見出し画像

ゼロイチの前夜@トグルという物語/エピソード14【後編】


※前編はコチラ

針を針だと認識し、それをわらの山から見つけることができるのはトグルだけ

S:その状況を作り出した技術が昨日、完成したということですか?

伊藤:報告が来たのは昨日ですね。こうした旗竿地はたざおちは、お宝なんです。お宝なんだけど見つけるのが難しいから「出合ったらラッキー」だったわけです。だけど我々は、それをデジタル地図から見つけることができるようになった。それは誇張なく、宝の地図を手にしたことを意味します。

伊藤:氷山の下側の誰も扱わない土地を我々は扱おうとしています。これまではテクノロジーがなかったので「この地図から、”お宝”を探せるわけないじゃん」と。わらの山(地図)から一本の針(お宝)を見つけるのは無理だったわけですが、我々がテクノロジーを使って、この地図をデータ分析すると『一塊のわら』くらいに絞り込むことができます。手でつかんだ一塊のわらのなかから、一本の針(お宝)を探すことはできるよねと。

S:一本の針、”お宝”とは?

伊藤:投資家のオーダーに見合った土地です。投資家には本来、希望条件があります。「総工費5億円くらいで千代田区に投資用マンションを建てたい」などです。これに見合った土地は、ほとんどの場合、レインズに登録されていません。前述のようにポツポツと数件程度しか売地が登録されていないので、選ぶことができる選択肢が、そもそも少ないのです。現状では、オーダーに見合った場所、土地がどこに何件、存在するかもわかりません。それを我々がテクノロジーで見つけます。

ToggleとPuzzle。その世界観にふれる@トグルという物語/エピソード1より抜粋

S:当初の話が、いよいよ現実のものになろうとしているわけですか...。わらから1本の針を見つけることができたし、その精度の誤差がゼロに近づいた感じですか?

伊藤:私の感覚としては「どんなにわらの山、たばがあっても、そこから必ず針を見つけられます」という感じです。しかも、それをほかの人は針として認識できない。我々だけが針を針と認識し、それがどこにあるか、わかるんです。

S:その、と呼べる対象地への飛び込み営業は、以前(2022年1月)は週に3件程度でした。それでも大きな成果だったのに、それが現在は週に12件になって。その数は3か月、4か月前の4倍です。

伊藤:私たちが試したところ、思いのほか地権者から反応がありました。年明けからの1週間だけで3件、4件の反応です。

S:反応とは?

伊藤:前向きな会話ができそうな地権者さんのリアクション、ということです。

S:1週間で3件、4件の反応とは、よい数字なんですか?

伊藤:よい、どころではありません。驚くべき数字です。

社歌に込められた思い@トグルという物語/エピソード2より抜粋

伊藤:そうでしたね。週に3件で、みんな「もう、ありえない成果だ」そんな雰囲気でした。大手ディベロッパー出身者のメンバーが、トグルにもいますが、彼らからすると「そもそも、地権者と会話できることだけで驚き」と。それが一番大きなサプライズという感じだったのですが、その上さらにアポの件数が週に12件にまでなって。

S:そう考えると、たくさん失敗しようと声をかけ、実際にそれを繰り返した成果というか、常識にとらわれないマインドを繰り返し、言葉にして唱えてきたことも報われる思いですね。

伊藤:ここから――。今回の技術のブレイクスルー、気配の件数が週に12件になったことをターニングポイントとし、来月から人の数を倍に増やします。

S:倍に増えるのは、どんな役割の人ですか?

伊藤:飛び込み営業をしてくれている、ラストワンマイル(ラスワン)の部分を担う人たちです。ラスワンの人員を2倍にして飛び込み営業を強化します。そうすれば気配の件数は少なく見積もって週に20件ほどです。月に2、3件くらいの用地取得は再現性を持って、いけますね。

S:用地取得の件数が月に2、3件!?

