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予備口述の不合格再現を分析する②(H30刑事実務基礎2日目)

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【本記事における表記法について】
 予備試験口述式試験は、受験生1人に対して、試験官として主査の先生と副査の先生がつきます。1対2ですね。
 本記事は、試験におけるやり取りを、試験後に私が再現したものです。私の発言と、主査の発言、副査の発言は以下のように記載するものとします。

 私「〜〜〜」
 主査「〜〜〜」
 副査「〜〜〜」

 また、私が受験当時に内心で考えていたことはかっこ書で記載します。
 再現の分析については、グレーの網掛けになっている引用部分の外で行います。

【凡例】
基本刑法総論=大塚ほか「基本刑法I 総論 第3版」(日本評論社、2019年)
基本刑法各論=大塚ほか「基本刑法II 各論 第2版」(日本評論社、2018年)
基本刑訴=吉開ほか「基本刑事訴訟法I 手続理解編」(日本評論社、2020年)
三井酒巻=三井誠・酒巻匡「入門刑事手続法 第7版」(※最新版の8版を持ってないので、ご容赦ご容赦……)

ここから再現がはじまります

 ドアを3回ノックする。
 私「失礼します。○室○番です。よろしくお願いします」

 入室時のマナーについては、民事の再現の方で書いた通り。

 主査「それでは始めます。事案を読み上げますので落ち着いて聞いてください」
 私「はい」

 刑事実務基礎では、民事実務基礎で用意されているような、事案の概要が書かれたボードはなく、聞かされた事案を頭の中で記憶していなければなりません。

 主査「AはBが出入りしている住居に火をつけました。Aにはどのような犯罪が成立しますか?」
 私「はい、現住建造物損壊罪です」(放火の罪は何年か前にでてたでしょうよ涙)
 主査「えっ」
 私「あ、現住建造物・・・炎上罪です」
 主査「落ち着いて答えてください」
 私「えええっと、現住建造物・・・・放火罪です」

 テンパってます。放火犯が出るなんて思ってなかったので、罪名から間違えちゃってます。ヤバいですね!
 なんか口述で出題される犯罪と予備論文過去問で出題されたことのある犯罪、リンクしているようなしてないような……。

 主査「そうですね。では、現住建造物放火罪の着手時期はいつですか?」
 私「火が媒介物を離れて独立して燃焼するに至った時点です」
 主査「・・・。そういった結果について、刑法上なんていわれているか、知っていますか?」
 私「ええっと・・・」
 主査「漢字二文字で」
 私「燃焼、炎上・・・焼損?」
 主査「そうですね、では着手時期はいつになりますか?」
 私「独立して焼損した・・・」
 主査「一般に、実行の着手時期はいつだと言われていますか?」
 私「はい、結果発生の現実的危険性のある行為をした時点です」
 主査「それでは、現住建造物放火罪の着手時期はいつになりますか?」
 私「はい、本問に即して言うと、Aが(いろいろいう)」
 主査「いえ、本問に即してではなく、より一般的に」
 私「(質問の趣旨を理解できず、変なことを言う。)」
 主査「そうではなくて、言っていることの意味がわかりますか?さきほどあなたが言った結果発生の現実的危険性というのにあてはめればいいんです」
 私「あっ、はい、失礼しました。現住建造物放火罪の結果である焼損の結果(原文ママ)が発生する現実的危険性を有する行為をした時点です」

 私ってホント馬鹿。
 実行の着手時期と結果発生時期を混同してしまって、受け答えができていません。
 ヤマを外したとはいえ、これはさすがにアカン。
 主査の先生、呆れてたような記憶があります。

 主査「そうですね、では事案を付け加えまして、AはB宅にガソリンを撒き、そのうえで火をつけた新聞紙をガソリンに近づけました。この時点では実行の着手は認められますか?」
 私「はい、ガソリンは揮発性が高く、火をつけた新聞紙を近づけるだけでも発火をする危険があるので、焼損の結果を発生させる現実的危険性を有する行為をしたといえ、実行の着手が認められます」

 灯油とガソリンの違いについては知っていたので答えられました。(基本刑法各論365頁参照)

 主査「それでは事案を変えて、AはB宅の玄関ドアに灯油をまいたうえ、火のついた新聞紙を近づけた場合はどのような犯罪が成立しますか?」
 私「はい、器物損壊罪が成立します」
 主査「現住建造物放火罪は成立しないということですか?」
 私「はい、灯油というのはガソリンとは異なり、揮発性が高くないので、火をつけた新聞紙を近づけたとしても結果発生の危険を有するとはいえないので、未遂罪さえ成立しないからです」
 主査「未遂罪が成立しないなら、放火罪に関してはなにも犯罪が成立しないのですか?」
 私「あっ、失礼しました。予備罪が成立します」(あんたさっき条文読んだでしょうが・・・)

 主査の先生に質問を聞き直されたので、何か間違ったことを言ってしまったことに対する誘導かとも思いましたが、わりと自信をもって答えられるところだったので、主査の先生は理由付けを聞きたいだけだろうと理解して、私の発言の結論を維持しました。
 予備罪の存在を忘れていたのはシンプルにアフォでした。
 てか、成立する犯罪、器物損壊ではなく建造物損壊では?

