死神ヒーラー*  第24話「サイザー様!?」

第1章『死神の真実』

第24話「サイザー様!?」


(“陛下”を“シシド共和国”へお連れするって、一体どういうことだ!?)

 彼らの云っていることの意味が理解できず、当惑する。完全に、自分のことを誰かと人違いしていないだろうか??
 こちらが口を開いてアホ面を向けていると、青年は、突然、涙ながらに謎の謝罪を始める。

「本当に、お迎えが遅くなり、なんとお詫びをしたら良いものか……。“死神”が現れたとの人族の噂を聞きつけまして、陛下を探しておりましたが、陛下が“黄泉の大鎌”による大立ち回りで、第七悪魔王を成敗したとの情報が入ったのがつい二日前でございまして、遅ればせながら、本日の夕刻、ロパンドへ到着した次第にございます。……しかしながら、陛下が人族からこのような蛮行を受けているとはつゆ知らず、うっ……、このラドルフ、腹を切って謝罪に代えさせて頂きますっ!!」

「じゃあ、アビーが介錯を務めるよぉ~!」

 青年に対して、猫耳娘が元気に右手を上げる。

「いやいやいやいや、ちょっとちょっとぉ~~っ!!」

 予想の斜め上を行くとんでもない展開に、つい、ひな壇芸人のようなリアクションを取ってしまった。謝罪云々、こちらは1ミリたりとも怒ってなどはいない。むしろ、助けてくれて感謝しているくらいだ。

 会話が一向に進展する気配がないのを見かねて、エレナが助け船を出してくれる。

「“シシド共和国”って、ロパンドから遠く西にある亜人族の方々の国のことですよね?でも、コタローさんがシシド共和国の陛下とは、一体どういう意味でしょう?」

 すると青年はニヤリと笑い、ドヤ顔で答える。

「何を隠そう、こちらの御方、セバコタロー様こそが、“天からの預言”にある、黄泉の大鎌の“正統継承者”、新たなる“サイザー様”なのです。」

(サ、サイザー様っ!?……って一体何だ??)

 聞き覚えのある呼称のような気もするが、どこで耳にしたか全く思い出せない。
 全く頼りにならない自分に代わり、エレナが青年に疑問を投げかける。

「あの有名な“天からの預言”って、覇魔の大魔神が復活し、再びこの世界に暗雲が立ち込める時、新たなる勇者様と死神が再臨するというものでしたよね??コタローさんが死神と噂されているのは知っていますが、シシド共和国では、死神のことをサイザーと呼び、崇め奉っているのでしょうか?」

「ん~、ちょっとニュアンスが違いますねぇ……。話が少し長くなるのをお許し下さい。
 まず、サイザー様とは、シシド共和国元首の敬称です。仰る通り、誠に遺憾ではありますが、人族からは死神と呼ばれ、忌み嫌われております。ただ、我々にとっては唯一無二の絶対的な英雄であり、救世主様なのです。
 今から400年前、先代のサイザー様であるシシドボー様は、当時、人族から亜人と卑下され、奴隷にされていた我々、エルフ族、ドワーフ族、獣人族の三種族を解放して下さいました。そして、その並外れた手腕とカリスマ性で、我ら三種族をまとめ上げ、シシド共和国を建国されました。ですので、今、こうして我らが何の制限も受けず、自由に生活できるのも、全て、サイザー様のお陰なのです。
 それと、勇者真教では、我々のことを死神信仰の邪教徒と揶揄しているようですが、実際には、宗教国家のような体制を敷いてはおりません。400年前から変わらず、今もなお、サイザー様が国家体制のトップ、我々の君主なのです。」

「……そ、そうなんですね。」

 青年の話を理解したエレナは、戸惑いのあまり言葉が続かない。恐らく、今まで彼女が伝え聞いていた“シシド共和国”の話とは、180度、内容が異なっていたためであろう。

 ……しかし、黙って聞いていれば、どこまでも重過ぎる内容ではないか。要するに自分が、エルフ族、ドワーフ族、獣人族の三種族を救ったサイザー様とやらの再臨であると??しかも、三種族は君主がいなくなってもなお、ずっと変わらずに慕い仕えているだなんて……。
 自分がそんな大層立派な御方の後継者であろうはずがないことは、自分自身が一番よく分かっている。彼らのため、そして、自分のためにも、どうにかしてこの誤解を解かなければ……。

「いやぁ、話が飛躍し過ぎて、よく理解できてないんだけど、オレがそのサイザー様だなんて人違いじゃないかなぁ?黄泉の大鎌の正統継承者って云われても、たまたま所持していたものを闇雲に振り回してただけだよ?」

「いえ、もう、まさに、今のそのご発言だけで、十分なのです。」

(……あれっ?オレ、何か発言ミスった??)

