マーケターがシステム思考に入れ込んでいる理由

私は、マーケター(マーケティングコンサルタント)をしているが、
一見マーケティングとは全く関係のなさそうに見える、「システム思考」や「学習する組織」に非常に可能性を感じている。
今回は、その理由について記載したいと思う。

マーケティング界隈では、「一貫した顧客体験(CX)が重要」と言われ続けている。これは、私が現職に転職した5年前からすでに言われていたことだ。
当時から、マーケティングオートメーションツールベンダーさんなどはよく「Right Person/Right Timing/Right Channel/Right Contents」と話していた。

5年前から変わっていないCXの重要さ

しかし、そうはなってっていない企業が多い。
先般記載したUXインテリジェンス協会のサロンでお話をしても、マーケターの知人と話しても、「これがなかなか難しい」という印象だ。なぜか。

その原因の一つは、情報の分断だ。
たとえば、チャネルごとや、ファネルごと、プロダクト、サービスごとに組織が分かれていて、その組織間で情報が十分にいきわたっていない。

チャネルごとの分断
ファネルごとの分断

そしてその「より深い原因」は組織の文化にあると私は考える。
具体的には、
「縦割り組織」や「上意下達」「事なかれ主義」「原点方式の評価」などにより、
「上層部の意向を早く確実に」行うことが「正しいこと」であるという思い込みがあるのではないか。
(「あなたが昇進するため」にはそれは最適解かもしれないが、「企業にとって」それは最適解なのだろうか。)

CX全社最適化の根本原因案

では、私たちマーケターは、この事象にどう立ち向かったらいいのか。

アインシュタインの言葉に「問題は発生したのと同じ次元では解決できない」がある。
マーケティングの領域だけでは解決ができない。
他の領域から情報を突っ込んで融合させる必要があると考えた。

ここでいったん視野を上げ、社会の変遷について考えてみたい。
思考の素材として、「成人発達理論」「ティール組織」「カネヴィンフレームワーク」を活用してみる。

カネヴィンフレームワークで見る、社会の変遷

すると、時代ごとに「複雑さ」と「対応方法」が異なることがわかる。
高度経済成長期は生まれる問題はシンプルで、「オートメーション化」が事業成長のカギだった。

2000年代初頭~2010年代ごろは、問題の複雑さが少し増した。
しかしまだ、「ロジカルシンキング」で整理すると、唯一絶対の「正しい」回答を導くことができた。
「スキル」を持っていることが、転職市場の評価指標だった。

現在は、問題は複雑化し、「正しい」回答は存在しない。
青山学院大学刈宿先生の言葉を借りると「納得解」のみが存在する。
私が冒頭で記載した、CXの最適化や、あるいは、DXの推進、社会課題解決など、問題は複雑化している。
(たとえば、企業内のA部門の利益とB部門の利益が相反することがある)
ロジカルシンキングだけでは、誰もが納得する「納得解」は見いだせない。
では、そこで何が必要か。
ここで有効なのが、「システム思考」であり「U理論」であり、「学習する組織」である。

ものごとの根本原因をさぐる「システム思考」

これらのツールを活用することで得られる視点は、ケンウィルバーの言うように「自分自身の考えは絶対ではない」(Everybody is right , but pertial)という視点だ。

その視点をメンバー全員が獲得したうえで、お互いの価値観や思い込みを共有し、理解したうえで、対話を進め、納得解を見出す。
「群盲象をなでる」ではなく、「それぞれのライトで象を照らし、その姿かたちを正しく理解すること」。
そして、そのなかから最も効果のある力点を見つけること。
それが必要となる。

そして、このありかたを実現できるのは、2010年代に力をふるっていた、ティール組織でいう「オレンジ」の考えをする人たち(=私が考えたこの考え方は正しい)ではなく、
「グリーン」の見方ができる人たち(=私はこう思ったけど、あなたはそう思ったんだね、それぞれ違いがあるがその理由は何だろうね。両方ともの主張に一理あるね)となる。


こうした複雑な状態は「マーケティング」や「ChatGPT」など、1領域のスキルだけで太刀打ちできない。
テクノロジーを活用するスキルはもちろん、
「自分が絶対正しいわけではない」という認識を持っていることが必要だ、
その認識の獲得のためには、組織としても、人としても成長していることが必要だ。(=つまりは、少し乱暴だが、メタ認知ができるということともとらえられる)
野中幾次郎先生の言葉をお借りするとまさに「知の総合格闘技」といえるのではないだろうか。

だから、私は、マーケティングはもちろん、それ以外の領域を探求したいと思い、こうした「システム思考」などの探求、実践を続けている。

これから先
「正解」から「納得解」へ
「スキル」から「実践(プラクティス)」へ
「ソリューション」から「介入(インターベンション)」へ
大きな変動が生まれる可能性があると思う。
そんな移り変わりの時期だからこそ、私たちはカネヴィンフレームワークの「単純系」「困難系」「複雑系」どの領域のOSで駆動しているだろうかと振り返ってみるのも面白いと思う。

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