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イノベーションの最大の障害は、成功している既存事業

組織の中でイノベーションを起こそうとするときには、様々な障害にぶち当たります。

私も若いころは、この障害との戦いの日々だったと言っても過言ではありません。

イノベーションの最初のステップは「予期せぬ成功」の活用です。

30代後半の頃、私は勤めていたメーカーの主力事業部門から、新規事業部門のマネージャーに異動になりました。

その会社の主力事業は創業の事業で、当時すでに80年の歴史をもち、文字通り会社の屋台骨を支えている事業でした。

一方、私が担当することになった新規部門の製品は、それまで会社が見向きもしてこなかった分野で、スタートからすでに10年を経過していたのですが、極めて停滞し、先行するメーカーの背中も全く見えない状況でした。

でも、私が着任したころには、それまで主力部門が予期していなかった小さな成功事例が随所に見られるようになっていて、それを新しいチャンスとして捉え、集中的に展開し始めたところでした。

でも、その活動はなかなか全社的な協力を得ることが出来ず、主力部門からはあからさまに無関心な対応を受け続けました。

そのことについてドラッカーはこう言っています。

「マネジメントにとって、予期せぬ成功を認めることは容易ではない。(中略)人間誰しも、長く続いてきたものが正常であって、永久に続くべきものと考えるからである。自然の法則のように受け入れてきたものに反するものは、すべて異常、不健全、不健康として拒否してしまう。」

「イノベーションと企業家精神」(ダイヤモンド社)

まさに当時は、創業からの主力事業こそが「正常であって、永久に続くべきもの」と信じて疑わないマネジメントが何人もいて、彼らにとって私たちの事業やそこでの予期せぬ成功などは、その伝統や文化に対する挑戦と映っていたようでした。

みなさんの組織にはそんなことはないでしょうか?

新規事業を展開していくうえで、市場での敵よりも社内の敵の方が手ごわかったりすることが。

「イノベーションと企業家精神にとって障害は規模ではない。
それは既存の事業そのものであり、特に成功している事業である。」

「イノベーションと企業家精神」(ダイヤモンド社)

成功を収めた創業の事業に理解されずに苦しんでいたころに、社長以下重役たちとの年に1度の事業報告会がありました。

そのとき専務から、私たち新規事業の最大のコンペティターはどこだ、という質問がありました。

それに対して私は即答しました。

「私たちの最大のコンペティターは、当社です。」

質問した専務を筆頭に、社長以下みなさんがポカンとした顔で私を見ていました。

イノベーションを成功させる過程で、既存の事業が足を引っ張ってしまうのは、責任あるマネジメントの地位にある人の多くが、既存事業での成功によって現在の地位を手に入れたからかもしれません。

「(予期せぬ成功を認めるには)勇気が要る。
同時に現実を直視する姿勢と、間違っていたと率直に認めるだけの謙虚さがなければならない。」

「イノベーションと企業家精神」(ダイヤモンド社)

幸い、私が担当した新規事業は直属の上司が実力あるたたき上げの役員だったお陰で、障害を乗り越えながら大きな事業へと成長し、今では創業の事業にとって代わって、その会社の屋台骨となるまで成長しているようです。

イノベーションの最大の障害は、社内の既存事業です。

それを跳ね返すには、私たちのケースのように実力ある役員の直轄、かつ専任の事業にするのがいいと思います。

組織の形ひとつで、イノベーションが成功するか否かが変わっ来るということを、知っておきたいものですね。

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