伊藤:(中略)トグルには、大手不動産ディベロッパーで、実際に用地取得を経験してきたメンバーがいます。彼の知識をもとに、10名体制でトグルは飛び込み営業をスタートさせました(2022年1月時点)。彼へ私は聞きました。

「成果が出る時期は、いつくらいだと思う?」

伊藤:彼の意見はこうです。

「少なくとも3か月は坊主(0件)を覚悟しておいたほうが、よいと思います。よくて、年内に2件の成果が挙がればいいんじゃないですかね」

S:2件の成果、とは?

伊藤:2件の土地を買うことができる、です。

S:10名体制の飛び込み営業を1年続けて2件の成果が出ればよいだろうという、経験者の見立てなんですね。

社歌に込められた思い@トグルという物語/エピソード2より抜粋

伊藤:問題ありません。その規模をいますぐに実践するかは別ですが、理論上、エリアを広げればOKという状況です。現在は都心の11区と、それ以外でエリアを厳選して飛び込み営業をしています(2022年6月時点)。それを仮に横浜、名古屋、福岡、大阪、仙台などで横展開するだけです。行動に移せば再現性をもって成果を挙げることはできるでしょう。土地取引の市場規模は巨大ですから、ひと月10億円、年間100億円の利益なども絵空事ではなくなったと思います。

S:急に規模が、ちょっと...待ってください。

伊藤:全集中してやり続ければ、その辺りまではいけるはずです。

S:その画が、見えているんですか?

伊藤:見えています。私のビジネスの、なんていうんですかね。その作りかたは、立ち上がりが遅いです。遅いけど立ち上がった事業が完成へ近づくと、そのあとは急激に成果を挙げるスピードが速くなります。すべての仕組みを再現性が伴うように作っているからです。

伊藤:何社かの経営を自分でやり、周りの経営者を見て思うのは、事業の立ち上がりが早い経営者と、遅い経営者がいるということです。どちらかと言うと私は、事業の立ち上がりが遅い経営者じゃないかなと。なぜなら、自分のことを戦略家タイプだと思っている私は、まず仕組化しようとするんです。これは、ある意味では遠回りしている。戦う前から武器や城を作りに行くタイプなので、スピードが早いビジネスには向いていない気がしています。

カルチャーづくりのはじまり@トグルという物語/プロローグより抜粋

伊藤:同時に、今回のトグルの仕組みは気合と根性を必要としません。専門性も、いりません。すべて機械化しているからです。

S:専門性が必要な仕事は、素人でもできるよう、オペレーションを組む。そういうことですよね?

伊藤:そうです。オペレーションにしても、機械化された部分にしても、すべて再現性を伴った状態で仕組み化、モジュール化しています。こうすると横展開が簡単です。横展開とは横浜、名古屋、福岡、大阪、仙台などに、飛び込み営業の対象エリアを増やしたり、その人の数を倍にしたりすることです。

S:これ、情報が漏れても大丈夫ですか? こんな、オープンスペースで話を聴いていることが急に不安になってきました。

伊藤:情報は、できるだけ漏れないほうがいいですね。価値に気が付いた不動産会社は真似をしてくると思うので、1年くらいは「本当なのか」「噂なのか」あやふやなくらいが丁度いいかもしれません。でも...そうですね。ここまで来ると追いつけないかもしれません。旗竿地の、旗と竿の部分の土地を別々に検出して、それぞれの面積を測る技術自体は発明レベルです。論文にする価値があります。

S:ちょっと、ヤバいな...事業の成長スピードが速すぎます。

伊藤:加速してますよね。

S:してます。

伊藤:私は、確信を持ちました。

伊藤:こんなに、うまくいったのは初めてです。ビジネスは難しいから...いや、確かに難しかったけど、こんなに競争がなくて――

S:競争がない?

伊藤:以前の会社、イタンジを経営していたときは、プロダクトを作ってリリースすると、その半年後には真似をされてきました。そう感じていたんです。ベンチャーを立ち上げ、資金調達までして追いかけてくるんだなと。しかし今回は、みんなと我々では明らかに、いる場所が違う。違いすぎて「すごいな」というか。

S:「すごいな」を伊藤さんの言葉でもう少し教えてください。

伊藤:「こんなにもうかることが、こんなに競争がなくて、すごいな」という感じです。我々以外は、誰も旗竿地を自動検索できないんですよ。できないから競争がない。

S:追いかけてくるんだな。そう感じた経験があるからこその思いでも、あるんでしょうね。

伊藤:面白いですね...…結局、着想や発想からは1年かかりましたけど。

S:え、ちょうど丸1年なんじゃないですか? 気持ち悪い、日付。

事業構想の資料データ『DeFi Estate Dev』


S:ひと月ほど前の打ち合わせで見せてくれた事業構想の資料データ『DeFi Estate Dev』の作成日、6月14日でしたよね?

