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 四月中旬。私は昨年の遠野市への訪問以来、一年ぶりに岩手県を訪れた。その理由は、どうしても再訪したい居酒屋が盛岡市あり、頭を離れなかったからだ。それ故に、以前に伺った日からこの三年半という期間は、暖簾を潜りたくてとてもうずうずしていた。
 もちろん、旅の途中での人との出逢いや不思議なお話との遭遇、珍スポットとの邂逅なども期待しての毎度の旅である。さて、そうは言っても久々に訪れた盛岡で何をしようか。ある程度のざっくりとした計画は立てていたのだが、今回は空き時間にとても貴重な日本酒との出逢いがあったので、ここに記す。
 居酒屋での夜は大将と女将さんとの再会もあり、大変に喜びを感じたわけだが、それは大切に胸にしまっておく。今回は日本酒記の投稿なので、居酒屋とは別にご縁があって呑むことができた日本酒「あさ開」についてご紹介したい。

 訪問当日の午後、街をブラブラと歩きながら地図を見ていると、自分がいる現在地近くに「あさ開」と書かれた場所が載っていた。同名の日本酒の銘柄で有名なあの「株式会社あさ開」様の本社であり醸造所である。調べてみれば、売店も併設しているとのことで、酒好きの私はふらっと入るつもりでお邪魔した。

壁面に文字が踊る、あさ開様
日本酒その他が購入できる売店

 売店に入ってみると、数多ある銘柄に圧倒される。しばらく眺めていると、女性店員さんが私に気付き、声を掛けてくださった。朗らかな口調で、丁寧にいくつかの商品の解説をしてくださり、プチ日本酒談義が始まった。
 リュック一つで盛岡を再訪した私は、明日の予定と飛行機での帰路のことも考慮して、悩んだ末に、春限定モデルの特別純米の小瓶を購入した。実は、御言葉に甘えて試飲と酒蔵見学もさせて頂き、貴重な体験と共に、小瓶を忍ばせて帰阪したのであった。

杉玉

 今回の記事は、そんな経緯のあるあさ開を自宅にて開栓したときのレビューである。まずはラベルやホームページを参考にして、以下にスペックを記す。

ラベル表面
ラベル側面

あさ開 特別純米 春限定

原材料名 米(国産)、米麹(国産)
原料米 国産米
精米歩合 55%
アルコール度数 14度
日本酒度 ±0
酸度 1.2
アミノ酸度 1.5
火入れ回数 1回

 見た目は春らしい薄いピンク色のラベルに、濃い色の筆遣いで「あさ開」と書かれている。春の訪れを感じるが、味も爽やかなのか。 
 「冷奨」との表記があり、最も品質の良さが全開になるのが冷酒ということだろう。まずは冷蔵庫から取り出して、そのまま盃に一杯注いでみる。
 上から盃を見下ろし、鼻を近付けてみる。見た目はやや色味があり、香りは仄かに甘い。鼻を衝く鋭さはあまりなく、「春爛漫」といった印象で、名前通りに春を感じる。
 一口、戴く。呑むとまず甘みが口に広がる。しかし、しばらくするとビターな切れ味も感じられ喉越しはやや鋭い。香りからは想像できなかった感覚だ。また、舌触りが心地良い滑りだ。
 次に常温で呑んでみる。うむ・・・。特別純米の常温なのにこれほど甘みが出るかと思うほど、酸味とのバランスが顕著になった。さて、御燗が楽しみだ。

盃に注がれたあさ開

 少し湯気が立ったほどの温度帯で鍋から徳利を引き上げる。香りを嗅いで盃を口で受け止める・・・。身が締まるような味。甘さよりも、逞しく力強さを感じるシャープな酒になった。
 ざっくりと一般的に大別される温度帯で呑んでみたが、個人的には冷酒が気に入った。普段は御燗派の私だが、こちらは推奨通りに冷えた状態が良いという事に頷いた一杯であった。

 季節は五月も下旬に差し掛かり、早くも気候は暑くなってきた。各酒蔵から春酒は減り、夏酒、そして秋の酒の生産へと季節は移ろう。まだ入手が間に合うかもしれない各酒蔵自慢の春酒を、この時季に皆さん、楽しみましょう。そして、どこかで、今回ご紹介したあさ開を見かけることがあれば、是非、手に取って頂きたい。

 あさ開様は一八七一年(明治四年)創業。一五〇年以上の歴史の中で研鑽を積まれ、「水神」や「熟麗」など、ご紹介しきれなかった魅力的な商品が他にもある。ホームページのURLを記載しておくので、ご興味のある方はアクセスしてみては如何だろうか。

公式ホームページ:岩手の酒蔵 あさ開 (asabiraki-net.jp)


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