見出し画像

【書籍】おじさんのココロの本棚②~松尾スズキ『大人失格~子供に生まれてスミマセン』

これからのひと時。
長谷川誠があなたにお送りする、駄文珍文の定期便。
皆様の夜間飛行のお供をいたしますパイロットは
わたくし長谷川誠です(ラジオ番組『ジェットストリーム』風に)

はい、熱帯夜。エアコン弱めの薄暗い部屋でしっとりとしたAORでも聴きたい気分。自分の中の城達也さんが出てきてしまいましたね。こんばんは。

あ、あなたにとって『ジェットストリーム』のパイロットは伊武雅刀さんですかそうですか。あ、あなたは『ジェットストリーム』と言えば、黒いモビルスーツが3体ですか。ガイア・オルテガ・マッシュですか。あ、あなたは、そもそも何を言っているのか分かりませんか。ソウナンデスネー(死んだイカの目で)

はい。おじさんの血肉となった座右の書を紹介するこのコーナー(コーナー?)今回は、心のベストテン第2位をご紹介。

敬愛するあまり、勝手に「師匠」と心の中で呼んでいる、劇団大人計画主宰の松尾スズキさん著によるエッセー集『大人失格-子供に生まれてスミマセン』です。

出会い

演劇、劇団、小劇場といったジャンルに「過激で面白い人が沢山いそうだぞ」と、はじめて興味を持ったのは中学生の頃だったと思う。

思春期全開。真面目な表情で遠くを見つめている時の90%はエロティックなことを考えているという、いたく健全でまっとうな男子中学生時代。下ネタのオンパレードで毎週毎週爆笑させてくれたのは、劇団☆新感線の古田新太さんの「オールナイトニッポン」だった。

当時の古田新太さんは尖りに尖っていた。高校で演劇部に入ろうか、というレベルまで演劇畑の方々に興味を抱いた長谷川少年。しかし、哀しいかな持ち前のパッシブスキル”不言不実行”を発動し、静かに男子高校の帰宅部となったのである(このスキルのおかげで「大学に入ったら落研(落語研究会)に入るぞ!」も不言不実行となる笑)

しかし、演劇畑の方々への興味は継続しており、目に触れ、耳に入る情報をコツコツと収集し続ける日々。その中で「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」から宮沢章夫さんを知ることとなるが、それはまた別の機会に…。

アレやコレや情報を収集しつつ、ニヤニヤしつつ時は流れ、社会人1年目。

幸いなことに先輩に恵まれ、営業という仕事にも、外回り営業職のサボり方(サボリーマン)にも、何とか慣れてはきたが「どうにも社会に馴染めている感じがしないなぁ…」という強い自覚だけを抱えながら、新潟駅前のオフィスまで毎日トボトボと自転車通勤する日々。

週5日の苦行に耐えることでやっと訪れる、儚い一瞬の夢のような「あっという間の週末」。書店をブラブラしていると、目に飛び込んできたタイトルに一瞬体がビクッと反応する。

『大人失格』

まるで書店に並んだ本に、デカデカと自分の名前が書いてでもあるかのようだった。恥ずかしそうにニヤニヤしながらその本を手にとった。

あ、劇団大人計画の松尾スズキさんじゃん…。人間ではあるけれども、大人は失格なんだ(笑)とか何とか思いながら、音楽やらサブカルやらの雑誌と共に、レジで会計を済ませたのだった。

大人人生を後押し、もしくは歪めてくれた(笑)「素晴らしい言葉たち」

その言語センスと文章の端々から滲み出る人間性に惹きつけられ、夢中になった『大人失格』。最初に読んだ時は、ビール片手に声を出して笑いながら一晩でイッキに読んだことを思い出します。

もう、何ていうんだろう。ここがおススメです、なんてピンポイントにチョイスするのが難しくて、全文引用したいくらいに愛する作品なんですが…。さすがにアレなので、色々と自身を支える言葉たちを抜粋させていただきますと…

昔は大人という生き物が、インドの牛のようにそのへんにゴロゴロいた、ような気がする。
よくも悪くも、今の大人には逃げ場が多い。子供になろうと思えば、いつだってなれるし、男が女になったり、その逆も可能だ。何になったって、そんな死ぬほど怒られたりはしない。試しに私は自分の逃げ場を数えてみたが、五十を超えた時点で面倒くさくてやめた。逃げ場の数だけ我々は、欠落をしょいこんでいる。

エッセイ:私も「大人」と呼ばれたい、より

自分の「どうにも社会にフィットしていない感」は逃げ場が多いからか…。確かに、逃げ場を転々とする生活は非常に心地よいし、転々としていたって死ぬほどは怒られないもんなぁ…。妙に納得し、一発目のエッセイから松尾スズキさんを「師匠」と感じ始めた。