伊藤:間違いありません。

S:こんなことありますか...

伊藤:今日は6月14日ですね、気持ち悪いな笑。

「クラシックにしてしまった」MINE(マイン)に感じる畏怖いふについて

S:動揺しています。ちょっと...質問が思い浮かばない。

伊藤:我々のアプリは、見せましたっけ。

S:アプリも、あるんですか??

伊藤:作っています。ラスワン(飛び込み営業のスタッフ)の人たちに使ってもらうアプリです。飛び込み営業の内容をすべて、アプリ内でタスク化しています。『TSURUHASHI(ツルハシ)』です。ラスワンの人たちには『TSURUHASHI』をゲーム感覚で使ってもらえればと思っています。飛び込み営業の仕事をすべてタスク化し「本日のクエスト」のような感じに仕上げたアプリです。

S:ロールプレイングゲームのような?

伊藤:近いですね。アプリを開くと「今日は10件の飛び込み営業をしよう」のようなクエストをクリアするかのごとくゲーム感覚で、飛び込み営業ができます。これも我々だから、できることです。

S:実験のスタンス、ですね。

伊藤:話していて思ったのですが、”実験”というスタンスをとれているのは、我々の強みでもありますね。

S:どういうことですか?

伊藤:実験というのは、証明されてないことを試すことができるじゃないですか。失敗もできるし挑戦もできる。でも事業において多くは、証明されたものを実践することになります。証明されていれば実験は、いりませんから。つまりは、事業というよりも実験。トグルにおいて初期段階を私は「事業を立てよう」みたいな話で捉えていませんでした。飲食店の事業収支があって、事業計画があって、その計画通りに出店数を増やし、売上を伸ばしていくことを事業だと位置づけるなら。それは、私のやることではない、というか。極端なことを言えば、証明されている事業を自分がやる必要はないと思っています。まだ世の中で証明されてないことをやる。そういう意味で、トグルの事業を私は、実験だと捉えています。

ブループリントは人の背中を預かっている@トグルという物語/エピソード13より抜粋

伊藤:今後は、我々が用地を取得するだけではなく、投資家からのオーダーもシステムに入れていきます。そうすれば、対象地と投資家のオーダーの全部が、検索するかのように『MINE(マイン)』内で、つながります。つながったら、次から次へとラスワンの人たちが対象地をあたる。あたれば、さらに用地取得の件数は増えます。ラスワンの人たちの営業効率が、さらに上がるからです。投資家からのオーダーが増えるということが意味するのは、対象地の増加です。そうなれば、ラスワンの人たちの対象地から対象地までの移動距離が短くなります。経由地点、ポイントが増えるようなイメージです。

S:末恐ろしいな。

伊藤:いや、本当にワクワクしますよね。

S:質問を変えます。伊藤さんにいま、どんな景色が見えているのか。それを教えてください。少し俯瞰ふかんするような抽象的なことをお聴きします。いまの伊藤さんの関心事は、どんなことですか?

伊藤:いま私が「面白いな」と思っているのは、ブロックチェーンやDeFiを使って、世界中の投資家のオーダーと『MINE(マイン)』をつなげる世界観です。世界中の投資家が、世界中から日本中の土地とつながる。ディベロッパーも銀行もいらない。世界中の仮想通貨が『MINE』経由で日本の土地に流れ込むわけです。という話は単なる可能性の話ですが、トグルの事業は、たぶん、かなり、うまくいくと思いますし、これはビジネスとして相当、成功すると思います。そして不思議なことに、そのことが、ほかの人に、あんまり伝わらないんです。専門的で難しいことから伝わらないのかもしれませんが、仲間や知り合いの経営者に話しても、返ってくる反応がイマヒトツです。「ITって、そんなにもうかるんだ」というリアクションで「伝わっていないな」「誰も来ないんだろうな」と。

