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予備試験口述合格率「96.3%」の罠   (口述不合格体験記つき)

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自分語り

 今から2年前の2018年11月8日。私はその日の16時半ころに、在籍していたロースクールで刑事の模擬裁判をしていた。検察官役として冒頭陳述を終え、一息ついたとき、ふと、予備試験の口述式試験の結果が気になり、手元のiPadを(周りの人に見られないように)太ももの上に置いて操作した。
 なにをかくそう、当時の私は2018年の予備試験論文式試験に合格し、口述式試験の受験を終え、結果発表を待つ身分にあった。尊敬する先生から、「君なら(論文式試験に)合格すると思っていた」と言われて、少し鼻が高くなっていたと記憶している。
 不安が残る中、「なんやかんやで受かってンじゃねw」とたかをくくり、法務省HPの合格発表のページに進んだ。

 しかし、目の前に広がっていたのは、当時の私には到底受け入れることができない現実であった。

 私の受験番号であった「00114」だけが綺麗に書かれていない。
 私の前後の受験番号をみても、抜けている番号はない。それなのに、私の受験番号だけ書かれていない。
 見間違えたかと思って何度も見返したし、違う年度の合格発表を見ているのかもしれないと、ページを遡って確認したりもした。
 それでも、なにも見間違えてはいなかった。
 何をしても世界線が変わることもなかった。

 口述落ちとはつまり「予備短答からやり直し、今年の努力の意味は無し」
ということ。
 全身の血の気が一瞬でひいて、手の震えがとまらず、目に見えるものの焦点があわなくなった。
 それからの模擬裁判の内容は一切記憶にない。夜の講義で提出する課題が終わっていなかったから、無心になって内職していた記憶はある。

 刑事の模擬裁判が終わってから、私は校舎のベンチで横になって、夜の講義が始まる時間までずっとひとりで泣いていた。近くに人の気配があったから、泣いているところを見られていたとは思うが、それでも涙が流れることを止めることができなかった。
 その日の夜の講義は、私の学部時代の恩師が担当されている講義であったため、講義が始まる前に不合格を報告した。夜の講義が始まってからも、講義時間の半分くらいは泣いていた。同じ部屋で講義を受けていた先輩達からすれば、その時の私が如何に不審であったことか。あと、こころなしか、先生は私にソクるのを遠慮していたような気がした。
 日が変わってから少しは落ち着いたが、不合格発表から一週間くらいのあいだは不意に泣き出してしまうメンヘラ男と化してしまっていた。

 口述に落ちたからには、なにがダメだったのかの分析をしなければならない。口述受験直後は、試験のことを忘れたい一心で、口述再現を作成する以外はなにも振り返りをしていなかったから、不合格発表をうけて、なぜ自分が落ちたのかが理解できていなかった。
 もちろん、試験の場で100点満点の振舞いができていたわけではないが、それでも自分が成績下位5%に入っているとは思ってもいなかった。
 (※2018年度の合格率は94.96%)

 今思えば、その年の私の受け答えは、不合格推定が働いてしまっても文句が言えない出来だったので、残念ながら当然の結果ともいえる。
 しかし、不合格発表直後の私は、自分の出来の悪さを直視できず、自己の能力以外になにか構造的な問題が口述式試験にあるのではないかと、考えを巡らせていた。(こうでもしないと落ち着けなかった。)

 これは責任転嫁であり、陰謀論じみていて、負け惜しみのように見られても仕方はない。
 しかし、この頃の私がたどり着いた仮説は、あながち間違いではないのではないかと、今の私も思っている。
 そこで、今回のnoteでは、この陰謀論じみた仮説を紹介する。

合格率95%でもこわい

 要するに、私が伝えたいのは、口述式試験の恐ろしさを単純な合格率の高さだけで測るのは危険だということ。
 予備試験口述式試験の近年の合格率は、およそ95%となっており、口述式試験の受験者の中で不合格となるのは20人に1人しかいない計算になる。
 こう聞くと、口述式試験は恐れるに足らない試験であると思う人もいると思うが、それは間違いである。その理由を何点か紹介したい。

