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不合格経験者が教える!予備試験口述式試験に”落ちない”ための勉強法

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予備口述の合格再現を分析する①(R元年刑事実務基礎1日目)

 令和元年度の口述式試験に不合格となり、翌令和2年度の口述式試験に合格したTojiroです。口述落ちしたときの心境は、以前に書いた通りです(こちらを参照)。
 20人に1人しか落ちないからといって、侮ってはならないのが口述式試験です。
 正直言って、口述で上位合格(123点前後)をするのは相当難しく、これを目指しても仕方がありません。肝心なのは、確実に"落ちない"ための勉強法をとることです。
 口述式試験は受験者数が少ないこともあって、確立した学習法が語られることは殆どないでしょう。
 そこで、口述式試験を2度受験した私が、平成30年に口述落ちしてからずっと考えてきた口述対策法を、ここでお披露目することにしました。
 私はもう、口述式試験で残念な結果になってしまう人を見たくはありません。せめて、私のnoteを見てくれた人にはこんな思いしてほしくないので、この記事を贈らせていただきます。

1.出題科目・分野

 予備口述の試験科目は民事実務基礎科目刑事実務基礎科目の2科目です。2日間ある試験日のどちらかで、1日1科目づつ試験を受けることになります。
 2科目しかないとはいえ、論文式試験基準に考えると、4、5科目分くらいの知識を一度に聞いてくるくらいには試験範囲が広いので、気は抜けません。
 実際に予備口述で出題されている分野は、以下の通りです。

■民事実務基礎科目
 ・要件事実論
 ・事実認定論
 ・民事執行法、民事保全法
 ・民事訴訟法
 ・法曹倫理
 ・民法の知識
■刑事実務基礎科目
 ・刑法の知識
 ・刑事訴訟法の知識(+刑事実務基礎プロパー知識)
 ・法曹倫理

 こんなに多くの知識を、2日間の試験に照準を合わせて詰め込む必要がああります。論文式試験よりも分量は少ないので楽と思うかもしれませんが、口述式試験は原則的に六法をみることができないこともあって、記憶の精度は論文式試験の時よりも高める必要があります。
 正直かなりキツイです。ですので、適当な勉強法をとって回り道をするのではリスクがあります。
 効率・コスパ重視で、自分に残された時間を最大限活用し、期待値が最も大きくなるような勉強法を取る必要があります。
 私は独学中心であったため、初めて予備論文に合格したときは手探りで口述対策をしていて、今思えば無駄なことも多くしていたように記憶しています。私が最終合格した年は、その反省を活かし、口述式試験に一番威力のある本を選抜し、これに対策を集中させ、ようやく口述式試験の合格点をとることができました。
 多くの口述受験生は、巷に情報が溢れている中で、どの教材が口述式試験に一番威力があるのかを判別することが難しいのではないかと思われます。
 ということで、次節からは具体的な対策編に進みます。

2.民事・刑事共通

2.1.口述過去問

 口述式試験の過去問(再現問答集)は絶対にやりましょう。
 口述では過去問からの再出題がありえないくらい多いです。
 どうやら旧司法試験時代の口述式試験の過去問からの再出題もあるらしいですけど、こんな昔の口述過去問を入手するのは大変ですし、出題以後の法改正をフォローするのが大変ですので、ここまでする必要はないでしょう。
 予備試験の口述式試験の過去問の入手方法はいくつかあります。

 ・辰巳の赤本と青本を買う

 これらの本の巻末に、平成23年度から令和元年度までの口述再現(過去問)が掲載されています。
 赤本と青本は、口述再現以外の部分についても口述対策に役立つので、選択肢のひとつとしてアリですね。

