死神ヒーラー*  第7話「キミのことはオレが守る!」

第1章『死神の真実』

第7話「キミのことはオレが守る!」


 セバコタロー、もといセバスは、一世一代の大勝負に勝利した。ポックルの実のお陰で、その後は、普通に美少女と意思疎通が成り立つ。もはや、軽々しくポックルの実とは呼べない。これからは、“大精霊の森の恵(仮)”と呼ばせていただこう。

「ワタシ、ポックルの実が大好きなんです。小さい頃によく頂いていて、それで。」

 美少女から『大好きです。』と云われると、少しドキッとする。ただ、残念ながら、その言葉は、自分に向けられたものではない。どっかの木の実に向けてだ。
 ……聞けば、今しがたギルドの中で、冒険者登録を済ませたばかりで、帰り際に手配書を眺めていたのだという。

 こちらも大まかな事情を説明する。

・田舎からやってきて、右も左もわからないこと。(まぁ本当。)
・手持ちがないので、少し稼ぐ必要があること。(本当。)
・ヒグマみたいな魔獣を倒したことがあること。(本当。)
・割と強い魔族を倒したことがあること。(本当。)
・HIP HOP育ちだということ。(嘘。)
・悪そうな奴は大体友達だということ。(嘘。)

 また再び、あの冷たい視線を浴びる勇気はなかったので、下二つは割愛した。そして、本題に入る。

「今ちょっと大人の事情があって、ギルドで冒険者登録が出来ないんだ。……で、もし良ければなんだけど、傭兵としてオレのこと雇ってみない?魔族退治やら魔獣討伐には、かなり自信があるんだ。」

「ご提案、ありがとうございます。ただ、実はワタシも報酬をお支払い出来るほど、お金を持ち合わせていなくって……。」

(……まぁ、予想通りの反応だ。)

「じゃあさ、成功報酬制の後払いでどう?ギルドからの報奨金の分配はキミが6でオレが4。もちろん、討伐失敗での支払いリスクはなし。」

(云ってることは胡散臭い詐欺の手口みたいではあるけど……。)

「それでは、あまりにもワタシに有利過ぎて……。」

(ですよねー。あまりにも話が上手過ぎる。でも、こちらも引く訳にはいかない。)

「いいんだ。この条件でもこちらが頭を下げて、頼みたいくらいだから。」

「う~ん……。」

(ちょっと悩んでる??よしっ、もう一押し!最後はやっぱり熱意だ!!)

「キミのことは絶対に、オレがこの命に代えてでも守り抜くからっ!!だからお願い、どうかキミに傍にいさせてほしい!!」

(……おい、待て、オレっ。初対面の相手に向かって、いきなり、何のプロポーズだよ。。)

 ふと、口走ってしまった一大ラブコールに、やらかした思いが膨れ上がる。返答など聞くまでもないと、諦めの境地で次の候補者に目を向けようとしたところ……、

「……は、はいっ♪」

 ほんのりと頬を赤らめながら、少女がコクリと頷く。

「あ……、ありがとう!!」

(マジでいいのか??)

 まさかのOK返事に耳を疑いつつも、すかさず、正しく名前を名乗る。

「オレの名前はコタ……、じゃなくって、セバス!よろしくね!」

「ワタシはエレナです。こちらこそ、よろしくお願いします。」

(よかったぁ~、これで稼ぎ口の方はどうにかなりそうだ!)

 ……その後は、彼女に掲示板の中から中級程度の依頼を選んでもらい、明日早速、二人でクエストへ出ることになった。待ち合わせは、朝8時、見張り塔の前だ。エレナとガッチリ握手を交わしたのち、自分は一人、安宿街へと向かう。

(明日は、寝坊しないようにしないと。)



―――翌朝 とある安宿の客室にて

「ガハっ!!」

 部屋の時計を見ると、7時55分。

「うわ、ヤベっ!!」

 完全に寝坊だ……。すぐに、ベッドから飛び起きる。

 昨日の夜は、安宿のベッドで目を瞑っていると、『キミのことは絶対に、オレがこの命に代えてでも守り抜くからっ!!』という、二枚目俳優もビックリなセリフが、頭の中でループし続けていた。上級厨二勇者である自分ですら、思い返しても恥ずかしい限りだ。……そんな訳で、死にたい思いで悶え苦しみ、なかなか寝付くことが出来なかった。

 安宿を出て、大急ぎで、大広場にある見張り塔へと向かう。ハイスペックな大神官ボディでも、祭りの朝のせいか人出が多く、なかなかスピードが出せない。

「ハァ、ハァ……、ごめんね、待った?」

 見張り塔の時計を見上げると、8分の遅刻だ……。それでも、向こうは嫌な顔一つしないで待っている。

「いえ、ワタシも今着いたところです。」

 出来る系女子の100点満点の回答に安堵させられる。……そして、改めて挨拶を交わす。

「おはよう、エレナ!」

「おはようございます、セバスさん。」

(祭りの日に、美少女と塔の前で待ち合わせとか、まるでデートみたいだなぁ♪)