なにも死ぬ訳じゃないし、いいじゃないですか。会社の一つや二つ辞めたって。特にあの、辞めた次の日の朝寝坊の甘美感。ふっといつもの時間に目が覚めて、ああもう、満員電車に乗ることも、訳わかんないコンピューターの前に座ることもない。おお、平日の昼に映画が見られる。平日の昼にファミコンができる。ビバ!平日の昼!などと感動しながら、だらだらとまた眠りにつく。そうだ明日から考えよう。ゴーン・ウィズ・ザ・ウィンド。ああ、俺の人生で最高にだらしない朝の贅沢な朝のまどろみよ。
あの「辞めた日の翌朝」を手に入れるためだけでも、就職した価値はあるというものだ。

エッセイ:会社の辞め方、より

今でこそ「どんな仕事であれ、まずは三年頑張ってみろ」的な、個人個人の各種設定を無視した昭和的根性論は力を失ってきてくれているのだろうか。

日本の大半を占める中小企業、これまた大半が一般的に言われる”ブラック企業”と判断され、羨まれるようなホワイト企業はポケモンの色違いほどの低確率でしか出会えない。

昨今は、そんな状況にみんな薄々気が付き始めているような気がする。気付いているからこそ、自身の心身的な健康や人生設計に対して、非常にドライな感覚でジャッジしているように感じる。

まだ「会社を辞める」イコール「負け」な雰囲気が根強かった私の社会人1年目当時。どれほどこの言葉に勇気づけられただろうか。転職を決意した最初の営業職。皮肉なことに、転職やアルバイトに関する求人情報を掲載する雑誌だったわけだけれども、この言葉を念仏のように唱えていた。

我慢を一日すれば寿命が三十五日縮まるといいます。平気です。あなたが思っているほど、きっとあなたは大した器じゃないんだから。ほら、それでも会社は潰れません。

エッセイ:会社の辞め方、より

そして、何やかんやドタバタと念願の退職へと至り、退職日翌日の朝。ファミリーレストランのロイヤルホストで「モーニングサービス」を食べたのだった。

あてもなく目覚めたときのモーニング。これは最初で最後のサラリーマン生活を辞めた頃についた癖だった。会社を辞めた翌日、朝遅く起きて町をブラつく、あの甘美なうしろめたさ。あの日、念願の「モーニングサービス」を私は注文したのだ。子供は食べないモーニング。きちんとお勤めしている大人は、食べる暇がないモーニング。

エッセイ:「モーニングサービス」は小声で、より

嗚呼、恥ずかしいほどに影響されていた20代の私である(笑)

でも、スーツ姿が行列のように流れる道路を見下ろしながら食べたモーニングは、とてもとても優しい味で、その後の私の人生を決定づけてくれた「忘れられない味」であることは確かだ。

結び:そして大人失格を名乗る

その後も松尾スズキ師匠の著書を読み漁りつつ、舞台は直接観に行けなかったものの(人気過ぎてチケットが即完売)BS放送などをチェックしつつ、現在に至っている。

しかし『大人失格』のインパクトは非常に大きく、社会人になってから「Chibikki」という日記コミュニティで毎日駄文珍文を書いていたのだが、そこでのハンドルネームは恥ずかしいことに大人失格でした(笑)

chibikkiとは…
1999年12月15日 デジタオ(http://www.digitao.net/)設立。同時に【chibikki】がサービス開始。この名前はちび日記(小さい日記)がたくさんあるということに由来し、コメント機能、メッセージ機能を備えた双方向型の日記コミュニティだった。
 また鈴木志保さんの漫画「ちび」の可愛らしさも人気を集めた。

mixiコミュニティ”ちびっかーず”説明文より抜粋

現在、note毎日更新○○日継続中!というクリエイターさんの頑張りを見る度に「嗚呼、chibikki。毎日毎日義務感に駆られながらも楽しく更新していたなぁ」と遠い目になる東北おじさんの私である。

ありがたいことに、chibikkiでは駄文珍文だらけの自分の日記がきっかけで大阪のちびっかーさん達とオフ会を楽しんだりしたなぁ…元気かなぁ皆さん…(おじさん特有の昔話笑)

以上、パイロットはわたくし長谷川誠(しつこくジェットストリームネタ)。ハンドルネームは大人失格(笑)で御座いました。お粗末。

この記事が参加している募集

#人生を変えた一冊

7,940件

#わたしの本棚

17,920件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?