死神ヒーラー*  第12話「今夜は花金」

第1章『死神の真実』

第12話「今夜は花金」


―――孤児院訪問から、時が流れること数週間

 ……それからしばらくの間、自分とエレナは、週に2、3回のペースで、魔獣や魔族の討伐クエストをこなした。最初のうちは、ケルベロス討伐より遥かに難易度の低いクエストから始め、エレナが慣れてきたタイミングで徐々に難易度を上げていった。時には馬車に乗り、近隣の村へ遠征することもある。

 エレナに頼まれていた杖術の指導も引き続き行っている。クエスト当日以外は、基本的に毎朝だ。『しっかし、構えが、まるっきり剣道みたいたけど、大丈夫かなぁ。』なんて心配していたが、先日のクエストでは、グレムリンをその“なんちゃって剣道”で圧倒し、そのタイミングで、遂に、“杖術使い”のスキルを習得した。全くもって、そのやる気と成長曲線には驚かされるが、彼女の手のマメを見れば納得だ。朝練以外にも訓練している様子が容易に想像できる。自分の恐ろしく高い指導センスについても、少しは褒めてもらいたいところではあるが、完全に彼女の努力の賜物である。

 当然ながら、エレナの冒険者ランクもトントンと上がっていく。聞けば、ロパンド史上最速のペースで、“ランク:アクアマリン”へ昇級したのだという。ちなみに、冒険者ランクは9つに分かれていて、アクアマリンはちょうど真ん中だ。ランクは高い順に、ダイアモンド、ルビー、サファイア、エメラルド、アクアマリン、クリスタル、パール、アンバー、ストーンとなっている。分布的には、パールやクリスタルの冒険者が多いみたいだ。

 エレナと共にクエストをこなしていく中で、自分にも変化が現れる。称号が“大神官”から“司祭”へと変わったのだ。『司祭って大神官より偉いのか??』序列に関しては、イマイチ分からないが、パワーアップは明らかだ。正直、今まで討伐してきた魔獣や魔族に対しては、同情心が芽生えるレベルである。何せこの無敵の司祭ボディ、“普通のパンチ”でワンパンKO決着だ。“怪人”ならぬ、魔獣や魔族からすると、司祭様に遭遇することは、あの“サイ〇マ氏”に遭遇するに等しい悪夢のはずだ。

 エレナのランク上昇に比例するかのように、傭兵セバスの名も少しずつ広まっていく。つい先日も、とあるVIPからボディガードのスカウトがあった。それなりの報酬を提示してきたが、今は、全く金銭には困っていない。もちろん、このままずっとロパンドに留まるつもりもないので、辞退した。

 そんなこんなで、自分とエレナは今、ロパンドの冒険者界隈では、話題のコンビなのである。

 もちろん、クエストと並行して、なっちゃんの捜索や情報収集も欠かさずに行っている。ただ、今のところ、手掛かりになりそうな話はない。でも、あのなっちゃんのことだ。もう少ししたら、この世界でもその名が轟く存在になる。そんな気がしてならない。なんせ昨年は、1年生ながらに出場した高校剣道の全国大会でベスト4。そして、今年は全国制覇の最有力候補として期待を集める存在なのだから。

 ……といった具合で、ここ最近は慌ただしい日々を過ごしてきたのだが、今週も待ちに待ったあの日がやってきた。今夜は、スネイル非番日の前日、恒例の宴の夜だ!まさに花金、そう云って差し支えないこの日、最近の行きつけの酒場である『ふた頭』へスネイルと乗り込む。お目当ては、ホールの子、コートニーちゃんではなく、この酒場特製の地ビールだ。そう、この世界にもビールは存在する。ただし、ラガーではなくエールだ。ガツンとした喉ごしというよりは、喉を通過した後に広がる華やかな香りが特徴だ。



―――大衆酒場『ふた頭』

『カンパ~イ!!』

チィ~~~~ン!!