S:先ほどの潜在的な価値、隠れた価値の話にも通じるように感じました。建物が建たない旗竿地に1億円の隠れた価値がある話です。

伊藤:そうですね。たしかに、合わせて2億円のオプションバリューが計算できることは、めちゃくちゃすごいことです。すごいことですが、そのポイントは金額の多寡ではありません。そこを強調したいです。

S:というと?

伊藤:ポイントは、ほかの人に見えない価値が、我々だけに見えるようになった、という事実です。我々は、土地の形状、接道状況から逆算して、建築OKな土地を見つけることが、できるようになりました。さまざまな土地情報をパラメータとして検出できるようになったので、さらなる緻密な解析の実現へと、つながります。我々だけが、です。まだまだ可能性を秘めていて、これはビジネスとして面白いというか。私にとっては、優れたビジネスモデルを開発できたことの喜びが、大きいんですよ。

S:「開発できそう」ではなく「開発できた」という感じなんですね。

伊藤:そうなんです。そのクリエイティブさが、私は面白い。

S:伊藤さんが感じている「面白い」をもう少し聴かせてください。

伊藤:何て言ったら、いいんだろうな...。思うことをそのまま言葉にすると、これを世界中の投資家からブロックチェーンベースで、お金を集めるという予言というか。これを夢として今日、伝えておきますね。価値やリスクが計算できるということは金融商品、投資の対象になるということで。それは、いままでできなかったことです。

S:イーサリアムのような仮想通貨、ということですか?

伊藤:そちらへ向かう、チャレンジは、してみたいですよね。

S:今日は何かが起こる予兆というか、嵐の前触れのような、そうした何かを感じます。2021年6月14日に、トグルの初期構想が資料として誕生しました。以前の打ち合わせで見せてくれた『DeFi Estate Dev』です。そのちょうど1年後にあたる今日、伊藤さんは事業の未来に確信を持った。話は、ここからです。伊藤さんにとって6月14日は、思い入れがある日付ですよね?

伊藤:よく覚えていますね。

伊藤:6月14日は以前の会社である、イタンジを設立した日でもあります。これは共同創業者とともに意図して選んだ日付でした。

S:その理由は?

伊藤:6月14日は、革命を起こし、キューバの指導者となったことで知られる、チェ・ゲバラが生まれた日です。

S:革命家が生まれた日であると。

伊藤:それになぞらえて、イタンジの設立日が決まりました。

S:革命的なベンチャー企業にしたい、そういう会社が生まれた日になればと。そういう思いや願いが込められていた?

伊藤:そうです。

S:トグルの初期構想『DeFi Estate Dev』のデータ作成日が、同じく6月14日だったのは意図的?

伊藤:いえ、偶然です。

S:今日も同じ、6月14日です。これを単なる偶然として済ませてしまうことには違和感を覚えます。まさか、トグルの設立日も6月14日ですか?

伊藤:いえ。それは、間に合わなかったんです。

伊藤:トグルの会社設立は6月15日です。

S:翌日ですか...。日付から事実を捉えると、事業構想の資料が生まれた日の翌日に、トグルという組織が生まれたことになりますね。まず事業アイデアが生を受け、それを具現化するために必要な集団として、トグルという会社が翌日に組織された。その視点でイタンジ設立を考えると、イタンジという集団が組織されたことによって、イノベーターとしての起業家・伊藤嘉盛よしもりが誕生した。そう見ることもできませんか。つまり間に合わなかったのではなく、むしろ順調だった。大いなるプロセスに従って動いている、というか。

伊藤:面白い視点ですね。

S:宇宙の原理原則のような視点です。イタンジが6月14日、トグルが6月15日の設立ですから、イタンジが生まれたことでトグルが生まれることができた、ともとれる。連続する日付と、一致する日付。連続するのはプロセスであり、それは一致した日付が起点になっているというか。

伊藤:不思議ですね、ホント。

S:――ということは伊藤さんにとって6月14日は『前夜』かな。

伊藤:比喩ですか。特別な日の前の晩や、一大事の直前を前夜と言いますもんね。

S:それでいえば、感じているのは一大事の直前という感覚に近いです。特別な日の前、ということなら、トグルという組織が設立される前夜に『DeFi Estate Dev』のデータが生まれたともいえます。つまりこうです。今日、お聴きした話は何かの一大事の前触れ。その『前夜』が今日です。この話を受けて、何か思うことはありますか?

