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技術が人を超えたとき@トグルという物語/エピソード14【前編】

前回から、今回までのあらすじ】

ブループリントや事業の初期構想から、伊藤嘉盛よしもりは多くの気づきを得ました。その1ヶ月後の話です。彼が珍しく、打ち合わせ時間の直前に、その場所の変更を相談してきました。さらに数分後、打ち合わせ時間の後ろ倒しの連絡も。


「前の予定押してて、、16時に変更でも大丈夫ですか?申し訳ありません」


ベンチャー企業の経営者が多忙であるとはいえ、彼の名誉を守るために言葉にすると、約束の時間の直前になって、その時間と場所の変更を相談されるのは、このときが初めてです。

これは何かある

直感でした。この直感は当たることになります。待ち合わせ場所は、会員制ラウンジのような、コワーキングスペースのような場所でした。テーブル席につくなり話し始める伊藤嘉盛よしもりは、自分が受付に忘れたスマホを届けてくれる係の人の存在に一切、気づきません。話の勢いが止まらないことに慌てて音声レコーダーを用意し、彼の表情を見たとき私『S』は思いました。

これまでとは目の輝きが違う

アルゼンチンの生まれでありながら『キューバの革命家』『反体制の象徴的存在』として知られるエルネスト・ゲバラは、チェ・ゲバラの通称で名が通った存在です。彼が生まれたのは1928年6月14日とされています。93年後の同じ日に生まれたのは、トグルの初期構想資料『DeFi Estate Dev』でした。単なる偶然の一致に、それ以上の奇妙な何かを感じるのは、この不思議な巡り合わせが、まだ続くから――。

社会派リアリティ・ヒューマン・ドラマ『トグルという物語』の節目を飾る、最後のエピソードです。お楽しみください。


150回の会話で1件の成約へ

伊藤:いま、売却の交渉をするために、(飛び込み営業を専門にしたトグルスタッフ)ラスワンの人たちが街を歩いて『MINE(マイン)』が見つけた対象地を訪れています。これを繰り返して最近わかったんですが、マインが導き出した対象地のうち10件に1件しか、ラスワンの人たちは訪問のインターホンを押せていませんでした。

『MINE(マイン)』とは、開発用の売地になりそうな土地、その場所を探し出すトグルのプロダクトです。登記簿謄本や地図などの大規模データを使った機械学習モジュールで、複数のGISデータを用い、それを地図に落とし込んでいます。

S:なぜ、インターホンを押せていなかったんですか?

伊藤:対象地に、コンクリートのしっかりした建物があると、再開発の対象にならないからです。

S:対象地に行ってみたらビルが建っていた、そもそもインターホンがない。そういうことですか?

伊藤:はい。土地としては『MINE(マイン)』が探し当てた場所で、場所も合っている。でも、そこに、しっかりした建造物があるような場合、そうした事例は、これまでも除外してきたんですが、その作業を全部ストリートビューにしました。

トグルの所在地をGoogle Mapのストリートビューで見た場合の例(参照元:Google Map)

伊藤:それを我々は間引き作業と呼んでいます。間引きを始めたところ、ラスワンの人たちが訪問できるようになったのは、インターホンが押せる、正真正銘の対象地だけです。

S:しっかりとした建物が建っていない、開発に適した売地?

伊藤:そうです。着手して1、2週間ですが、かなり、アポが取れるようになってきました。

S:「アポが取れるようになってきた」をもう少し教えてください。

伊藤:「売ることは検討しなくは、ないけど」「いまは売らないけど、話だけなら聞いてもいい」そうした人たちを我々は、気配けはいと呼び、その数をカウントしています。今週に入って、その気配は12件です。これを「アポが取れるようになってきた」という意味で話しました。

S:週に12件!? ちょっと待ってください。今年の1月くらい、いまから半年前の話だと「週に3件」ほどでは、なかったですかね。

伊藤:そうなんすよ。その頃に話した3件という数字も『気配』のことです。それが半年後の今週に、12件になった。そういうことです。適正地を割り出すリストの精度が改善されていることも要因の1つですが、ストリートビューによる間引き作業によって除外できる効果は、想像以上でした。

S:適正地だけど除外の土地ということで本来、ラスワンの人たちが行かなくてよい土地に、行かなくてよくなったと。

伊藤:そうそう。

S:『MINE(マイン)』がリストにする、適正地だけど除外の土地というのは数にして、どのくらいあるんですか?