 主査「はい、それでは事案を変えて、B宅にはBが住んでおらず、出入りもしていなかった場合、何罪が成立しますか?」
 私「非現住建造物放火罪が成立します」
 主査「条文は何条にありますか?」
 私「ええっと、108くらいかと・・・」
 主査「108条は現住建造物放火罪ですね」
 私「はい、そうであれば、109条1項です」

 条文番号聞いてくるのキチィです。でも、答えられたらボーナスポイントもらえるんでしょうね。

 主査「そうですね、では、BがAの放火について承諾を与えていた場合はどうなりますか?」
 私「109条2項の、非現住建造物放火罪が成立します」
 主査「それはなぜですか?」
 私「はい、被害者であるBがAの行為に承諾を与えたということですから、放火罪の保護法益である財産や人の生命身体については放棄されているといえ、ただ残った公共の危険についてが残ったということで、これについての犯罪である非現住建造物放火罪が成立します」

 基本刑法各論367頁には、「放火について居住者・現在者の同意がある場合も、非現住建造物として扱われる(なお、放火罪は社会的法益に対する罪であるから、居住者等の同意があっても各種放火罪の成立は否定されないことに注意すること)。」と書かれています。
 また、基本刑法各論363頁の、現住/非現住の区別と、他人所有/自己所有の区別に関する記述もあります。
 このあたりの記述を、噛み砕いて説明することが求められていましたね。私の説明が噛み砕けている訳ではありませんが……。

 主査「公共の危険というよりは公共の安全ですかね。ところで、放火罪の保護法益のうち、一番重要なものは何かわかりますか?」
 私「公共の危険(原文ママ)というのは抽象的な危険なので、それ自体に重要性はなくて、財産権よりかは人の生命身体という保護法益はかけがえのないものなので、それが一番重要かと思います」
 主査「放火の罪は公共の安全の保護を主眼においていて、財産権や人の生命身体については副次的に保護しているにすぎないんですよね」

 私の浅い刑法の理解のせいで間違えてしまったオブジイヤーです。
 基本刑法各論363頁には、公共の安全が最も重要な保護法益と書かれているわけではありませんが、「保護法益は公共の危険である」と書いてあるんだから、ちゃんと基本刑法を読み込めていれば正確に答えられたはずです。
 全部わたしの所為です。

 主査「では、事案を変えます。AがB宅に火をつけようとしたところ、Cが怪しく思って、携帯電話で警察に通報しながらAに近づいてきました。それを見たAは通報されるとまずいと思い、火をつけることを諦めました。この事案について、まず、中止未遂の要件である「自己の意思により犯罪を中止したとき」の意義についてはどのように考えますか?」
 私「ええと、やろうと思ったのにあえてやらなかった場合がこれにあたると考えます」

 刑法総論についての出題に移りました。
 問われているのは中止犯についてですね。
 最初に、「自己の意思により犯罪を中止した」の意義について、どの学説の立場に立つのかを明らかにすることが求められていました。おそらく文脈からして、「自己の意思により」の部分の意義を説明すれば十分だったのではないかとは思います(基本刑法総論292頁以下を参照)。
 しかし、私の説明した立場は、どの学説の立場に立っているのか判然としません。「思ったのに」と言っていたので、主観説でしょうか。もうすこし立場をわかりやすく、「行為者の主観において、犯罪の遂行が可能な場合であったか否かにより判断します」といえばよかったと反省しています。

 主査「それでは、本問の場合、「自己の意志により犯罪を中止したとき」にあたりますか?」
 私「はい、Aが犯罪を中止したのは、警察に通報しようと携帯電話で話しながら近づいてきているCを現認したからで、通常人であればこれによって犯罪を中止せざるをえないということなので、外部的事情によって中止したにすぎず、やろうと思ったのにあえてやらなかった場合にあたらないからです」

 あれ?当てはめが客観説っぽくなってないか?
 論理矛盾ってレベルじゃねーぞ!

 主査「あなた今、通常人といいましたが、要件該当性については一般人を基準に判断する立場に立つのですか?」
 私「はい」

 主査の先生も戸惑ってんじゃんよ!