伊藤:それでいうと、このプロダクトのすごみというか。「このプロダクトは私自身をどこまで連れていってしまうんだろう」という不安を覚えます。

S:その不安をもう少し教えてください。

伊藤:うーん......ものすごい大きい会社になってしまうような気がして。あとは、それこそ、ブロックチェーンベースで、〇〇コインのようなことをやろうとすると日本では、なかなか難しいです。そうなるとシンガポールに移住するみたいな話があって。移住となれば「世界中の投資家を相手にプレゼンテーションをするようになるのかな」とか。それは、自分がやったことがないことで「想像すら、してこなかったことをやるようになるのかな」という思いです。そういう会社の規模で、大きい会社になって上場したら、やりたいこと...いまのままでは、いられなさそうだなと。そういう感じがします。

S:一皮むけるようなイメージ?

伊藤:皮がむける、というよりは「見たことがない景色が広がる場所に、良い意味でも悪い意味でもなく、行かざるを得なくなってしまうようなプロダクトだな」と思っています。昨日、この渦巻のプロダクトを見て私は確信したんです。「人間が、できることを完全に超えている」と。そういう気持ちになって。

伊藤:去年(2021年)の12月ごろの話なんですが、トグルのみんなで『MINE(マイン)』のことを話していました。当時、地図として、マインは、めちゃくちゃポンコツでした。「(開発に適した売地を見つけるなら)人間のほうが速いね」と、不動産業界出身のトグルメンバーの人たちが話していて。彼らも冗談で「いつか、マインが人間を超える日が来ると思うんだよね」と。でもそれが半年後に本当に起きた。みんなが冗談で話していた「いつか」は、おそらく数年後だったはず。その数年後の姿が、いまアルゴリズムとして誕生しました。この姿に、まだ、みんなは気づいていないかもしれない。やっぱり我々は、テクノロジーの背景、そこへの理解があって、加えて不動産の知識もあります。2つの領域に通じていると「マインで、地形じがたや接道から土地の情報が検出できるようになる、ということは...」のような、その後の未来を思い描けるんですよね。

S:その後の未来について、もう少し教えてもらえませんか?

伊藤:いままでの不動産業界の前提がくつがえったというか、なんて言うんだろう。数年前に、あったじゃないですか。AIが生まれたときに。

S:なくなる職業?

伊藤:なくなる職業。「この職業がAIに仕事を奪われる」みたいな。今回の我々の技術で、ディベロッパー業界全体を、なくなる職業にしてしまったというか。いや、存在や仕事が存在しなくなる未来をいいたいわけではなく。どう表現すればいいだろう...

S:言葉を選ばず、いま感じていることをそのままいうと?

伊藤:言葉を選ばず、本音を言えば、少なくとも我々にとっては不要になりました。これを畏怖いふの念というんでしょうか。「えっ! これは、まずいことになるな」というか。

S:世の中を本当に変えてしまうかもしれない?

伊藤:そうです。

S:勘違いや誤解を防ぎたいので、あえて尋ねるんですが、伊藤さんに他人を攻撃したり刺激したりするような意図はありますか?