 ・伊藤塾からもらう

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 市販がされているわけではありませんが、例年、論文合格発表後から口述式試験までの間に伊藤塾が行っている口述模試の特典として、口述再現集が配られます。平成23年度から最新年度までのものが配られるはずです。
 伊藤塾の口述再現集の特徴として、①各日程各科目ごとに3人の合格再現に加え、1人の不合格再現も掲載されているため、辰巳よりボリュームがある、②受験時の内心状況を書く欄があるため、受験生がどう考えていたのかを知ることができる(辰巳の再現でも、かっこ書きで内心を記載している人がいますが、全員ではないです)、③冊子の冒頭に受験にあたっての心構えや不合格する人の特徴が書かれており、非常に参考になる、の3点が挙げられます。正直、辰巳よりも伊藤塾の再現の方が役に立ちます。
 口述再現は、あくまで再現なので、受験生の受け答えがグダっていると、再現を読んでいて的を得ないことがあります。そういうときに、複数人の再現を比較して読めると便利なんですよね。また、③の記載は的確かつ有用で、私が不合格した時も、書かれていた不合格パターンと同じ受け答えをしてしまっていました。反面教師として、強く意識しておく必要があります。
 ちなみに、例年、論文式試験終了後に募集している、伊藤塾の特別奨学生に申し込みをすれば、最新年度の口述再現だけもらうことができます。令和2年度は最新3年分配布されていましたが、それ以前は最新1年分しか配布されていなかったはずです。延期された影響かと思います。なお、令和2年度の特別奨学生の募集は終わってしまっているので、令和2年度の受験生は赤本青本を買うか口述模試に申し込みをすることをおすすめします。

 ・辰巳の最新の予備試験ぶんせき本に書かれてるリンクから申し込む

 この本に書かれているリンクから、ウェブ上で申し込みをすると、PDFで口述再現集が送られてきます。ただ、申込期限があるので、古い年度のぶんせき本を買っても口述再現の申し込みはできません。令和3年度以降の受験生が、最新年度の口述再現を読みたいというならまだしも、そうでないのなら、赤本青本を買うか、伊藤塾から口述再現を貰ったほうがよいでしょう。

 ちなみに、私が書いた口述再現については、本記事上部にリンクがありますので、ご参考にしてください。

2.2.口述模試に申し込む(論文合格発表後)

 ほとんどの口述合格者は、口を揃えて口述模試を受けろと言っているはずです。私もそう思います。
 知識面の実力試しであることはもとより、伊藤塾の口述再現集の冒頭にも書かれていますが、口述式試験には口述式試験の作法というものがあるので、その作法が身についているかを検証する必要があり、口述模試はそのための機会としてうってつけなのです。
 例年、口述模試を開催しているのは、辰巳と伊藤塾、それに加えて近年は資格スクエアもやっています。口述模試の申込みは論文合格発表後ただちに開始されるので、予め予備校のホームページから申込方法を確認したうえ、合格を確認したらすぐに申込みをしましょう。(辰巳と資格スクエアは先着順で、伊藤塾は抽選だったようか気がします……。)
 一番オススメなのは伊藤塾の口述模試ですね。他の予備校よりも本番に近いような気がしました。私は、不合格になった年に辰巳と伊藤塾の模試を受けましたが、最終合格した年は伊藤塾しか口述模試を受けていません。(辰巳や資格スクエアを利用してはならない訳ではありません。場数を踏むことは重要ですからね。)
 ちなみに、無料で聞ける、伊藤塾の口述直前ポイント講義も聞いてみてください。伊藤塾の口述模試を受ける場合は聞いておけと言われるはずです。

2.3.高速で教材を回すということ

 前述した通り、口述式試験に合格するためは、2日間の試験日に向けて、膨大な知識を精度の高い状態で脳内にストックしておかなければなりません。
 一度読んだ本の内容を忘れないという人ならともかく、私なんかは記憶力がいい方ではないため、苦労しました。予備試験受験生の皆様の中には、新しいことを勉強すると、これまでに勉強したことが記憶から抜け落ちてしまって、大変な思いをした方もいるのではないでしょうか。わかります。
 記憶力に自信がないならば、効率よく知識をインプットする必要があります。一度勉強したことが時間の経過とともに頭から落ちていくならば、短期間のうちに効率よくインプットすることで、記憶の精度が高い状態で試験を受けることができるというわけです。
 高速で教材を回すためには、直前期までに教材を読み込んでおく必要はあります。普段の勉強はそのためにする必要があります(令和2年度の口述受験生であっても諦めず、教材を回しましょう)。
 私は、後で紹介する基本刑法を、1冊あたり1〜2時間で通読できるくらいには読み慣れていました(そこまで精度が高い読みができていたわけでははありませんでしたが)。そのお陰で、試験当日の待ち時間(人によるが結構長い)の間に刑法の知識を一通り確認することができました。