 第一に、口述式試験を受験するのは、予備試験論文式試験を合格した者で占められているため、もともとの母集団のレベルが高いということである。
 最近の予備試験の結果を見ていると、論文式試験に合格するのは、短答式試験の受験者数との比較において、約4〜5%しかおらず、口述式試験を受験するだけでも高い壁を超えたレベルの高い受験生が揃っていると見て取れるだろう。
 20人に1人という壁は、短答や論文の壁を突破するのとは訳が違う。

 第二に、口述式試験では、自分の元々の学力が高かったとしても、本番の出題との相性や当日のコンディションとの関係で、うまく受け答えができなくなり、結果として下位5%の成績をとってしまうリスクがあるということである。
 これは、短答や論文でも共通していえることだが、口述式試験において顕著である。
 つまり、口述式試験では、目の前に試験官がいて、リアルタイムで出される質問に対して、一言一句聞き取られながら、息をつく暇もなく、次々と答えていかなければならないから、緊張感が担当や論文と段違いなのである。
 私も、短答や論文ではなんとかメンタルのピーキングを成功させていたが、はじめての口述式試験ではピーキングがうまくできず、頭がフットーしそうになった場面が多かったと記憶している。

 以上の二つの点は、他の口述合格者もよく話しているところであるから、聞いたことがあるという人も多いかもしれない。
 しかし、口述式試験のおそろしさはそれだけではない。

口述式試験の構造上の問題

 たとえ試験本番での受け答えが、上位95%に入るような出来の良さであったとしても、不合格となってしまう可能性があるのではないか、と私は考えている。
 これはどういうことか。

 口述式試験は、2日間にわたって行われ、民事実務基礎と刑事実務基礎の2科目について、受験生は2日間のどちらかで1科目ずつ受験することなる。
 そのため、試験問題は科目ごとに2パターン用意されており、全ての受験生が同じ問題について試験を受けるというわけではない。
 さらに、試験室は科目ごとに約15室あり、どうやら、その試験室の試験官ごとに、受験生に対する質問のされ方が微妙に異なっている。
 噂によると、口述式試験では試験官の手元に採点表のようなものがあり、この採点表には、いくつかのトピックと、トピック毎に細かめの質問事項が記載されているらしい。そして、口述式試験の得点は、その質問事項にどれだけ答えられたかにかかわっており、一つの質問事項に答えられず時間を浪費してしまった受験生は、その次の質問に進めず点が稼げない、ということになる。
 しかし、口述再現を読んだり他の受験生の声を聞いていると、どうやら試験官によって質問の仕方が微妙に異なっている。
 例えば、私は2018年の口述式試験において、他の受験生がされていないという質問を幾つかされた経験がある。(受験当時の私は、自分が優秀すぎるから、他の受験生に聞かれていないような質問を投げかけられたのだと思っていたが、今思えばあれは、不合格ラインに片足をつっこんでいて危なかった私に対する救済措置としての質問だったのだろう。あたしって、ほんとバカ。)

 見ての通り、試験官(試験室)によって質問の仕方が異なっている以上、全受験生が全く同じ採点基準によって均一に評価されているとは言い難いのではないか。
 むしろ、口述式試験も、論文式試験と同様に、採点者ごとの点数調整が行われている、といえるのではないか。
 ちなみに、論文式試験では、以下のような点数調整がなされている。

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 口述式試験について、このような点数調整がされていると公表されていないので、全く同じ点数調整がされているとはいえないかもしれない。
 しかし、論文式試験においてそうであるように、口述式試験の得点(素点)は、その試験室で受験した他の受験生との関係で相対化されているのではないか。
 得点の相対化がなされるということは、とてもおそろしいことである。
 つまり、同じ試験室で受験していた受験生の中に、超優秀な受験生が多くいたとすると、自分の得点が必要以上に低く点数が見積もられてしまうリスクがあるのである。

 確かに、得点が相対化されるとしても、超優秀層の受験生からすれば、そんなことは関係ない。
 しかし、そういった超優秀層未満の受験生は、得点の相対化のあおりを受ける可能性がある。たとえ、受験生全体からみて上位95%の中に入るような受け答えが出来ていたとしても、点数調整の結果、下位5%の中に入ってしまうことが無いとはいえない。
 そういう層の受験生は、不安定な地位に立たされることになるのだが、口述式試験は、そういうことも御構い無しな試験なのである。