伊藤:ありません。現在のディベロッパーは、不動産マーケットという鉱山の地表に出ている、わずか1%の土地だけでビジネスをしています。鉱山に眠る、その内側、下側でビジネスができることをいま、初めて我々は証明しているわけです。「見えなかった99%の部分で、ビジネスができるよね」と。巨大なマーケットにもなり得ます。そうした未来から現在を見れば、クラシックな不動産開発をしていたんだなというか。

伊藤:これまで私は「クラシックな不動産開発業」と少し、揶揄やゆしたようにも聞こえる表現をあえて使っていましたが、本当にクラシカル、今後はクラシックになってしまう気がします。いまの私たちからすると、朝露を飲むことは風情があって、クラシックなことですよね。昔は、それが水を飲むという行為そのものでした。それは蛇口ができたことによって初めてクラシックになる。同じです。『MINE(マイン)』ができたことによって初めて不動産開発業をクラシックにしてしまった、ということですよね。

S:アナログとの対比でもなく。

伊藤:「ディスラプトする」も、違うと思うんですよ。

S:破壊や崩壊、物事の秩序を混乱させるような意味合いで、ビジネスの世界では「ディスラプト」という表現が使われることがありますが、それも違うと。その感覚は伊藤さんの在りかたからして、とてもしっくりきます。背中を他人に預けたり、完全性ではなく全体性で物事を捉えたり。そうした世界観を持つ人から出てくるプロダクトの表現として、破壊というニュアンスには違和感を覚えていました。これを実は私、ずっと思っていたんです。伊藤さんの誤解や勘違いを減らしたいと思って、このプロジェクトを進める以前から。いま、その答え合わせができた気がしました。破壊や崩壊などの攻撃的な表現は、第3者に伝わりやすいですが、そうした意図を伊藤さんから、これまで感じたことはありません。伊藤さんから生まれる事業として、そうした表現は芯を食っていないというか。

伊藤:攻撃したい意図はゼロですね。

S:そのエッセンスってなんだろうと、ずっと考えていました。話を聴いて思ったのは、創造性というか、イノベーティブというか、そこへの純度の高さです。ただただ新しい何かを生み出す。それで既存のモノは古くなったり、最新ではなくなったりするけど、それは二元論の解釈です。二元論の世界観から伊藤さんが起こす事象を捉えると、それは無効化であったり、破壊であったりのように受け取ることもできて、伝わりやすいし理解されやすい。古くなるとは価値が変わることで、決して無価値になるわけではないし、先行する何かをおとしめるわけでもない。それは受け手によって解釈が変わるだけ。少なくとも発信する側のスタンス、伊藤さんの側に、そうした意図はない。そのエッセンスはプロダクトにも伝播、継承されているというか濃縮されているというか。伊藤さんのように、上手く言葉にならないんですが、クラシックにしてしまったという表現は、芯を食っていると思いました。

伊藤:ですよね。表現として、ディスラプトより正しい言いかたな気がしますね。

S:話していて思ったんですが、価値を変えてしまう怖さみたいなことなんでしょうか。さっきの畏怖いふの念です。不動産業界をクラシックにしてしまう怖さとは、どうなってしまうのか、わからない恐ろしさというか。いまあるものがクラシックになる怖さ、経験したことがないから想像できない。想像できない事態を起こしてしまうのではないか、という恐れです。価値が変わってしまい、それによる影響が及ぶ範囲を想像できない怖さ。クラシックになる過程、プロセスでは、物事の秩序を乱すような事態を招くかもしれない。それは目的ではなく結果でもなく、過程であり一過性の事象というか。伊藤さんの目的はイノベーションを起こすこと、その過程で既存の何かがクラシックになった、そういうことなんじゃないでしょうか。『MINE(マイン)』というテクノロジーが、それを生み出してしまった。クラシックにしてしまった、という過去形での表現も、伊藤さんからして「すでに、変えてしまった」と感じたわけですよね。それを今日、伊藤さんは言葉にした。マインによって何かが過去になり、これから新しい、現在が始まる。そのプロダクトの生みの親である伊藤さんでさえ、想像が及ばない未来がスタートする。今日は、その前夜ですよ。私は興奮していますね。話しながら鳥肌が収まりません。

伊藤:そうそう、そうですね。じゃあ、これで終わりにしましょうか。

(了)


【制作にあたり/エピソード14】
「今日の打ち合わせを切り上げましょう」という意味で「これで終わりにしましょうか」という言葉を伊藤嘉盛よしもりが使ったのは、後にも先にも、このときだけでした。トグルという物語を切り上げたり、区切ったり閉じたりするにあたっても相応しい表現だと感じています。

