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口腔フローラの改善に向けた試み

  口腔内には700種以上の細菌叢が存在し、生体と共存しながら防御的な役割を果たしています。口腔内の2大疾患(う蝕・歯周病)および口腔内のほとんどの疾病は複合感染症であり、口腔内常在菌(オーラルマイクロバイオーム)の平衡破錠(ディスバイオーシス)で発生することが最近の研究で報告されています。口腔内疾患は従来の疾病に対する薬剤投与から予防へのシフトが必要です。
 現在、歯科で歯周病治療の一環として使用されている消毒剤は『細菌=ばい菌』とする200年前のパスツールの考えを継承しており、口腔ケア剤として市販されているポピドンヨード・クロルヘキシジン・ヨードチンキ等や治療用抗生剤の不適切な使用で、アレルギー疾患やAMRの増加という社会問題を引き起こしています。ちなみに、ポピドンヨードは細胞毒があり、コロナ感染症対策などには、水うがいよりも良いという基礎データーはありません。
 ここで、東邦歯科診療所note「歯科医師の立場からコロナウイルス対策」に寄せられた会員からの体験談をご紹介いたします。
『口腔常在菌はとても大切だということを体験した事があります。
 今から15年ほど前、喉の調子が悪いと思い、イソジンで一生懸命うがいを
 しました。そしたら、喉が塞がるほど腫れてしまい、即入院となりました
 た。内科の先生によると、良い菌も悪い菌もいなくなってしまったとの事
 でした。何でもやり過ぎは良くないのだと実感しました.....涙』
 この体験談からも分かるようにポピドンヨードの過剰な使用には十分な注意が必要です。歯科の口腔常在菌を消毒剤と抗菌剤で滅するという考え方は、医科の腸内細菌に対する考え方と比較して非科学的な手法であるといえます。感染症治療の有力手段である抗生物質の出現は感染の防止や治療に極めて効果的になった反面、それらによる種々の副作用、薬剤耐性菌の増加を招き、歯周病への対応を困難にしています。
日本大学歯学部付属病院歯周病科に来院した長期の局所抗菌薬療法歯周病患者の口腔細菌の薬剤耐性菌に関する研究によると、口腔レンサ球菌に関する解析を行った結果、口腔レンサ球菌に対するテトラサイクリン(tet)耐性口腔レンサ細菌が占める割合は14.6%であり、大部分の被験者から多種多様なtet耐性口腔レンサ球菌が検出されました。
 近年、分子生物学の進展によるヒトマイクロバイオームの研究で、ヒトは疾患を引き起こす微生物である病原体を保持していることが明らかになりました。病原体は健康な人に疾患を引き起こすことはなく、単に宿主や人体に生存する微生物の集合体である微生物群ゲノムと共存しています。この集合体のバランスが崩れて集合菌に変動が起こると病原体はヒトに害を与えることが判明したのです。つまり、常在菌の生理作用が発揮される機構は1種類の病原菌が一つの感染症を成立させる機構とは異なっているようです。従来の細菌を悪玉にした殺戮戦から、これからの医療は共生(Symbiosis)に基づいた生体に生存する常在菌のバランスをいかに保つかが求められています。
オミクス医療の開発による口腔微生物叢のDNA、RNA、タンパク質、また代謝物の研究によって口腔細菌フローラを改善するプレバイオティクス&プロバイオティクスの開発が望まれます。
 ここで、口腔常在菌(Oral flora)が人体にとって大事であることを知見に基づいて考察いたします。

最新の研究に基づいた口腔フローラの役割

  1. 免疫システムの調節:
     口腔内の微生物叢は、免疫システムの調節に影響を与えます。善玉菌と悪玉菌のバランスが取れた口腔内は、病原体の侵入を防ぎ、免疫応答を正常に維持します。口腔の粘膜は免疫細胞と直接対話し、体内の免疫応答に影響を与えます。

  2. 食品の消化と栄養吸収:
     口腔内の微生物は、食品の消化を支援し、栄養素の吸収に寄与します。特に唾液中の酵素は食物を分解し、栄養素を利用可能な形に変える役割を果たします。口腔内の微生物がバランスを保つことで、健康的な消化プロセスが促進されます。

  3. 口腔健康の維持:
     口腔内の微生物の不均衡は、虫歯や歯周病などの口腔疾患のリスクを増加させることがあります。一方、適切な微生物叢は、歯を守り、口臭を防ぐのに役立ちます。口腔内の微生物叢の健全性は、全身の健康にも影響を与えます。

  4. 全身の疾患との関連:
     最近の研究では、口腔内の微生物叢と全身の健康状態との関連性が明らかになっています。例えば、心臓病、糖尿病、炎症性疾患などが口腔の微生物叢と関連している可能性が指摘されています。口腔の健康は全身の健康に影響を及ぼし、口腔フローラはその鍵となる要素です。

  5. 個別化医療への展望:
     口腔フローラの研究は、将来の個別化医療においてもっと重要な役割を果たすでしょう。個人の口腔微生物叢プロファイルを理解し、特定の疾患リスクを予測し、個別に合った予防策や治療法を提供することが期待されています。

  6. 酸素と発酵:
     口腔は酸素と無酸素の両方の環境を含みます。これにより、異なる微生物が生息できます。例えば、歯垢中のストレプトコッカス属の細菌は酸素を必要とし、歯周ポケット内では無酸素条件下で動く細菌も存在します。このバイオダイバーシティが、口腔の微生物叢を維持する重要な要素です。

  7. プレバイオティクスとフェロモン:
     口腔内の善玉菌は、プレバイオティクス(善玉菌の成長を促進する食物成分)を利用して成長します。一方、悪玉菌を制御するために、プレバイオティクスを含む食事が重要です。また、微生物はフェロモンを介してコミュニケーションし、そのバランスを保ちます。

  8. 酸の制御:
     歯垢内の微生物は糖を発酵させて酸を生成し、これが虫歯の原因となります。善玉菌はこの酸を中和し、歯のエナメル質を守る働きを持っています。微生物叢の不均衡は酸性環境を増加させ、虫歯リスクを高めます。

  9. 栄養素の代謝:
     口腔内の微生物は食物を分解し、栄養素を生成します。例えば、亜硝酸塩を含む野菜は、微生物が窒素を代謝して窒素酸化物を生成し、これが口腔内で亜硝酸に変換されます。これにより、体内の窒素代謝が調整されます。



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