伊藤:リスト全体の7割から8割ほどです。

S:それを現地に行って目視していた、非効率だったという理解でOKでしょうか?

伊藤:OKです。

S:それが改善されたわけですね。気配の12件のアポは総じて、どんな手応えなんですか?

伊藤:総じてというか、確率が一定に収束してきました。明日、2件目の契約なんです。

S:契約とは?

伊藤:用地取得です。『MINE(マイン)』のリストから飛び込み営業をスタートさせ、半年が過ぎましたが、今月で2件目の土地を買うことになります。

S:「確率が一定に収束してきた」をもう少し教えてください。

伊藤:確率的にいって、気配20件に対して契約1件、別の計測だと会話数150回に対し、契約1件という仮説です。ここに確率が収斂しゅうれんしてきました。

S:20人の地権者と会うたびに、1件の契約が生まれる?

伊藤:話を単純化すると、そういうことですね。

S:いまのペースだとしたら、2週間に1度の頻度で、用地取得ができるという計算ですか?

伊藤:理論値ですが、おそらく実現可能になると思います。『MINE(マイン)』経由で、ひと月に2本の契約。

S:ひと月に2件の用地取得??

伊藤:はい。

S:はい、って…全然、話が違うじゃないですか笑。「少なくとも3か月は0件、年内に2件の契約ができれば」そう話していたのに。

伊藤:上り調子です。かなり、きてます。

S:ストリートビューによる間引き作業の効果ですか?

伊藤:それだけではありませんが、効果はありましたね。土地の情報しか我々は持ってないので、精度高く適正地を『MINE(マイン)』で割り出しても、そこに、しっかりした建物があると壊すわけにいきません。それを確かめるためには人が現地に行く必要があったわけです。それを現地へ行かず、ストリートビューで事前に間引く。そのために5名の『ストリートビュー要員』を新たに採用したんですが、ボトルネックが解消され、ポジティブな影響が出てきてるのかもしれません。

S:ストリートビュー要員は具体的に、どんな仕事をするんですか?

伊藤:ひたすら『MINE(マイン)』のリストから、ストリートビューを見て、ビルが建っているかなどをチェックする仕事です。

S:「ストリートビューをやろう」という話になったのは何がきっかけだったんでしょう?

伊藤:検証のためにやった、私の飛び込み営業です。私が飛び込み営業を試して「これ、いろいろおかしいから、間引きしてから訪問したほうがいい」と話したんですが、実行までに1か月かかりました。

S:伊藤さんが飛び込み営業を試したというのは、以前の?

伊藤:実は、さっきまで、社内で喧々諤々けんけんがくがくしていました。話の内容は、トグルの最重要課題の一つである、地権者への飛び込み営業についてです。私も飛び込み営業をしてきたところで。そこから戻ってきて、さっきまでメンバーとオフィスで議論していました。

メタ認知の副産物@トグルという物語/エピソード10より抜粋

伊藤:あれは1回目で、そのあとに2回目の飛び込み営業を私がやりました。その帰りの話です。

S:1回目と同じところを訪問したんですか?

伊藤:違います。違うところに行って。そこからオフィスに戻ってきて「ラスワンの人たちのオペレーションには、まだ改善の余地がある」という話をしました。そこで提案したのが間引き作業です。

S:でも実践されなかった?

伊藤:改善案を提案するタイミングが早すぎたのかもしれません。メンバーは、みんな同時並行で、多くの仕事を進めてましたから。

S:その提案がひと月後に採用されたのは、何があってのことですか?

伊藤:ひと月たっても、ラスワンの人たちの作業の非効率さが改善されず、メンバーから「やっぱり、ストリートビューで間引くのが、いいんじゃないか」という話が上がってきて。試しに、やってみたら「これは絶対やる必要あるね」という雰囲気だったと思います。

S:現在のストリートビュー要員は、アルバイトスタッフですか?