3.民事実務基礎科目

3.1.要件事実論

 口述の民事実務基礎対策で最も重要となってくるのが、要件事実についての理解です。おそらく、配点の半分以上は要件事実に関する問いに振られているのではないでしょうか。少なくとも、「要件事実は捨てる」ということをすると、口述は確実に落ちます。
 要件事実対策として最も有用な教材は、↓の大島本です。

 「入門編」と「続」とで2冊ありますが、どちらも読みましょう。
 「続」の方は2020年12月24日に出たばかりの本なので、持ってない方も多いでしょうが、買いましょう。
 「試験直前に新しい本に手を出すのは脂肪フラグ」だと??
 そこまでいうなら、口述過去問に全て目を通してほしい。「入門編」に書かれてない要件事実についての出題がされることがあるということがわかります。知らない要件事実を徹底的に潰すことは、不合格リスクを回避する上で超重要です。令和元年度の口述不合格者の中には、知らない要件事実が出てきたせいで答えられなかったという方もいました。
 ただ、「続」は全てに目を通す必要はありません。冒頭の、入門編に記載のない要件事実についての説明さえ理解できていれば十分でしょう。そこまで大変なことではありません。
 ちなみに、大島本は上記の「入門編」と「続」の他に、↓の「上巻」があります。

 こちらの「上巻」は、要件事実に特化した内容となっているため、「入門編」とは異なり、これ一冊で口述式試験の要件事実論で問われる知識をほぼ網羅しています。
 だったら、「入門編」と「続」の2冊じゃなくて、「上巻」1冊でええじゃないかと思うかもしれませんが、「上巻」には「入門編」に書かれている事実認定論や法曹倫理についての記述がないため、他の教科書で補充する必要があります。
 個人的には、「入門編」+「続」を揃えたほうが隙がないように思えますが、別に「上巻」でも十分とは思います。

 さて、大島本をどう読むかについても言及しておきましょう。
 過去問をみればわかりますが、口述式試験では、具体的事実に基づく要件事実を回答することが求められます。つまり、抽象的に、要件事実としてどんな事実が必要となっているかを覚えているだけでは足りません。大島本の事実摘示例(記載例)を習得すべきです。(大島本で、"Case"として二重の囲みになっている箇所が事実摘示例です。)
 私は、事実摘示例(と訴訟物と請求の趣旨)を一覧できるように、まとめノートを作成していました。

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 (↑民法改正前に作ったものなので、改正対応できてないかも)
 ここまでのまとめノートを自作してるのは私以外にいなかったかもしれません。これを印刷して試験場の待機室で読んでたら、2ちゃんで噂されちゃったくらいには目立ってました(ちなみに、試験場では電子機器は使えないので、iPadに資料を入れていった人が泣きをみるのは冬の風物詩です)。

 せめて、大島本の記述の中でも事実摘示例の箇所に関してはマーカーを引いてみるなどして強調表示して、高速で大島本を回せるようにしておく必要はあるかもしれません。
 要件事実学習というと、「やっぱり暗記しなきゃいけないのか」とか「暗記するだけじゃだめなのか」とか言われることがありますが、要件事実は理解して暗記することが重要です(私のまとめノートでも、脚注を使って知識を補充していました)。
 そうでないと、少し捻った聞かれ方をされた時に対応できません。例えば、平成30年度の1日目の民事では、売買契約に基づく代金支払請求+保証契約に基づく保証債務履行請求+代理といった、3種類の要件事実を組み合わせて請求原因事実を組み立てる必要がありました。この要件事実を、何も見ずに、目の前の試験から聞かれてすぐ答えられるようにするためには、要件事実がなぜそうなっているのかを理解している必要があります(もちろん暗記も出来ている必要がある)。

3.2.事実認定論

 要件事実ほどではありませんが、近年、事実認定論に関する問いが毎年のように聞かれています。
 ただ、論文式試験の準備書面起案問題のような事実認定論の問われ方はされていません。
 主に、「ある事実を認定するためには、どのような証拠があればいいか」という、論文式試験とは逆のベクトルの問いがなされます。
 このあたりの対策をするにあたって、なにか特定の書籍が役に立つとかはないと思うので、口述過去問を検討して、どんなふうに答えればいいのかをイメージできるようになれば十分かと思われます。
 また、処分証書・報告文書の区別や二段の推定の理解など、事実認定論について広く問われうるので、大島本入門編などの教科書を読んで確認しておくとよいでしょう。