「優しめの試験官」と「厳しめの試験官」

 なお、口述式試験の試験官の中には、優しめの試験官と厳しめの試験官がいるといわれる。そして、多くの口述受験生は、自分の試験官がやさしい試験官であることを望んでいる。
 しかし、優しめの試験官こそ怖いのではないか。
 優しめの試験官は、受験生をリラックスさせて実力の全てを発揮させようとしてくれることが多いのだが、得点は試験室毎に相対化されるとすれば、他の受験生の得点が伸びることで、相対的に自分の点数が下がってしまう危険がある。
 逆に、厳しめの試験官は、その態度から受験生にプレッシャーを与えがちで、これにより受験生は思うように受け答えが出来なくなってしまうことが多い。しかし、得点は試験室毎に相対化されるのだとすれば、そのことは大して問題ではなく、むしろ、厳しめの試験管に対して毅然として受け答えが出来ていれば、点数はより相対的に高くなるといえそうである。

 口述受験生は、目の前の試験官が優しかろうと厳しかろうと、そういうことに惑わされず、試験場でやるべきことをやればそれでいいのである。

約5%は"絶対に"落とされる

 口述式試験は、20人に19人を合格させる試験であるが、裏を返せば、20人に1人は何が何でも落とす試験であるといえるのではないか。
 おそらくは、ある年の受験生の中に、例年の合格ラインを上回る受験生が比較的多くいたとしても、合格率が98%とか99%になるものではなかろう。

 短答や論文の合格率が(ある程度)一定なのはまだわかる。あまりに多くの受験生を合格させても試験会場や採点者を用意できないだろう。
 しかし、口述式試験で、ほぼ必ず5%の受験生を落とすのは理解できない。人数的に、落とされるのは十数人程度なのだから、キャパシティの問題から合格率を抑制しているのではない。
 むしろ、ここで一定数の不合格者を出しているのは、翌年以降の受験生に対する見せしめ的な意味合いが強いのではないか。
 口述式試験を受験したことのある人ならわかると思うが、論文合格発表から口述の試験日までの2週間は、口述対策としての勉強に追われることになる。その間の勉強強度は非常に強いもので、私もこの2週間で多くのことを学んだ。
 ここまで勉強するのは、口述で落ちて努力が水の泡になるのが怖いからである。前年の不合格者をみて、自分はああなりたくないと、恐怖感から勉強せざるを得ないと心理的に追い込まれることになる。
 このように、口述不合格者は、将来の受験生に対する見せしめとしての役割が与えられている。落ちた側からすればたまったものではない。

 既に述べた通り、得点が試験室毎に相対化されているとすれば、純粋に上位95%の能力をもっている受験生を合格させているわけではなく、ここに構造上の問題があるといえそうである。
 しかし、それでも法務省は見せしめとしての口述不合格者を毎年量産している。そのような不安定な地位に立たされても気持ちのいいものではない。

 未来の口述受験生は、そのような不安定な地位に立たないためにも、確実にスベらない口述式試験対策をする必要がある。
 これについては、こちらのnoteに書きました。読んでいただければ幸いです。

余談(自分語り)

 私が2018年に不合格発表を目にしたのは、刑事の模擬裁判をしている授業中であった。
 その何週間か後、模擬裁判では証人尋問をすることなって、その時の私は裁判長役として訴訟指揮をしていた。先生から指示があったので、あらかじめプロ刑だかプラ刑だかに目を通してから模擬裁判に臨んでいた記憶がある。
 翌2019年、私は二度目の口述式試験を受験することができたのだが、そこで、模擬裁判で裁判官として訴訟指揮をした経験が活きる出題がなされた。
 私にとって模擬裁判は、口述不合格という苦い思い出を味わった場であると同時に、翌年の最終合格のための布石ともなった。
 口述に落ちたからといって死にはしないから、とにかく諦めず進み続けること🕺。
 不合格のすぐそばに、次のためのチャンスが眠っているのかもしれない、ということです。お後がよろしいようで。

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