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旅情風景・燕

夏を迎えにゆきたくなるほど、突き抜けて青、の空に浮かんだ燕よ、あぁ燕よ。

お前の眼前の人の街は、豊穣だらうか燕よ。
案山子の挨拶を垂れる畑で、馬は嘶くのだ燕よ。
憔悴しきった太陽の、吐血とともに踊るのだ燕よ。

地球の回転にすら追いついて、それを追い越して、どうにかして明日へ行くのだ燕よ。留まっては行けないのだ燕よ。
すぐ背後に秋が迫っている。
そう、お前と私の、すぐ後ろにだ。
振り向いては行けない。さすれば気が触れよう。
狂った枯れ色の季節など、浅縹のアルバムを崩すだけの、ああ燕よ。
私の燕よ。私だけの燕よ。

冬が訪れてしまっては、あとは白い眠りと、黒の後悔すら残らない青の海。
そして私の瞳から、涙が道を生むならば、どうかその尾羽で隠してはくれまいか燕よ。そうしてあの白鯨を、私にとっての絶望と飽和の象徴を、追い払ってはくれないか。
代わりにお前が、真黒であるお前が居ればいいのだ燕よ。
私にはそれだけが慰めであるから。

燕よ。燕よ。
どうかどうか、ああどうか、
あの雲煙よりも遠くに見える、青ざめた山肌の先の、灯台から私を、照らしてはくれまいか燕よ。

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