3.3.民事執行法・民事保全法

 最近では論文式試験でも問われていますね。口述では昔から民執民保の知識は出題されていました。
 しかし、ほとんど基本的なことしかきかれません。民執に関しては令和2年度論文式試験でも問われた登記の意思表示の擬制の話と、民保に関しては処分禁止の仮処分、占有移転禁止の仮処分、仮差押えの3つが抑えられているかくらいでしょうか?ここらへんを、口述過去問に取り組みながら、テキストの当該部分にチラッと目を通すくらいでいいと思います。
 民執民保のテキストを通読するのはオーバースペックでしょうね。
 ちなみに、私の記憶だと、令和2年度の口述の1日目の民事(私は受けてない)で、執行裁判所の管轄という、これまで勉強してきてないだろう知識が問われたという風の噂を聞いたことがあるような気がします。ただ、ほとんどの受験生は答えられていなそうでした。相対評価であるならば、このあたりを答えられないダメージは小さいです。
 民執民保の細かい知識を覚えるよりも、要件事実知識の穴をなくして言ったほうがいいです。
 民執民保を一通り抑えたいというのであれば、辰巳の赤本に書かれていることを条文とともに読んでみたり、伊藤塾の予備赤本にFestina lenteとして書かれている民執民保のページを読むくらいでいいと思います。

3.4.民事訴訟法

 民事訴訟法の知識についても問われますが、論文式試験みたいに論点についての解釈論を展開することが求められることはないと思われます。
 口述で問われるのは、実務で使いそうな民訴の基本的知識ですね。
 例えば、事実認定論として前述した「ある事実を認定するためには、どのような証拠があればいいか」という問いに続いて、「その証拠を獲得するためには、民事訴訟法上どのような手段によることができるか」というようなことが問われます。基本的には、民訴法上の制度を指摘できれば十分です。
 また、管轄についてもよく出題される印象があります。
 これらの民訴法の基本的知識をインプットするにあたっては、口述過去問は当然として、↓のストゥディアなどの薄い本が有用です。

 また、予備校などが作成したまとめノート的な図表があれば、それも便利かと思われます。私は、受験新報2017年5月号の「図表でチェック!会社法・民事訴訟法・刑事訴訟法要点整理」という特集を図書館で印刷して試験会場に持っていってました。
 ちなみに、民訴に限りませんが、口述対策として短答過去問を潰している口述受験生を多く見かけます。確かに、口述で聞かれる管轄なんかは短答過去問でも頻出ですもんね。ただ、口述の民事では細かい知識はあまり問われない傾向にあるため、短答過去問を潰すのはコスパ悪いように私は思います。ただ、多くの受験生は短答過去問を一周するそうなので、時間があればやってみてもいいでしょう。

3.5.法曹倫理

 近年、論文式試験の民事実務基礎科目で法曹倫理についての出題がされていませんが、それは口述式試験で問えばよかろうという趣旨であると思われます。
 口述の民事では、法曹倫理は毎年のように聞かれているので対策必須です。法曹倫理でスベったとしても必ずしも不合格が確定するわけではありませんが、法曹倫理で無難に立ち回れれば安心材料になります。
 法曹倫理の対策をするにあたっては、①弁護士職務基本規程の条文とその趣旨を理解することと、②典型論点について理解することの2つが重要です。試験では非典型的な事例が出題されることもあるため、その時に①条文と趣旨の知識が役立ちます。
 法曹倫理対策に有用な本として、前述の大島本入門編辰巳の赤本があります。緑色の「解説「弁護士職務基本規程」第3版」は通読する必要ありません。
 なお、弁護士職務基本規程の内容はもちろん、できれば条文番号まで覚えていたほうが評価される場合があります。ただ、弁護士職務基本規程の中には、さすがに試験で出されないだろうという条文もあるので、全条文暗記というのはさすがに不要ですね。

3.6.民法の知識

 要件事実論にとどまらない民法の知識となると、範囲が広くて対策が難しいですよね。
 口述式試験では、ダイレクトに民法の知識を問うてくるということはあまりないのですが、要件事実論などと絡めてちょいちょい聞いてくることがあるので、用心しておいてください。
 例えば、令和元年度の1日目の民事実務基礎科目で、「占有補助者」と答えさせる問いがあったそうです(私は2日目が民事だったので、伝聞です)。
 民法の全体像を俯瞰して復習するのであれば、↓の潮見全がいいのではないでしょうか。