 スネイルはその逞しい二の腕でジョッキをガッチリと掴み、褐色のビールを喉に流し込む。

ゴク、ゴク、ゴク、ゴク、ゴク、ゴクッ……

「プハァ~~ッ、たまんねぇ!」

 あっという間に、800mℓはありそうなジョッキの中身が半分ほどになった。樽は、“冷氷石れいひょうせき”が置いてある冷暗所で保管されているため、出されるビールはキンキンに冷えている。なんちゃってビール評論家たちからは、『エールを冷やすなんて邪道だ!』とお叱りを受けそうな気もしないでもないが、それでも、途轍もない幸福感に包まれる。

「……にしても、お前さん最近すごいよなぁ。門の前でもよく噂を耳にするぜ。とんでもなく凄腕の傭兵だって。」

 スネイルはご機嫌に口を開く。

「いやぁ、そんなことないんだよ。別に大した相手を倒してる訳じゃないし。」

「大した相手じゃないってなぁ……、オーガやら、グレムリンの群れやら、最近も、近隣の村で悪さしてた魔族を、一人で退治したって話じゃねぇか。」

「いやぁ、アイツ等は強いのか??」

「ったりめぇだよ。普通は中級以上の冒険者が5~10人、パーティを組んで、やっとこさ倒すってレベルさ。」

「そんなこと云ったら、オレだって最近はエレナに大分助けられてるよ。」

 ここのところの活動について、スネイルと話をしていると、隣の席から“あの噂”が聞こえてくる。

「知ってるかよ。死神が現れたらしいぜ、カルネラで。」

「聞いた聞いた。村で大暴れしたって話だろ。なんでも家々を焼き払ってったって。」

「そんでもって、去り際に、何か妙な名前を名乗ってたらしいなぁ。」

「そうそう、何だっけ?確か、なんとかタロウだとか……。」

 色々と反論はしたいことはある。まず、家々を焼き払ったのは自分ではなく、ミゼルぴょんだ。そして、どちらかと云うと大暴れした側ではなく、止めた側である。それと、人の名前はしっかり覚えやがれ!なんとかタロウだと!?オレはウルトラの一族ではない!
 実はこの手の噂は、少し前からよく耳にする。カルネラ村での一件が、ロパンドでも既に広まっているのだ。

 スネイルは隣の席をチラっと見たのち、やや重たそうに口を開く。

「……あぁ、あの噂ねぇ。全く物騒な話だよなぁ。俺なんて門番だからよぉ、死神なんて現れたら、真っ先にあの世行きさ。」

 まさか、スネイルも、目の前で一緒に飲んでいるこの男が、死神と云われている男だとは夢にも思わないだろう。

「大丈夫、安心してくれ!スネイルの身の安全は、オレが保障するからさ!」

「ありがとよ、セバス。お前さんがそう云ってくれると、ガチで心強いぜ。」

 実際問題、自分が当事者なので、これに関しては、ハッキリと云い切れる。

 ……その後も宴は続き、今夜もスネイルはベッロベロに酔っぱらう。

「ヒクッ……。ぐへへっ。コートニーちゃん、おあいそー。」

「はい、どーぞ。」

 コートニーちゃんはツンケン系女子で、スネイルのおきにでもある。唇がセクシーで、なかなかの美人ではあるが、個人的にはスネイルの奥さんの方が綺麗だと思う。

(……にしても、『ふた頭』のホールの子たちの恰好って、露出度高めだよなぁ。)

 まるで、フー〇ーズのお姉さま方のコスプレをしているかのようである。

 店から出ると、スネイルに肩を貸し、家まで送り届ける。

「……あぁ、なんか懐かしいなぁ、この感じ。」

 そう独り言を呟く。自分はこの身体でも、元の身体でも、お酒には結構強い。そのため、大学のサークルの飲み会では、介抱役を一手に引き受けていたのだ。まさに、現代社会のナイチンゲール。寝ゲロ、立ちゲロ、どんとこいだ!

コンコン……

 家に到着すると、スネイルの奥さんがドアを開けてくれる。

「いつもいつも、主人がご迷惑をお掛けして。本当にごめんなさいね。」

「いえいえ、気にしないで下さい。付き合ってもらってるのは、自分の方ですし。」

 スネイルの6歳になる可愛いらしい娘も顔を出す。

「あ、黒ローブのお兄ちゃんだぁー。」

「マリエル、まだ起きてたんだ。今度、また地方に遠征いったら、お土産持ってくるよ。」

「ワ~イ!また遊びにきてねっ!」

 最後に、スネイルとガッチリ手を組んで別れる。

「またな。おやすみ、スネイル!」

「おうよ、セバスぅ。また飲みにいこうなぁ~。」

 ……人影もまばらな夜の大通りを歩き、大広場近くの宿へと戻る。あぁ、飲んだ後の夜風はどうしてこうも気持ちがいい。一人で歩く、しんみりとした夜も決して嫌いじゃない。



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今話は、一気に時間の流れが進みましたね。
セバス君もエレナもパワーアップしているようです。
スネイルと飲みにいったり、ロパンドライフもエンジョイしてますね。
そんな中、次話、セバス君はある人物から呼び出しを喰らいます。

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