そんな楽曲をまだ少年と言える年齢に収まる頃の二人が背伸びをして表現している様子や、J-HPOEのオリジナルラップが楽しめる。
ちなみにVは今回の「잡아줘(Hold me tight)」の制作に関わっているそうだが、おそらくこの楽曲からインスピレーションを得ているものと思われる。
鑑賞
素敵な訳はあみにさんの動画からお借り致しました。ありがとうございます。
RMの口から漏れ出たような、どこか穏やさを感じさせる自己嫌悪と懺悔。
今までは激しい苦悩や葛藤に隠されていた少年たちの、柔らかい部分が急に露出したような感じがある。
「終わりつつある恋」という「I NEED U」と同じ題材を扱っているようで、変化も加わっている。「I NEED U」では、少年はもはや「君」からの思いが感じられず、しかもその理由が全く分からず混乱を極めて振り回されていた。
しかし今回は少し理性を取り戻し、落ち着いた態度で人間関係に向き合えている印象がある。まず、どうしてすれ違ってしまったのか、どうして「君」が主人公のことを信じられないのか心当たりがあり、こうしたらよかった、どうしてこうしてしまったんだろう、と後悔。
「わけもわからず」「ただ訳もなく」といった地点から、後悔ができるところまでたどり着いた少年の姿は、人生の苦悩といえばおおげさかもしれないが、そういったものと真正面から立ち向かえるようになった、少しだけ大人びた印象を抱かせる。
飲んだ帰り道、一人で歩く夜道の脇ではゴミ袋がカシャカシャと音を立て、風で動かされた澱んだ生暖かい空気が肌を撫でていくような、そんな夏の夜の情景ががイメージされる。
気がつかぬほどあっという間に「君」が世界の彩りの源となり、「君」以外の全ては一様に、「君」によって色や光を与えられている状況。恒星と惑星系のような関係。
いとも簡単に一つの恋にこれほどまでに視界を覆われて、盲目になってしまう少年。
「君の香りだけが僕をまともにするんだ」とのことだが、彼はすっかり「君」に耽溺してしまっているだろうから、まともにされているのか、おかしくされているのか真偽は怪しいところ。
君が僕のことを信じられない心当たりはある。
でも僕は君だけを見ているし、君しか見えないんだ、信じてくれ。
僕は君なしでは一日だって正気ではいられないんだ。
僕のことをまだ信じてくれるなら、掴んで放さないでいて。
僕から離れて行こうとしないで。
離れゆく「君」を引き止めたいけど、君が再び信じてくれると信じるしかない。
縋り付くように「信じてくれないか」「抱き締めてくれないか」というストレートな歌詞が繰り返され、切なさの迫力がぐっと上がっていく。
本当に学校三部作とのギャップの作り方が上手だし、プロデュースがお見事だというしかない。あんなに自信満々に世界に乗り出してきたかと思ったら、「君なしじゃ何もできない」と濡れた瞳(と髪)で歌うのだから、そりゃあ話題にもなる。自分であれば天地ひっくり返ったのか、と思う。
「僕の心臓を濡らしてくれ」のニュアンスはよくわからない。
韓国語ではこういう通例表現があるのか。泣くなら僕の胸で、みたいなキザなセリフってことか。
こんな甘いセリフが直接言えたら、「掴んで、抱き締めて」なんて遠回しなセリフも必要ないだろうから、少し違う気もしている。
細かい話になるが、英語タイトルのHold me tightは、ハングルタイトルの「잡아줘(jabajwo)」ではなくここの「끌어안아줘(kkeureoanajwo)」を訳したものだと思われる。
「끌다」(引く、引っ張る)と「안다」(抱く)という動詞が組み合わさったもので、日本語にすると「抱き寄せて、抱き締めて」。
題名になっている잡아줘(jabajwo)は、韓国語を直訳すると「掴んでくれ」になり、「抱き締めてくれ」というよりむしろ「掴んで放さないでいて」「僕から離れて行こうとしないで」といった縋るようなニュアンスがある印象。
先程紹介したVとJ-HOPEによるカバー曲の題名になっている안아줘(anajwo)も曲中に登場するが、こちらの直訳は「抱いて、抱き締めて」になるが、英訳のHug meはより韓国語のニュアンスに合うようだ。
Hold me tightも、「抱き締めて」だが、もっと「私を受け止めて」「私を受け入れて」という感じで、잡아줘や안아줘に比べると、より親密で熱烈で、肉体的接触、抱擁、という言葉を付け加えたくなる感じ。
英語タイトルだけをみて、熱烈なラブソングかと思いきや、喪失感や切なさを色濃く残した楽曲に仕上がっているギャップがある。
そもそも、「信じてくれないか」「抱きしめてくれないか」と、自分から行動を起こさないのは何故なのか。「薔薇のような君の胸」というフレーズがあるが、ここを深読みすると、自己防衛という答えが出せる。
決して「君」を手放しているつもりはない。むしろ手は伸ばし続けている。
けれど伸ばした手のそのままに、無理やり抱き寄せたとしても「君」の心が戻ってくる訳ではなく、自分が薔薇の棘に刺されて傷つくだけ。
だから、傷つくのを恐れて、自分からかき抱こうとはできないのではないか。
しかし、そんな少年は、ここで一歩を踏み出す。
傷つくリスクを背負って、覚悟を決め、走り出し、手を伸ばして抱きしめにいくのだ。
引用した一節はJ-HOPEのラップ詞からの引用なのだが、この曲を歌詞に注目して聞いた方はもれなくここでやられていると思うがどうだろう。
自分は思わず「うわ…(歓喜)」と声が出た。
やっぱりこういう所に自分たちで詞を書いてくれるアーティストの魅力が感じられる。同じ世界観の中で詞を書いていても、それぞれの個性が出ている感じ。
これに関連して、先程とりあげたアナジョ、J-HOPEのラップはオリジナルで、おそらくは彼自身で作詞したものかと思うのだが、少し繋がりを感じさせる詞となっている。
君と一緒にいたことで何もかもが輝いて見えた世界や、君との美しい思い出たちの名残をただ抱きしめるだけではなく、取り戻すまで努力を続ける。
たとえ、望みが無くても、覚悟を持って抱き締めに来てくれる。
心臓がきゅっとなります。
個人的に、ここのJ-HOPEのラップはブリッジを見ると解像度がもう少し増すと思っているので、続きも見ていきたい。
別れが、満潮という自然の摂理のように迫っていて自分ではどうすることも出来ない、そんな絶望や無力感が感じられる部分。
望みが絶えていても、別れが避けようのないものだとしても、「言わないでくれ」「行かないでくれ」という願いが叶わないものだとしても、手を伸ばし続けている少年。一歩を踏み出そうとした少年。
余韻
この楽曲の好きポイントは、本当に掴んで抱き締めてあげないと消えてしまいそうな儚さを感じるイントロ。
はらはらと何かが散って消えていくような、二人の思い出が遠ざかっていくような、そんな切なくも甘い恋が味わえたとともに、どうあがいても逃れられない別れに、それでも諦めきれずにもがく姿に若さを感じる。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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