4.刑事実務基礎科目

4.1.刑法

 刑事実務基礎科目の配点の半分を占めているだろうと考えられているのが、刑法についての知識の理解です。
 口述過去問をご覧になればわかると思いますが、けっこうエグいところまで聞いてきます。平成29年度の2日目の刑事とか、口述再現を読んでて「うわキツ」と思いました。試験本番は試験官の目の前で答えなければならないので緊張感が段違いなわけで、もちろん手元にメモ(答案構成)を書いて熟考することなんてできません。そんな状況で、あまり深く考えたことがないような理論的な問いをされたら、頭がフットーしちゃいます。
 そんな問いに答えるためには、基本書の熟読が欠かせません。まあ、実際に試験会場でほかの受験生が使っているものを見てみると、意外と伊藤塾の基礎マスターテキストを使っている人が多かったりするので、基本書が必要条件というのは言い過ぎかもしれませんが、口述に落ちるリスクを極限まで小さくするというのであれば、せめて基本刑法のような基本書を通読することをオススメします。

 私は、「2.3.高速で教材を回すということ」で書いた通り、試験直前期は基本刑法を数時間で通読できるように仕上げていました。口述受験生の方は、気合を入れて知識を詰め込みましょう。
 他にも、犯罪ごとの構成要件は特に正確に暗記できている必要があったため、受験新報2018年7月号の「犯罪構成要件の定義集」という特集を図書館でコピーして見直していました。しかし、受験新報のバックナンバーを入手するのも大変かと思います。
 幸い、法学書院の「司法試験・予備試験合格のための論証集 刑事系―刑法・刑事訴訟法」という本に、その連載が移植されているので、入手することは容易かと思います。ただ、この本は論証集としてのクオリティが低いので、ちょっちょちょちょ。
 その代わりとして、「アガルートの司法試験・予備試験 合格論証集 刑法・刑事訴訟法」を使うのをオススメします。

 実はこの本にも「構成要件の定義集」が付録としてついてきます。これ、受験新報の特集の丸パクr……コピペしてるだけなので、受験新報が入手できないという人にオススメです。(あの特集は出来が良かったがために色んな教材にパクパクされがち)。
 論証集の通読も口述対策に使えるので、その意味でアガルートの論証集は有用です。 

4.2.刑事訴訟法

 前節の刑法に並んで、刑事実務基礎の配点のもう半分を占めているのが、刑事訴訟法についての知識や理解です。
 近年、刑事訴訟法についての出題パターンは2つあります。
 ①手続(条文)についての知識を問われるか、②論点(解釈論)についての理解が問われるかの2つです。
 ①手続(条文)というのは、論文式試験の刑事実務基礎科目で問われていたような刑事手続に関する基本的事項を指しています。ただ、論文式試験よりも実務的だったりマイナーなところまで聞かれる印象があります。
 ②論点(解釈論)というのは、論文式試験の刑事訴訟法(法律基本科目のほう)で聞かれているような、論点に関する解釈論を答えるというパターンです。
 私が平成30年度と令和元年度に口述式試験を受けた経験から、2日ある試験日のうち、一方の日程で①手続(条文)中心の出題がなされ、他方の日程で②論点(解釈論)中心の出題がなされている印象がありました。
 私の場合、平成30年度は2日目が刑事で、令和元年度は1日目が刑事でしたが、どちらの年度も①手続(条文)中心の出題がなされました。
 ①と②はパターンごとの対策が必要となってくるため、それぞれの対策法をご紹介します。

 ・①手続(条文) 
  口述で問われる刑事手続の知識をつけるためには、ただ刑事訴訟法の基本書を読めばいいというわけではありません。
 以前の記事でも書いた通り、論文式試験の刑事実務基礎科目よろしく、刑事実務基礎プロパーを徹底的に身につける必要があります。
 そして、刑事実務基礎プロパー知識を抑えるにあたっては、口述過去問は当然に解くものとして、他の教材としては以下の書籍が有用です。

