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生前整理が、よりよい生活のきっかけになる。 トカノハート&ハート代表の生い立ち -後編-

私は今、様々な方の生前整理や遺品整理、日常の片付けをお手伝いしています。

片付けをするとその人の人生や、人とどんな関わりをしているかも見えてくるものです。

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そして、その人と関わっている身近な人が一番苦労していることが身をもってわかります。

そんな時に自分自身を省みると「カーブスの方々に出会わなければ、自分もそうなっていたかもしれない」と感じます。

そして、「どんな人でも、良い老後を過ごす可能性を持っていてほしい」と考え、今の仕事に辿り着きました。

人生初めての葬儀


前夫の離婚直後に、母方の祖母が亡くなりました。祖父母は小さな家で仲良く暮らし、優しい祖父は、姉さん女房の祖母のために生きているような人でした。

お通夜のときに母と泊まることになり、どんな死に際だったか聞いてみると、2人とも少しずつ認知症ぎみになっていたとのことです。

祖父は狭い部屋に一緒に住んでいたのに、祖母が亡くなっていると気付いたのは夕方でした。

電気カーペットの上で亡くなったことで、熱で身体や顔が変形してしまっていたため、母は棺の中の祖母を見て、「顔が変わっちゃってる」と言っていました。

翌日、喪主を勤めるはずの祖父の姿がなく、やっと来たかと思えば傷心しきってしまい、スーツもきちんと着れずにフラフラの状態で現れました。

私は人生で初めてのお葬式で、ちょうど隣でもお葬式をやっていたお葬式は、比べたかった訳ではありませんが、まったく違ったものだったのです。

たくさんのお花があって豪華 な、イメージ通りのお葬式。

うちのお葬式はお金がなかったため花を飾ることもできず、父がお経を唱えるという、ものすごく質素なものでした。

集まった人数は10人ほどで、用意したご飯もコンビニのもの。祖父と祖母は仲良く愛がありましたが、友達が少なかったため、さみしい雰囲気で葬式が終わりました。

遺品整理がはじまる


祖母が亡くなった後、祖父は一気に元気をなくしてしまいました。

ご飯も食べず、お風呂も入らずで認知症が一気に進み、数カ月後に祖母を追うようにして亡くなりました。

祖父の葬式を終え、父と母、私の3人で遺された家の片付けが始まります。

父方の親戚で軽トラを持っている人を呼んだのですが、片付けもせず金目のものだけを奪っていきました。

そして、家の中は物で溢れかえっていて、たばこと生ごみ、ホコリの匂いが家中に染みついた状態になっていたのです。

祖母の使っていたものはどれもホコリまみれのベタベタになった状態で、思い出の品を手元に持っていたいという想いも叶いませんでした。

「生きているうちに受け取って自分で管理しておけばこんなことにはならなかったのではないか」

片付けを進めるにつれて、そんな気持ちが湧いてきました。

同時に「同じような思いをした人の助けになりたい」という気持ちが芽生え、人を助けるために起業しようと決めました。

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起業資金を貯めて人脈を広げるためにカーブスを辞め、イベントを開催したり、交流会に足を運んだりするようになります。