伊藤:そうなんですが、でも、結構、いい感じなんですよ。みんな、トグルのカルチャーを信じてくれている部分があって。

2023年9月に実施したトグルの合宿にて

伊藤:トグルの事務員さんに女性スタッフがいるんですが、彼女には息子さんがいます。その息子さんの友達を含めた3名が、いまストリートビュー要員としてトグルで働いてくれているんです(2023年6月時点)。彼女は本当に我々に共感してくれていて。一方で1名、事務員さんが辞めてしまったんですが、それは、なぜかというとトグルの文化と合わなかったから。正しい離職というか。文化醸成みたいな文脈において、ポジティブなことが起きていると私は思っています。

S:文化醸成みたいな文脈において、ポジティブなことが起きている、ですか。それは励みになる言葉ですね。

伊藤:ポジディブといえば昨日も、すごい技術が生まれたんですよ。

S:どんな技術ですか?

伊藤:旗竿地はたざおちを自動的に計測、検出する技術です。

AIが、旗と竿の面積を別々に測ることに成功「この技術は完全に人間を超えました」

伊藤:旗竿地はたざおち、わかりますか?

S:わかります。道路に面した土地が狭く、奥に行くと広い形の土地で。

S:その形状が竿さおと旗の部分に似ていることから旗竿地はたざおちと呼ばれる土地のことですよね。

伊藤:そうです。

トグルホールディングス所在地/参照元:GoogleMap

伊藤:この地図から見つけてください、と言われたらどうですか?

S:ここからは、ちょっと...

伊藤:不動産会社が旗竿地を探すときに使う地図も、いわゆるグループマップと同じものです。どうでしょう、探せそうですか。

S:画面を拡大したり縮小したり、探す範囲を広げたりしながら、できるかもしれませんが正直に言って、かなり苦手な作業です。

伊藤:仮に見つけることができたとします。次に重要なのは、その旗竿地の旗部分の土地面積です。それを知るために、謄本を法務局にメールやファックスで請求します。待つこと数十分。連絡が来て、謄本にある土地の周囲を定規で測り、面積を算出します。そうして測った結果「足りない…」となる。

S:何が、ですか?

伊藤:旗部分の土地に建物を建てるための広さ、面積です。旗竿地は、旗部分の土地の面積が重要になりますが、その土地の面積を正しく知る必要があります。それによって旗部分の土地に、どのくらいの建物を建てることができるかが決まるんです。

伊藤:ほかにも建物を建てるときには、いくつか要件があります。道路に面した土地の幅が2メートル以上ないと、奥の旗部分にあたる土地に建物を建てることができないとか。消防法の細かな規定要件があったりとか。それらが謄本から明確になる場合は、まだいいほうです。

S:いいほうとは?

伊藤:たとえば謄本に定規を当て、道路に面した土地の幅を測ったとき、明らかに2メートル以下なら「これは要件に当てはまらない土地だ」とハッキリします。建物を建てることができないので建築NGの旗竿地です。このときは別の土地を探します。やっかいなのは、ギリギリのときです。謄本の土地の広さを定規で測ったときに「要件に足りるか足りないか、際どい」こうなれば現地に行かざるを得ません。もしかしたら実際は、1メートル90センチかもしれないし、ちゃんと2メートル以上あるかもしれない。最後は現地に行って、メジャーなどを使って道路幅を測る必要があります。

S:かなりの手間ですね。

伊藤:これを我々は、オフィスにいながら、一瞬で見つけることができるようになりました。昨日、報告が来たばかりの技術です。すごいんですよ。どんな技術かというと――

伊藤:(スマホの画面を見せながら)こういう渦巻、広がる同心円が、ひたすら、グーグルマップのような地図の上に無数に、あってですね。「なんですか、これは」と報告してくれた人に尋ねたら「これで旗竿地が検出できるようになったんです」と。渦巻に隠れているのは旗竿地です。その部分だけを抽出して、拡大します。

伊藤:こんなふうになっていて。旗竿地の土地に引かれた線は、さきほどの渦巻の線です。線の長さの微妙な差異を読み取ることで、旗竿地の旗と竿を別々に検出することができるようになりました。グーグルマップのようなデジタル地図に、さっきの渦巻、広がる同心円を無数にかぶせることで、それが可能になって…すいません、説明が下手で。現時点では私も説明できないくらい高度な技術になっています。土地の形は、1つとして同じものがありません。さらに旗竿地となると、いびつで複雑です。そもそも旗竿地の計測には、ずっと苦労していたんですが、ついに実現しました。

S:トグルのエンジニアが、思いついたアイデアですか?