 ただ、この本一冊で合格確実かといわれても、そういう訳では有りません。私が 口述に落ちた平成30年度の2日目の刑事で問われた証人保護の手続について、この本では言及がありません。網羅性という点で心もとないというのは否定し難いです。
 そこで、もうすこし広く刑事手続についての知識を備えるため、以下の書籍も併せて読んでおくと無難です。

 基本刑法Ⅰは、2020年に出たばかりの基本書(教科書)で、刑事訴訟法の中でも手続(条文)や実務の取り扱いなどに紙面を割いている珍しい基本書です。まさに、刑事実務基礎科目のためにある書籍といえます。
 例えば、125頁以下の「6 捜査段階における弁護人の活動」は口述式試験で頻出の分野について書かれており、知識の整理に有用であるし、私が平成30年度に答えられなかった証人保護に関する諸制度については、329頁以下の「(1) 証人尋問における保護」においてイラストを用いてわかりやすく説明されています。私が受験する時に欲しかった……。
 ただ、口述式試験で出題されないだろうというところまで細かく書かれているので、メリハリを付けずに精読すると時間がなくなりそうです。口述過去問を睨みながら、メリハリを利かせて通読をする必要がありそうです。
 ちなみに、刑事手続に重点を置いた教科書としては、以下のものが有名でした。

 この本も、基本刑訴Ⅰと同じコンセプトで書かれた教科書で、手続についての説明や実務の紹介がなされているため、口述式試験に有用な本です。
 基本刑訴Ⅰのほうが読みやすさは勝っていると思いますが、入門刑事手続法の方が統計の紹介が多かったり、基本刑訴Ⅰが紹介していない知識が書かれていたり(例えば、共犯者間の引き込みの危険は入門刑事手続法にしか言及がないはずです。基本刑訴はⅡの方でかくのかな?)するので、こちらの本も十分オススメできます。

 ・②論点(解釈論)
 法律基本科目としての刑事訴訟法で問われているようなことが出題される傾向にあるため、基本的には論文式試験の対策と共通すると思われます。
 まず、論証集に書かれているようなことは頭に叩き込んで、聞かれたらすぐ答えられるくらいに記憶の精度を高めておきましょう。
 他になにをするかは悩ましいです。論文式試験に向けて解いていた問題集があれば、その見直しをするのでもいいでしょうし、判例について聞かれることもあるそうなので判例百選を読むのもよいでしょう。
 リークエ刑訴などの基本書の通読ができればいいのかもしれませんが、さすがに分量的にキツイので、既に紹介した入門刑事手続法の通読に代えてもいいかもしれません。

4.3.法曹倫理

 平成30年度と令和元年度の刑事実務基礎科目で法曹倫理の出題はされていないため、しばらくご無沙汰です。
 ただ、これらの年は論文式試験の方で法曹倫理が問われていたということもあって口述式試験での出題を控えていたのかもしれません。令和2年度の論文式試験では民事でも刑事でも法曹倫理が問われなかったので、要注意ですね。
 具体的な対策としては、民事と同様、弁護士職務基本規程の条文の理解と典型論点の理解の双方が大切です。
 教材としては、口述過去問は当然として、その他には辰巳の青本や伊藤塾の定石が有用です。

5.まとめ(口述合格スターターキット)

 (紹介する本の中でも、★マークの本が特に重要です。)
★①伊藤塾の口述模試+口述模試や特別奨学生でもらえる口述再現
★②大島眞一「新版 完全講義 民事裁判実務の基礎[入門編]〔第2版〕」
★③大島眞一「続 完全講義 民事裁判実務の基礎」
 ④安西明子ほか「民事訴訟法 第2版 (有斐閣ストゥディア)」
 ⑤潮見佳男「民法(全) 第2版」
★⑥大塚裕史ほか「基本刑法I 総論 第3版」
★⑦大塚裕史ほか「基本刑法II 各論 第2版」
★⑧「アガルートの司法試験・予備試験 合格論証集 刑法・刑事訴訟法」
★⑨下津健司ほか「民事裁判実務の基礎/刑事裁判実務の基礎」
★⑩吉開多一ほか「基本刑事訴訟法I 手続理解編」 または
 ⑩’三井誠・酒巻匡「入門刑事手続法 第8版」
 ⑪山本悠揮「刑事実務基礎の定石」


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