*     *     *

人生という物語は壮大で、年齢を重ねるごとに変化が訪れます。

たとえば、小学校から中学校へ進んだり、学校を卒業して企業に入ったり、故郷を離れて違う土地に移り住んだり、幼馴染と別れて新しい人と出会ったり、その人と親密になったり新しい家族に恵まれたり。悲しい別れも数多くあることと思います。それらの変化を人生の分岐点(エピソード)と考えたとき、いくつかの分岐点から構成される時間軸には、TVドラマにおける、”1シーズン”のような感覚があります。それは3か月にわたって週に1度、放送される全12話のドラマであり、物語です。そんなドラマを私は、これまで、ここで語ってきました。それが1つの節目を迎えました。ゼロイチの完了です。

ベンチャー界隈だと、何もないところから価値を生み出し、組織やサービスが大きくなるプロセスを数字に、たとえます。【0→1】【1→10】【10→100】などです。トグルにおける【0→1】、ゼロイチは、2024年1月時点で完了しています。ここでいうゼロイチとは何か。たとえば『MINE(マイン)』経由の用地取得があります。

本エピソードで紹介した技術のブレイクスルーにより、バラ色の未来が広がっているかと思いきや、現実は、そう甘くありません。『MINE(マイン)』経由による用地取得は、このあと1年近く難航するのです。いわゆる、ハイプサイクルにおける死の谷のように。

今回の技術によってブレイクスルーを起こした『MINE(マイン)』は、アーリーアダプターから関心を集めました。成功事例も多く生まれましたが、同じか、それ以上の失敗も積み上げることになります。マインに秘められた可能性は過度に注目を浴び、社内メンバーが増加。そのタイミングでマインのけん引役が代わり、一時的に開発用の売地を買うことができなくなります。回復の兆しとなったのは、2023年のトグル夏合宿でした。けん引役のマインドが変わり、アクションが大胆になるのです。勇気ある行動が次第に目立ち、マインによる用地取得が復活します。すでに安定期に入った2024年1月現在の仕入れペースは、毎月3件から4件です。

それは、ゼロイチの完了の1つでした。

ゼロイチの完了という事象があったとき「それが始まってから終わるまでの一連のプロセス」が存在することを伊藤嘉盛よしもりは、あるときに気が付きます。そのプロセスが動き出す前夜が、この日、2022年6月14日だったのではないだろうか。彼との日々を振り返って私は、そんなことを考えました。加えて、思いを馳せるのは、終わりと始まりを繰り返すことで動く、プロセスの存在です。それは事業であったり、社内の人間関係だったり、トグルという組織だったり、働くメンバーのマインドだったり。エピソード9『イノベーションを起こせない会社になったら、死ねばいい』から、よしもりさんの言葉を借りると、こうです。

「誤解を招くような物言いかもしれませんが、私は、役目を終えたら死んでもいいというか、死を否定すべきではないと思っています。そこから生まれるものもありますし」

これを繰り返しなら、伊藤嘉盛よしもりは進化、変容し、同じようにトグルという組織、事業も成長、進化しているのではないだろうか。死を『終わり』と考えるなら、何かが終わること、それが閉じること、失敗することには私が思っていた以上の意味があるように感じています。そうして意識が向かうのは、私『S』の役割の終わりです。

ゼロイチの完了には私の役割の完了、終わりも感じていました。自らの存在目的を私は「伊藤嘉盛よしもりへの共感を強いるのではなく、理解を妨げる何かを取り除きたい。それは誤解や勘違いを減らすことである」そう自覚してきました。その核心、コアに触れる感触がありながら「役割を果たした」という実感は、ずっと薄かったのです。次に紹介するエピローグに出合うまでは。

『トグルという物語』にシーズン1があるなら、それを締めくくり、新たなステージで躍動する2024年の彼らへのはなむけとして、本編の1年後にあたる2023年の伊藤嘉盛よしもりを最後に紹介し、物語に幕を下ろします。

(エピローグへ)

この記事が参加している募集

オープン社内報

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?