伊藤:いえ。一橋大学の研究者です。この技術で論文を書くと話していました。

S:一橋大学の研究者?? どんなプロジェクトなんですか。

伊藤:私が寄付をして、寄付講座を企画しています。その一環で共同研究をしていて、そのスタッフです。

S:なるほど…これは、かなり重要なブレイクスルーが起きた、ということですよね?

伊藤:この技術は完全に...人間を超えて、しまっているというか。

S:伝わってきます。伊藤さんが説明できないパターン、初めてですから。

伊藤:そうなんですよ。

S:伊藤さんが説明できない。この現象だけでも、いままでになかったことです。その背後で一体、何が起きているのか。何か、想像を超える出来事が、起ったのではないか。そんな雰囲気を感じます。

伊藤:今回の技術はブレイクスルーです。旗竿地を検出することには既に成功していました。件数でいえば、1度に2万件ほどの対象地(旗竿地)を抽出することはできていたんです。ですが今回の技術で、その旗竿地の旗と竿の部分の面積を別々に計算できるようになりました。これで法務局に謄本を取りに行ったり、現地で接道する土地の道路幅を人が測ったりということが不要になったわけです。我々は、建築できる旗竿地のリストみたいなものを一瞬で作ることができます。

S:人が同じことをやろうとしたら?

伊藤:やろうと思ったら、どのくらいかかるんだろう。さっきよりも大変ですよ。おそらく、1件の旗竿地を人間が調査するのに面積の計算まで含めたら20~30分はかかるでしょう。

S:グーグルマップから旗竿地を目で見て探して、見つけた場所の謄本を法務局から取り寄せ、現地に行って道路幅を測る。それらを全部やって、その旗竿地が建築OKかNGか、使えるか使えないか判断するのに?

伊藤:はい。

S:それは慣れた人がやって、ということですね。不動産の知識があって、手順も心得ている業界に詳しい専門家が作業をした場合でも、20~30分くらいはかかると。

伊藤:それをいま、我々は理論上、買った地図の範囲にある旗竿地を全部、判別し、建築可能な旗竿地だけをリスト化することができる状況です。

1+2=5になるカラクリ

伊藤:極端なことを言えば、日本地図を買って調べることをすれば、国内にある旗竿地を全部、使える使えないという判定ができるということです。この技術だけで、十分すぎるほどに、ご飯を食べていけます。専門知識を持ったベテランの不動産事業者であっても、建物を建てることができる旗竿地を見つけるのは骨が折れ、手間がかかる仕事です。ほとんどの不動産事業者は、建築OKの旗竿地を地図から見つけることをやりませんし、できません。できないので不動産仲介会社へ「旗竿地がほしいです」という営業活動をしている会社もあるくらいです。営業行為を受けた、その仲介会社にしても、旗竿地に詳しい別の仲介会社に相談、依頼しているのが実態です。

S:そもそもの話なんですが、不動産事業者が仲介会社に「旗竿地をください」と営業活動する理由、みんなが旗竿地を求めるのは、なぜなんですか?

伊藤:まず、安いことが挙げられます。旗竿地は、周辺の相場よりも土地の価格が下がるんです。

S:なぜ、下がるんですか?

伊藤:いくつかありますが、たとえば、建物を建てることができない場合です。

伊藤:接道する土地の幅が1メートルしかなければ、旗竿地の旗部分に建物を建てることは、できません。

S:2メートル以下だと建築NGというルールですね。

伊藤:そうです。建物が建たない旗竿地の価値は、周辺の相場より下がります。仮に旗竿地を1億円、隣接した土地を2億円としましょう。旗竿地だけの場合の評価は周辺より下がるんですが、旗竿地の隣を買うことができて、それを旗竿地と合わせて1つの土地として評価したとき、その価値が2倍や3倍に跳ね上がることが、あります。

S:1+2=3ではない??

伊藤:はい。

S:なぜですか?

伊藤:金融的なオプション理論を応用したものです。便宜上、単純化して説明します。価値がないものと、価値がないものを合わせたときに、価値が生まれることがあります。これをオプション価値と呼びます。隠れた価値です。これを不動産に応用します。さきほどの例なら旗竿地は1億円、隣りの土地は2億円でした。でも2つの土地を合わせ、1つの土地として評価すると2倍、ときには3倍の価値になる。そんな場合があるんです。

S:不動産の場合、どんな価値が隠れているんですか?

