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産業医と社労士が解説する 「企業が知っておくべき新型コロナのワクチン知識と社内体制構築」

こんにちは、株式会社Appdateのカスタマーサクセスチーム、産業医の堤note, twitter)と社労士の本田です。

このnote執筆中(2021年3月8日第1版、3月27日第2版)、日本国内でも先行的に医療従事者への新型コロナワクチン接種が開始されており、4月12日から65歳以上の方々への優先接種が始まり、数カ月のうちには国民全体に対象が広がる予定です。企業によっては、

そこで今回は、新型コロナワクチンについて企業が知っておくべき知識をQ&A形式でお伝えします。時間のないかたは末尾のまとめだけでも読んでください。

本文はあくまで一般論であり、実際のワクチンに対する考えや対応は企業ごとに変わってくる場合もあるでしょう。その場合は産業医や社労士など身近な専門家と相談することをおすすめします。

なお、新型コロナワクチンの種類や効果、対象者ごとの投与スケジュールや副反応等については、厚労省HPや一般の方向けに分かりやすく情報がまとまっているこびナビ等を参照してください。

Q1、企業は従業員にワクチン接種を強制していいの?

まず、現時点では新型コロナのワクチンは、「自分の意志で」「自分を守るために」接種するものと考えられます。したがってワクチン接種の強制はできないと考えられます。

また、ワクチンを接種していないことを理由に業務に従事させない等の不利益な行動を取らないようにと附帯決議では明記されています。

厚労省から医療機関にむけても、ワクチン接種は個人の意志であることが通知されています

ワクチンの基本的な性能として発症予防・重症化予防が想定され、感染予防の効果 を期待するものではないことから、患者への感染予防を目的として医療従事者等に接種するものではないことに留意(医療従事者等は、個人のリスク軽減に加え、医療提供体 制の確保の観点から接種が望まれるものの、最終的には接種は個人の判断であり、業務従事への条件とはならない 

一方で、企業内でワクチン未接種者が多い場合は、クラスター発生などによる事業継続へのリスクが高まることが懸念されます。残念ながら一部のマスコミなどではワクチン不安をあおるような報道が多数なされています。従業員を守るためにも、企業としては下記のような対策をするのがよいでしょう。

・企業としてのワクチン接種に対する考えを表明する
・従業員がワクチン接種機会を確保できるような勤務体制を提供する
・先述したような信ぴょう性の高い情報を従業員に対して提供する
・産業医等の専門家と連携し、ワクチン相談窓口を整備する
この点については中小企業向けに情報をまとめてくれているサイトもあります。【OHサポ―トのこちらの資料はとてもまとまっていますので是非ご一読ください。


Q2、ワクチン接種の有無を企業が把握していいの?

接種の強要ができないことと同様に、従業員の意思に反して接種の有無を把握することはできません。かりにワクチン接種のための特別休暇などを検討する場合でも

・従業員の合意を前提に
・使用目的を休暇付与等のためだけに限定しくれぐれも不利益な扱いをしないこと


とするのがよいでしょう。そのためには産業保健スタッフや、人事権を直接持たないスタッフなどが業務にあたるとよいでしょう。


Q3、ワクチン接種しに行く日のお休みの扱い


ワクチンは任意接種であるため、そのために会社を休む場合は私傷病(仕事以外の原因による病気やケガ)と同じ取扱いとなるでしょう。本人の希望により年次有給休暇を使ってもよいですし、会社によって病気休暇制度があるならばそれを使ってもよいでしょう。病気休暇が有給か無給かは会社の規定によります。

すでに大企業の一部では、従業員がワクチン接種を受けやすいように、勤務時間中に接種を受ける場合、その時間は「欠勤扱いとしない」取扱いを決めた企業も出てきました

このように、勤務時間中の就労免除(一日、半日もしくは時間単位)を行い、欠勤扱いをしないという取扱いも今後は増えるでしょう。
ただし前述の通り、事業主が従業員のワクチン接種の「有無」を把握することになりえるので、情報の取扱いに注意する必要があります。

新型コロナウィルスワクチン接種と休暇についてどのような取扱いをすべきかは業種・業態、各企業の規定によって答えはひとつではないでしょう。詳細は社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。


Q4、高齢の家族をワクチン接種につれていくために会社を休む場合は?