「じゃ、行こっか!」

 ……もちろん、魔獣のもとへである。

 今日のターゲットはケルベロス。ここから、北西にある森で悪さをしているらしい。討伐系クエストの場合、特段、ギルドに依頼の引き受け申請をする必要はない。大変グロいが、魔族や魔獣の両耳、もしくは、それに類するものを提出し、報告書を記入して、ミッション完了となる。もちろん、嘘の報告はご法度だ。内容によっては、ギルド永久追放や詐欺罪での立件、多額の罰金が課せられることがある。

 ……そういえば、昨日目にしたのだが、掲示板には討伐系の手配書以外にも、変わった手配書がいくつもあった。ザッと見た限りでは、ゴミ屋敷掃除、家族4人分の夕食準備、夕方のペットの散歩、庭園の整備などだ。

(家事代行サービス的なのを始めれば、きっと儲かるのになぁ。)

 この街の商会は、アンテナの張り具合がまだまだ甘い。

ガヤガヤガヤガヤッ……

 大通りは、祭りの朝なだけあって大賑わいだ。露店の営業も既に始まっている。店に並ぶものといえば、元の世界の祭りとそうは変わらない。カエルの丸焼きに、サソリの素揚げ、ヘビのからあげクン、なんかである……。他にも市長のブロンズ人形なんかを売っている店もあったが、ビタイチ興味はない。

(……そういえば、朝食はまだだったな。)

 見たところ、一番マシと思われる肉串を買うことにする。もちろん、ここは自分が男らしくエレナの分まで購入する。

「すいませ~ん、この串2本下さい。」

「はいよ、6文だね。」

 ……さて問題です。次の式の空欄を埋めなさい。

 手持ち11文 - 昨日の宿代5文 - (肉串3文×2本) = 『      』文

 答えは??

 ……そう、0文だ。空欄の広さには正直悪意を感じる。店のおばちゃんには、『2本だから5文ね。』とか云われるのを期待したが、この世界に、そんなシステムはないようだ。今日のクエストは是が非でも成功させる必要がある……。そう考えると、背中に汗が伝う。

「はい、ど~ぞ!」

「いいんですか?セバスさん、ありがとうございます!ワタシ、グリーズのお肉も大好きです!」

(チェッ、またヒグマもどきか。)

 もはや、美少女の口から『大好き。』という言葉が聞こえてもときめかない。
 ちなみに、露店の肉は養殖ものらしい。てか、養殖ってなんだよ。ウナギか!?

(……にしても、この世界の人間、グリーズの肉が好き過ぎだろ。)

「……もう2、3匹狩っとけば良かったなぁ。」

 思わず口から、本音がダダ漏れる。

 通りを歩きながら、エレナにこの世界の貨幣価値について聞いてみる。『えっ、貨幣の相場観がわからないんですか?』と驚かれはしたが、『地元じゃ、物々交換が主流だから。』と説明したら納得してくれた。話を聞く限り、こんな感じだ。

・一文銭=約100円
・十文銭=約1,000円
・小判(1両)=約10,000円
・大判(10両)=約100,000円

 他にも、特判やら、記念通貨やらがあるようだが、やはり、どこか江戸時代臭がする。

 街の門まで辿り着くと、今日も朝からスネイルがいる。

「おはよう、スネイルぅ!」

「おはようさん、セバス!」

 セバス、セバスと呼ばれてはいるが、まだイマイチ、それが自分のことを指している呼称だという実感はない。……ともあれ、これも洗脳が成功した証だ。

「いい天気だなぁ。おぉ、なんだ今日は可愛い連れて。これからピクニックデートか?」

「だといいんだけどさ、今日はケルベロスを退治するんだよ。」

 もちろん、『退治する。』と云い切る。なにせ、このクエストを成功させなければ、再びこの門をくぐることは叶わない。森の守護神グリーズ様の聖肉はもうないのだから……。というより、無事にクエストが成功しても、エレナに通行料の立て替えをお願いするのは、確定している。

「まぁ、称号持ちのお前さんには無用な心配だとは思うけどよぉ、奴ら相当素早しっこいから注意しろよな。」

「あぁ、心配してくれてありがとう。」

「じゃあ、気をつけて行ってこい!また後でな、セバス!」

 スネイルと話をしていると、何だか元気が出てくる。

(やっぱオレ、好きだなぁ、スネイルのこと!もちろん、友達として……。)

 “あちら”の世界への扉は、まだ辛うじて開かれてはいない……。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

コタロー君、良かったですね!
007の綱渡り的なミッションをクリアして、無事、エレナが仲間になりました。
次話は、ケルベロスの討伐クエストです。
……ですがその前に、セバスとエレナの、
のほほんとした?あざとい?やり取りをお楽しみ下さい笑

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