生前整理を始める


32歳の冬、交流会に顔を出すと「特殊清掃をしている知り合いいない?」と声を掛けられたことがありました。

『特殊清掃』といった仕事が出始めたばかりの頃で、調べていくにつれて

「そういう業者がいるなら、あのとき頼めばよかった!」
「第三者に頼れたら、祖父母の遺品整理であんな辛い思いをせずに済んだ」


そう思い、これを仕事にしようと決断しました。

そして、今の師匠に弟子入り後、3ヶ月間でいろんな現場に行き、その後は自分で現場に入るようになります。

多くの方の死に様を目の当たりにし、より本格的に仕事にして人を助けたいと思うようになりました。

生前整理をすることで、生きているうちに思い出の話が聞けるようになります。

私の後悔は、生前整理をしなかったため、祖父母の思い出の品のほとんどがホコリにまみれになったこと。

そんな思いをする方を減らしたいのです。

なぜ生前整理なのか

生前整理に携わって3か月目に入った時、とある大きい案件を担当することになりました。

大きなお家に一人暮らしをしていたお金持ちの女性が、亡くなってから3か月後に見つかったのです。

遠い親戚の甥っ子さんからのご依頼で、「ゴミ屋敷の片付け」という依頼だったのですが、実際は、「ゴミになってしまった家」でした。

家の中にはすごい量の洋服や衣装があり、ブランドものもきれいに管理されていました。

一人暮らしの高齢者が亡くなった場合、相続や片付けの手続きは兄弟しか頼れませんが、兄弟も高齢だとなかなか話が進まないことがあります。

すると、遺体は片付けても、家の中は誰も片付けられないのです。

その女性もまさにそういった状況で、唯一元気だった甥っ子が依頼してきたのですが「金目のものだけあればそれでいいです」とおっしゃいました。

写真はいらないのかと伺ったところ「じゃあ一応」、顔を出したかと思えば「これは金になりますか?」と、片手間で依頼してきたのが透けて見えました。

「宝物がたくさんつまった思い出のある家が、ゴミ屋敷になってしまう前に依頼してもらえば、価値あるものを価値ある状態で残すことができたのに。」
「生前整理は必要だ。」


と、これまでの人生にカチッとパズルがはまったように思いが確信に変わり、あとは実行するだけでした。

生前整理と遺品整理の違い


「生前整理」と「遺品整理」では、得られるものがまったく違います。

「遺品整理」は亡くなってしまったあとで片付けをするため、思い出を共有することができず、その遺品に込められたストーリーを知ることもできません。

そして、ものが金銭的な価値でしか見られなくなり、金目のものがないか?と親戚が言うようになってしまいます。

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「生前整理」ならば、前向きにその人の老後を豊かにする可能性があります。

その人にとってより良い豊かな生活を送ってもらうため、その価値をもっと社会に広げていきたいと考えました。


2018年6月に訪問介護の会社を立ち上げる


ある日、夜の帰り道に一人の男性のお年寄りが歩いていて、声をかけたのですが「大丈夫」と返されます。

どこからどう見ても大丈夫そうに見えなかったので、再度声を掛け「遅くて暗いので、お家までご一緒させてください」と伝えて、ご自宅まで手を繋ぎながら歩きました。

古くて立派なお家で一人暮らしをされており、伺ったところ、介護施設を探しているけど、保証人が見つからず入れないでいたとのことでした。

私は今後も連絡が取れるよう名刺を渡しましたが、娘さんにお年寄りを狙った詐欺か何かと疑われてしまい、誤解を生んだことを謝りたいとご自宅を訪ねても、ヘルパーさんに門前払いされてしまいます。

ご本人はもしかしたら生前整理を望まれていたかもしれないのに、身内が阻止してしまうのは本来、両者にとって良いことではありません。

そこで私は、”もっと深く関われて信頼される仕事につきたい”と思うようになります。

生前整理は、高齢者本人だけでなく、家族との信頼が大切です。

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両者にとってよい未来を描くためには、高齢者のご家族に安心してもらうことが必要になるため、訪問介護の事業を立ち上げることにしました。

発想の転換


よくある遺品整理・生前整理は、「物を片付ける」という発想から来ています。

「心をこめて片付けを行います」というのは当たり前で、高齢者のより良い生活のきっかけとなるには、ただ片付ければいいという話でもありません。

私は昔から、「男だから、女だから、若いから、高齢者だから」という縛りがものすごく嫌でした。

自分が自分らしく生きるということができていない人に対して、自分らしく生きられるお手伝いがしたい。

特に高齢者の女性にフォーカスを当て、私たちは「片付け」のためではなく、「よりよい生活のため」にサービスを提供し続けています。

手放すものは手放し、譲るものは誰かに譲る。

生前整理、遺品整理、訪問介護を通して、高齢者の方がよりよい生活をして、誰もが対等な世界を創り上げたいと思っています。

松井麻律(まつい まり)
栃木県出身。生前整理・遺品整理アドバイザー。
「自分らしく生きられていない人に対して、自分らしく生きるためのお手伝い」を提供するため、『トカノハート&ハート』を設立。
訪問介護を通し、遺品整理の価値を伝えながら「よりよい生活のため」にサービスを提供し続けている。
ホームぺージ:https://tokano.tokyo

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