介護が必要な家族※をワクチン接種につれていく場合、介護休暇制度を利用することができます。介護休暇は、労働基準法の年次有給休暇とは別に取得できます。有給か無給かは、会社の規定によります。
※介護休暇についての詳細は厚労省の介護休業制度特設サイトをご確認ください

Q5、ワクチン接種による副反応・有害事象等による休みの扱い

ワクチンを接種すると添付の表のとおり一定の割合で有害事象が生じることがわかっています。(出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_pfizer.html
では、このような反応が出た場合に休まざる得ない時、企業はどのように対応すべきでしょうか?

ワクチンの接種が任意である以上、基本的には私傷病として扱ってよいでしょう。
当然熱が出ていたり、体調が整わない間は休むのが原則となるでしょう。
また、企業として留意しておくとよいのが「解熱後何日後から出社してよいか」をきめておく必要があることです。すこし細かい話になりますが、ワクチン接種によって熱が出たのか偶然ワクチン接種と前後してコロナに感染したかは厳密にいうと区別がつかないからです。
判断に困る場合は産業医等に相談するとよいでしょう。

なお副反応のほとんどは重大なものではなく、接種日も含めて3日以内に収まることがほとんどです。アナフィラキシーに関しては、3月26日の報告では、約58万回の接種に対して47件が報告されていますが死亡例はありません。https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000759517.pdf

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Q6、ワクチンを打った日は仕事をしてよいの?

ワクチンの注意事項に「接種当日は激しい運動を避けるように」というものがあります。
したがって、いわゆる肉体作業を必要とする業務は避けた方がよいでしょう。
また、発熱等の可能性もあり、倦怠感やふらつきなども十分考えられるため、高所作業や運転など危険を伴う作業も避けるのが安全でしょう。また重いものを持ったり、作業で腕を上げることが多い人(例えば、高所作業等で梯子を登る人)は注射部位の筋肉痛が起きえることからも、接種日はもちろん、痛みが引くまでは配慮が必要でしょう。

デスクワーク等については特に制限をする必要はないと考えられますが、上記のように発熱等で休まざる得ないケースも想定されます。あらかじめ「接種当日や翌日を休みにする」「休んでもカバーできる体制をとっておく」などの工夫が必要と思われます。また、接種当日もあまり無理をしないことがよいでしょう。

参考までに医療機関での対策を紹介します。医療機関では翌日が休みの日に接種をしたり、接種翌日に発熱などで勤務できない人がいてもいいようにシフトを組むなどの工夫をしています。
とはいえ、医療職等以外の一般企業の方々は居住している自治体ごとの接種になると思われますので、企業としてスケジュール調整などは難しくなるかもしれません。接種スケジュール等を把握しながら、急に慌てることの内容に産業医等の専門家の意見も参考に対策を勧めておきましょう。


Q7、ワクチンを打っていない従業員が感染したら労災や安全配慮義務違反になってしまうの?

Q8、ワクチンを打っていない従業員から社内クラスターが発生したり、お客さんに感染させてしまった場合は法的な責任が生じるの?


これらの質問は関連性が高いのでまとめてお答えします。

まず労災認定についてです。新型コロナウイルスに感染した場合は複数のケースで労災認定がされています。https://www.mhlw.go.jp/content/000647877.pdf

では安全配慮義務違反についてはどうでしょうか?
まだ判例がなく、これといった見解はありませんが、合理的な感染対策がなされていれば安全配慮義務違反にはならないだろうという考えになるようです。https://www.kanagawas.johas.go.jp/files/libs/1911/202101201357177261.pdf

つまり、ワクチンを打っていない従業員が新型コロナウイルスに感染し発症した場合は、業務上や職場での感染が完全に否定できなければ労災になりえる。しかし、ちゃんとした感染対策(マスク着用、手洗い、換気 等)をしていれば安全配慮義務違反までは問われないと考えられます。


もちろんワクチンの接種機会を企業が与えなったり、妨害するような動きがあった場合は、責任を問われると考えれらます。

ではワクチンを打っていない従業員から感染が社内やお客さんに広がってしまった場合はどうでしょうか?
こちらも、ワクチンが「自分の意志で」「自分を守るために」接種するものなので、合理的な感染対策を取っていれば企業が責任を問われる可能性は低いと考えられます。

Q9、ワクチン接種の有無によって企業は配置転換などを考慮しなければいけないの?