「なにせ、黄泉の大鎌はサイザー様以外には決して扱うことの出来ない代物だからです。他の者が手にしようものなら、黒炎にその身を焼かれ、あっという間に消し炭となってしまいます。ですので、貴方様がサイザー様であるのは、揺るぎない事実なのです。」

「……はぁ。」

 そう云われてみると、心当たりがない訳でもない。柄の部分に呪言のような何かが刻まれていたのは目にしている。あの怨念めいた文字列が、この怪談話を生み出している可能性は否定できない。

(いや、でもなぁ……。)

 指名手配犯として逃亡中の身から、一転、再臨した救世主様だなんて、あまりの待遇の違いに、にわかには受け入れられる話ではない。

(う~ん……。)

 困惑したこちらの様子を察して、青年が声を掛けてくる。

「確かに陛下は、“別の世界”からいらした方ですので、いきなりこのような話を聞かされても、戸惑われるのは無理もないかとは思います。ですが……。」

 青年が口にした言葉に対して、エレナは別の意味で反応する。『“別の世界”からいらした』という部分を耳にし、合点がいったというか、やはりといった様子で、自分の方へと視線を向ける。


『…………。』


 しばしの間、沈黙が続く。こういった状況では、無言こそが最善の一手であることは理解している。今更、下手に口を開いても、『さぁ、共にシシド共和国へ行きましょう!!』と誘われるのは目に見えている。……これは無言という名の攻防戦なのだ。『いやぁ、じゃぁ、まぁ、そーゆーことなら、今回は仕方ないですね~。』的な流れに持ち込むため、うつむき加減で、じっと耐え忍ぶ。


『…………。』


 しかし、青年は、『こちらも引く気など、一切ありませんぜぇ。』と意思表示を示すかのように口を開く。

「我々は、400年間、変わることなく君主であるサイザー様に忠義を尽くして参りました。そして、今回、新たに再臨されたサイザー様、すなわち陛下をシシド共和国へお迎えすることこそが、全臣民の総意であり、悲願でもあるのです!!」

(マズいぞ……。流れは完全に向こう側だ。)

 自分が現在進行形で一国一城の主だなんて、9割9分何かの間違いだという確信はある。しかし、ここまで云い切られてしまうと、どうにも返答のしように困る……。
 青年は断る隙など与えぬよう、畳み掛けるようにして、こちらにファイナルアンサーを求めてくる。

「ですから陛下っ、どうか、お願いです!!我々と共にシシド共和国へ!!皆が、“英雄の帰還”を待ち望んでおりますっ!!」

「ねっ?コタローさまぁ、アビーたちと一緒にシシド共和国へ行こっ♪」

(こんちくしょ~っ!!)

 最後の最後で、猫耳娘までもが可愛い感じでおねだりしてくる。もはや、“はい”か“YES”以外の選択肢が許されないこの空気感……。足りない頭をフル回転させ、色々と回避方法を模索してみるが……、

プシュ~~ッッ!!

 脳の回路は音を立てて完全にショートする。

(う~ん、あぁぁ、もうっ!!!!)

 難しい話は一旦置いておこう。分からないことをいくら考えても、堂々巡りだ。要するに、この二人に付いていけばいいのか??どちらにしろ、今の自分たちには、行くあてもなければ、帰るあてもない。完全に逃亡犯的なポジションだ。少なくとも、このままゴリン王国圏内に留まるよりは、よっぽど安全ではあるだろう。

(贅沢は云わない。オレが望むことはただ一つだ……。)

「え~、シシド共和国へ行けば、三食昼寝付きは約束していただけますか?」

「勿論でございますっ!!」

「なら何の問題もありません。共に参りましょう、シシド共和国へ!!」



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今話は、あまりにも急過ぎる展開に、コタロー君もパニック状態でした。
確かに、突然現れた人に貴方様が我が国の君主なんですって云われても笑
次話はいよいよ、やたらと長かった序章の最終話です!!
コタロー君たちは無事、ロパンドを脱出することが出来るのでしょうか!?

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