 主査「それでは、事案を変えて、Aは近づいてくるCを見て、ただ友人と通話しながら話しているだけだと思いつつ、Bの目の前でB宅を放火してやろうとおもったのでとりあえず放火をやめたという場合、「自己の意志により犯罪を中止したとき」にあたりますか?」
 私「あっ、えー。そうですね、当たると思います」
 主査「通常人ならばCが友人と通話しているだけとは思わないはずですが」
 私「はい、見解を訂正させていただいて、原則として通常人を基準にしつつ、えー、裁判の場において特に被告人が異なる認識を有していると立証された場合にそちらが優先されると考えます」
 主査「それは学者の先生が言っていることですか?」
 私「いえ、今考えました」

 これ、間違ったムーブをしてしまっています。
 これは、学説の不都合性をどうにかしろパターンの問いです。私が勝手にそう呼んでいます。
 ここで主査の先生が事案をアレンジして質問をした意図は分かりづらいと思います。
 おそらくは、犯人が、客観的には外部的事情により犯罪を中止したようにみえるのに、主観的にはそのような外部的事情を認識(理解)せずに犯罪を中止したような場合、客観説の立場から「自己の意思により」の要件該当性を認めることは、結論の妥当性を欠くのではないかという問題意識が、主査の先生から示されているんじゃないかということではないでしょうか。
 これに対して、どう解答すべきなのか、正直私にもわかりません。
 ただ、この年の私の解答は不適切だったでしょう。
 つまり、独自説を作るなということです。この時の私は、民法とかの現場思考をするノリで独自説を作り、それを試験官に披露したわけですが、反応が微妙そうだったので、これは求められていないんでしょう。
 他の合格者再現を見ると、客観説に立っていた人が主観説に立場を変えた人もいて、その人はそのまま主観説のあてはめをされていただけだったので、これでもよかったのかもしれません。
 私が最終合格した令和元年度の口述でも、このパターンの問いがなされたのですが、その時どうしたのかはまたの機会に。

 主査「そうですか、では次に進みます。刑事訴訟法上、証人を保護するための措置として何がありますか?」
 私「うう、証人と傍聴人との遮へい、被告人との遮へい、ビデオリンクの方法によるもの・・・」(捜査じゃないとかむりぽよ)
 主査「他にわかりますか?」
 私「他に?!ええええ、被告人を退席させるとか・・・」
 主査「退席というよりは退廷ですね」

 ここから刑事訴訟法についての出題に入ります。
 以前の記事で説明した通り、刑事訴訟法の出題パターンは2つあり、今回はそのうちの①手続(条文)についての知識が問われるパターンでした。
 この時の私は、全く手つかずの分野(証人保護)から出題されてしまったものですから、狼狽しまくってます。
 ちなみに、このあたりは基本刑訴327頁以下や三井酒巻188頁以下に書かれています。

 主査「ところで、13歳である証人のために取りうる措置として何が考えられますか?」
 私「付き添いをさせることが考えます」
 主査「誰を付き添わせることができるますか?」
 私「親権者・・・わきまえのある者?」
 主査「わきまえのある者ですか・・・」
 私「はい・・・」

 なにか難しい解釈論や実務上の扱いが聞かれているわけじゃないんです。
 ただの条文上の要件を聞いてるだけなんです。
 それなのに、答えられなかった。
 基本刑訴や三井酒巻にはちゃんと書いてあるのに。

 主査「ちなみに、遮へいの措置をとる場合、被告人に対する場合と、傍聴人に対する場合と、どちらの要件が重いと思いますか?」
 私「うーん、刑事訴訟の原則である公開原則の例外を認めるものである傍聴人に対する場合のほうが重いと考えます」
 ここで副査がメモを取る。
 主査「憲法によって保障されている公開原則ですね。しかし、被告人に対しても憲法上の権利を制約することになるのですが」
 私「被告人・・・。裁判を、迅速な裁判を受ける権利とか・・・」
 主査「いや、もっと具体的な」
 私「あっ、反対尋問権を制約します」
 主査「どのように反対尋問権を制約するのですか?」
 私「反対尋問をする際に証人の供述態度を観察できないことによって反対尋問に役立てることができなくなります」
 主査「そうなんですよね。こういうこともあって被告人に対する遮へいの要件のほうが傍聴人に対する遮へいより要件が重くなっています」
 私「あっ・・・」(アハハ!)

 どちらの要件が重いのか、二分の一の賭けに、私は、負けたんです。
 被告人と証人の間に遮へいを設けることの方が要件が重いんですよね。
 三井酒巻にははっきりと書かれていませんが、基本刑訴329頁には、「傍聴人との間では、裁判所が相当と認めれば遮へいできるが、被告人との間では、被告人の証人審問権への配慮から、証人が圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれも必要で、さらに弁護人が出頭しなければならず、弁護人は証人の姿を見て、その供述態度等を観察した上で尋問できるようにしなければならない。」(太字は原文ママ)とはっきりと書かれています。
 基本刑訴が平成30年当時に存在していたら、この本がタネ本じゃないかと疑っていたでしょうね。それくらい素晴らしい本です。私も読み込みたいと思います。基本刑訴Ⅱも買います。

 主査「以上で終わります」
 私「ありがとうございました」

 試験を受け終わった当時の私は、受け答えができなかったところもあるけど、他の受験生もできなかっただろうし、なんとかなるっしょ!と考え、その足で神保町ブックフェスティバルまで行ってました。
 ろけっとぽっぽーのガチャも回しました。
 地獄に落とされるのは、これから2週間後の話です。

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