このケースは、「ワクチンが何らかの事情により接種できない従業員から配慮の申し出があった場合」を想定しています。
たとえば、アレルギーなどが理由でワクチンが接種できない従業員が、人と接する機会の多い窓口業務からバックオフィス業務などへの転換を希望した場合などです。
この配慮の申し出については、会社としては無理のない範囲で配慮を検討するのが望ましいでしょう。逆に合理性なく却下した結果、業務中に感染してしまった場合などは安全配慮義務違反になる可能性はゼロではないと考えられます。

ただし、あくまで配置転換などを考慮する場合は
・本人からの自発的な申し出があり
・会社・本人にとって過剰な負担がなく
・本人にとって不利益にならない
という合理的配慮の考え方に基づくべきと考えられます。くれぐれも本人の同意無くして異動やその他の不利益な扱いをしないようにしましょう。

接客業などで人と接する機会の多い業務がある企業では
合理的配慮を行う用意があることを従業員に伝えたうえで相談などを促すことが望ましいと思われます。

Q、10 ワクチン接種が始まれば職場でマスクを外したり、会食をやってもよいの?

ワクチンの効果は2回接種で90%以上の発症抑制効果があり、非常に有効なものだとがわかっています。しかしながら、効果は100%ではなく、効果の持続期間や変異株への効果など未知のことも多いのが現実です。
また事業者は、先述した通り従業員の接種有無を本来は把握できない立場にあります。

したがって、感染の収束が確認できるまでは、企業としては実情も加味して感染予防対策をとることが望ましいでしょう。

先述した通り、合理的な感染対策を企業が怠った場合は、結果責任を負う可能性があります。ワクチン接種が始まっても、手洗い、マスク、換気、密を避ける等の対策を企業としては取っていくのが安全でしょう。

一方でワクチンが有用である可能性は極めて高く、接種が先行しているイスラエルでは高い効果が出ているという報道もなされています。
感染対策が大きく変わらないとはいえ、感染収束の有望な手段であるワクチンは、正しい知識のもと有効活用しましょう。

Q、11 ワクチン接種の日は、どのくらい時間がかかるでしょう?業務離脱の時間はどのくらいを見込めばいいですか?

まだ接種が開始されていないので、はっきりしたことは言えませんが。

業務離脱に関しては、少なくとも数時間から半日程度を想定した方がいいと思います。
根拠としては
①通常のワクチンよりも接種に時間がかかる。

②接種は居住している自治体で行うため往復時間がかかる。

という2点が挙げられます。

①に関しては、このワクチン接種は、手順が少し複雑で「受付→問診・診察→接種→15-30分の待機」という流れですので接種だけでも最低30分ー1時間はかかると思います。(pdf17-19 https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000726454.pdf)
さらに、異例の大規模接種ですが密を避ける必要もあるため、その点でも時間がかかると推測されます。

②に関しては、○○市なら○○市体育館で接種することになるため、職場と居住地が離れている場合は往復時間も必要になります。
運よく、職場の近くで空いていて、とかなら1時間程度で済むとは思いますが、多くのからは職場と接種場所はそれなりに離れていると思います。

Q、12そのほか接種に際して気を付けることはありますか?

これからは徐々に暖かくなる季節です。おそらく65歳未満の方々が接種開始される時期はさらに暑い季節になることが予想されます。ワクチン接種は正常な反応として様々な体調変化を及ぼします。そのため、熱中症などにも十分注意する必要が出てくるかと思います。

まとめ


・新型コロナのワクチンは、「自分の意志で」「自分を守るために」接種するものです。
・ワクチン接種を強制したり、従業員の同意がない状態で接種有無を把握したりしてはいけません
・ワクチン接種の有無によって差別や不利益な扱いをしないようにしましょう
・ワクチン接種の機会が確保できるように、柔軟に休暇制度や勤務体制を整備しましょう
・ワクチン開始後も感染対策を引き続き行いましょう
・感染収束への有望な手段であるワクチンを正しい知識のもと有効活用しましょう。
・企業ごとや地域、ステージによって対策は大きく変わります。身近な専門家である社労士や産業医を有効活用しましょう。
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※本文は2021年3月27日現在の情報に基づいて作成されております。使用される際には厚労省や政府などの最新情報を確認してください。また、本文に基づいて企業が行ったいかなる行為とその結果への責任を弊社では負いかねます。あらかじめご了承ください。

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