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生業(なりわい)を楽しむ。

 生きるために必要な「生業」というのは人生の大半を占めている。例えば会社勤めは定年まで40年以上、自営業だともっと年数が長く、家事に関しては生涯ずっと付き合わなければならない。一日の生活の中でも生業が占める割合がほとんどで他は食事、睡眠だけという人もいるのではないだろうか。“好きなことに費やせる時間がもっとあれば良いのに…”と願う人は多くいるはずであり、もしも生業が趣味の一部ならどんなに幸せなことかといつも思う。
 中央4区にお住まいの広富美恵子さんは、夫、息子さん夫婦と4人でお米、でんすけすいか、キュウリ、トマトを栽培している。今年4年目となったキュウリは美恵子さんの意向で始めたことから、栽培の中核を担っている。美恵子さんはキュウリが自分の子どものようにかわいいと話す。「痛い」とか「かゆい」とか口に出さないが、いつも見ていれば異変に気付くことができる。成長を見守りながら心の中でいつも声を掛けているそうだ。「育った葉の影になっていたら空(す)いてあげたり、地面についていれば少し浮かせてあげたり…。そんなことばかりしているから収穫の時は私が一番スピードが遅いんです(笑)」。
 美恵子さんは名寄市風連の米農家に生まれ育った。幼少期を振り返ると作物を育てることが遊びだったという。田んぼの一角を借りて稲を植えたり、畑の片隅で茄子を植えたり…。実がなると声をあげて喜んでいた。女の子らしい遊びの代表格“ままごと”はほとんどした記憶がないそうだ。名寄市の農業高校に進学し卒業後、風連の農協に就職。機械整備の部署に配属された後、金融部門に異動。その後、夫の達男さんと知り合い当麻に嫁いだ。美恵子さんはこれまで学んできたことが全て今に生かされているという。「機械整備の部署では毎日、部品の名称を書いていたため、どこに何が使われているか覚えてしまったんです。だから農機具の業者さんと話す時も話の内容がわかるんです。女性で農機具の話を理解する人はあまりいないかもしれないですね(笑)。金融での経験も今の農業経営に役立っています」
 気分転換に旦那さんと二人でドライブや日帰り温泉などで息抜きをすることもあるそうだ。どこに行くのにも二人で動くという広富さん夫婦。仲が良いですねと言うと「同じ環境に過ごして、同じ話題を共有しているんだから当たり前ですよね」と笑った。

 キュウリは手をかけた分だけしっかりと育ってくれるという。おととしよりも昨年、昨年よりも今年…、元気に成長する姿を見るのが楽しい。ベテラン生産者から見ればまだ4年生。勉強しないといけない事ばかりなので、研修会にも積極的に足を運びより良い栽培方法を学んでいる。広富家に嫁いで43年、今年緑寿(66歳)を迎えた。農業主も息子さん夫婦に移譲しているが、キラキラとした目でキュウリのことを話す美恵子さんを見ると隠居という二文字はまだ早そうだ。
 四六時中農業に携わって、趣味の時間など全くないのでは?と問うと、「農業が趣味なんでしょうね」と笑って答えた。生業が趣味だったら良いのに…。そんな理想の姿が美恵子さんの姿勢から見ることができた。そして、その考えを理解し、支え合う家族の皆さん。本当にステキな家族だと感じる取材だった。

当麻のキュウリを紹介する動画です