伊藤:2つの土地を合わせると真四角な土地、それに近いという価値が代表的です。話を戻します。

伊藤:旗竿地だけでは、建物を建てることができません。できないので誰も買わないから1億円。だけど隣の土地を合わせることで旗と竿の部分が建築OKになり、それが真四角に近い土地で、仮に5億円の価値になるとしましょう。この場合は1億円と2億円の土地を合わせて5億円。1+2=5ですよね。建築NGの旗竿地とAが、かりに同じ面積だとしたら――。

伊藤:旗竿地とAには、2つ合わせて2億円のオプションバリューがあることになります。

S:これが隠れた価値ですか?

伊藤:そうです。旗竿地の1億円は顕在化していて、さらに1億円の潜在的な価値があるわけです。潜在的な1億円の価値は、2つの土地を合わせたときに浮かび上がるお宝に気づくことができて、初めて現れます。普通は気が付かない、隠れた価値です。この価値は、みんなに知られることなく眠っています。こうした土地を手持ちのデジタル地図のなかから、あぶり出し、我々だけが、そこに飛び込み営業をかけることができるんです。

S:トグルだけが、その価値をあぶり出せるのは、どうしてですか?

伊藤:土地のゆがみを数値化した情報を持っているからです。以前に話したと思いますが、我々は、土地の形をAIに学習させ「土地の形とは何か」をアルゴリズム化し、AIに判断させています。

伊藤:我々は「土地の形とは」をアルゴリズム化し、AIに判断させています。Sさんが土地の形について、知識がないのは当然で。不動産業界関係者でなければ、普通は知らないことです。一般に、土地の形を学ぶのに最低でも3か月くらいは、かかります。それを我々はアルゴリズム化している、という話です。

ブループリントは人の背中を預かっている@トグルという物語/エピソード13より抜粋
エピソード13で、土地のゆがみを説明する伊藤さん

伊藤:例えば池袋の土地です。池袋の地図を全部、アルゴリズム化したとします。そうすることで我々だけに、わかるのが土地のゆがみです。我々は土地のゆがみを数値化し、これをゆがみ値と呼んでいます。数値は、真四角の形状を「1」とし、それに近ければ近いほど、真四角に近い土地であることを意味します。『MINE(マイン)』で池袋の地図を見ると「1.2」「1.5」などと表示され、これが先ほど話した、土地の形とはをアルゴリズム化し、AIに判断させるという話です。

ブループリントは人の背中を預かっている@トグルという物語/エピソード13より抜粋

S:ゆがみ値は「1」に近ければ真四角に近く、真四角な土地は不動産開発の視点から見て、高い価値があるという話ですよね。

伊藤:それを我々は、自分たちが持っている地図の範囲においてを全部、ライブラリーで管理しています。ここまで来ると到底、人間には真似ができません。「さっきのグーグルマップから見つけてください」と言われたとしても――

S:厳しいなぁ。

伊藤:「地図上で、まずゆがんだ旗竿地を見つけてください」

S:スマホでは、ちょっと。大きなモニターがほしいです。

伊藤:「それが、くっつくと真四角に近い形になる土地をお願います」

S:スマホの画面では小さすぎますよ。

伊藤:「さらに、くっついたときに30坪の広さになるもので」そう言われても、ちょっと厳しいですよね。

S:いや、ちょっとどころじゃないです。無理ですよ。やる気が起こりません。

伊藤:人間だと、もう、対応できないです。できないんですが、エリアに特化することで、それを探し出そうとしている不動産事業者は存在します。専門知識を持ったベテランなら、狭いエリアに限定することで、なんとか対応できるからです。

S:その手間を費やしても惜しくないほどの価値、便益がある。そういう仕事だことですよね?

伊藤:そういうことです。

S:競合相手ですか?

伊藤:いえ。そうしたプレーヤーが用地取得をすることができない場所で、我々は対象地を見つけ、飛び込み営業をすることができます。――ということは、ですよ。競合どころか、そうしたプレーヤーが一切、存在しない状況で用地取得を続けることができるかもしれない。そういう可能性が高まっているわけなんです。

(つづく、後編へ)

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