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メタ認知の副産物@トグルという物語/エピソード10


※前回のエピソードはコチラ

副産物は「ゼロの発見」なのではないか、という仮説

伊藤:たとえば、私がコンビニで買い物をするとして。ペットボトルを買うときは、こんな感じです。

僕という人間は
右手でペットボトルを持ち
左手でレジの画面をタッチし
右手のペットボトルをレジに置いて
スマホを取り出して――

伊藤:そうやって自らの行動を文章化、チャンク、かたまり、まとまりに、わけています。わけたら、それを脳に格納するイメージです。

S:一つの行動ごとに記憶するような感じですか?

伊藤:行動だけでなく感情においても、そうですね。「楽しかった」「うれしい」なども「なぜ僕は楽しかったんだろう」と、意識的に内省します。他の人よりも自覚、意識する場面が多いのかもしれません。自分が感じた怒りも「こういうときに人間は怒るのか」そうやって自分と対話するんです。当然、私にも無意識は、たくさんあります。ただ単に人よりも、それが顕在化することが多いのだろうなと思っています。

S:自分が怒ったときにも自分を客観視する?

伊藤:はい。「この体験の記憶を自分の脳は捏造ねつぞうしそう」「人間の脳は、とても、よくできているな」などと、考えてしまうんです。

S:好奇心なんですかね。ほとんどの人が通り過ぎてしまう出来事や感情に、伊藤さんは立ち止まることができる。人が気づきにくい部分をキャッチしやすい、みたいな特性でもあるのか。話を聴きながら思ったんですが、ゼロの発見が自らの強みであるという話にも、うなずける部分があります。

伊藤:表現が難しいんですが、自分の強みがもっとも発揮されるのは【0→1】になるであろう【0】を発見することなのではないかと思っています。ここに【0】がって、その空間を認識をする。認識によって発見された【0】があって【0→1】が起こるわけです。

カルチャーづくりのはじまり@トグルという物語/プロローグより抜粋

伊藤:そうかもしれないですね。

S:無意識が皆無ということは、ないにしても、そうやって日頃から自らを客観的に見る(メタ認知する)機会が多いということなんだ。

伊藤:私も話していて思ったんですが、アルゴリズムを見つけようとしているのかもしれません。

S:そうだと仮定すると、一日のあいだで脳を使っている時間が長そうですね。パソコンのCPUが動き続けると熱くなるみたいに、脳がカロリーを消費してしまうというか。素人である私の考えですが、脳というか、頭が疲れやすくないですか?

伊藤:すぐに眠くなります。

S:脳が休もうとしているのかな。情報過多で疲れる感覚なら私にも、なんとなく覚えがあります。電車の広告とか苦手です。

伊藤:それでいうと私は、自宅とオフィスのあいだで、必ず公園を通るようにしているんですが、それは情報を取得しすぎないための工夫の一つです。大げさにいえば、都会や電車のなかは広告だらけ、といった感覚があります。昼間なら都心のオフィス街は「ランチ〇〇〇〇円」といった広告で、あふれていますよね。それらは人間が関心を向けるように、ある程度、最適化された広告、看板です。それは私にとって、延々と営業行為を受け続けているような、それに似た徒労感があります。

S:自分の意識が一時的に奪われる。その連続であると、そういうことですか?

伊藤:それを避けるために「注意を向けないで済む行動をしよう」と意識します。その代表的な行動が、公園を通ること。これもそれも、さっきも言ったように私には、自分には壊れた部分があると思っているからであり、壊れた部分を持つ自分を認めつつ「それを活かすには」と考えた結果の数々です。でも本音を言えば、まだまだ自分を活用できていない気がしています。

S:なるほど...日常生活で脳を使うことに、かなり意識的なんですね。さらに話を聴いていて思ったんですが、この話は全体性のキーワードにも通じますね。

伊藤:ああ、たしかに。

S:受け取りかたによっては、伊藤さんの特性をネガティブな資質だと考える人が、いるかもしれません。でも本人に、その様子は、まったくない。「壊れた」と自身が思っている部分を一切、自分で否定していない。でも、肯定している、というのは少し違う。それよりは、ただただ、ありのままの自分を活かすことに集中しているというか。善し悪しの二元論で語らないことにも、全体性のキーワードを感じます。それをクレドにも入れ、トグルで大切にしたいと話す本人が、その体現者であるというか。組織は、経営者の考えかたが二年、三年という歳月をかけて、会社というカタチになるという伊藤さんの言葉に照らし合わせるなら、トグルのエッセンスとして全体性というキーワードは、その根底に流れる重要な思想、在りかたなのかもしれませんね。まだ、うまく言葉にならないんですが、少なくとも伊藤さんのアイデンティティ、核や芯の部分に触れた気がします。同時に、そうした世界観を持ちながら、戦場とも言えるビジネス領域で、ベンチャー企業の代表を務めるというのは、簡単なことではないとも感じます。

伊藤:私も話を聴いていて思ったんですが、私の仕事のやりかたというか、ビジネスに向き合うときの思想でもあるなと思いました。メタ認知(自分を客観視すること)をこころがけ、行動や感情をリアルタイムに、一つずつ認知していると、ある瞬間に気がつくことがあるんです。

S:ある瞬間とは?

伊藤:それを閾値しきいちと、私は呼んでいます。仕事をするとき、閾値しきいちという考えかたを私は大切にしていて、これは行動や感情を一塊ひとかたまりで記憶する私のクセ、特性とも関係しているなと。

伊藤:実は、さっきまで、社内で喧々諤々けんけんがくがくしていました。話の内容は、トグルの最重要課題の一つである、地権者への飛び込み営業についてです。私も飛び込み営業をしてきたところで。そこから戻ってきて、さっきまでメンバーとオフィスで議論していました。

S:議論で伊藤さんが気になったポイントは?

伊藤:飛び込み営業のオペレーションが甘い、という話をしていたんですが、言いたかったポイントは、仕事のやりかたについてです。

ここから話は、トグルの実務に移っていきます。

このとき、トグルの最重要課題の一つに、飛び込み営業のオペレーションがありました。

極めて専門性が高い不動産領域のビジネスにおいて、トグルの飛び込み営業は、ノンスキルによる営業活動を実現しています(2023年6月現在)。それはトグルの強みの一つです。これを可能にしている背景には、AIの存在があります。ChatGPTの登場により、表立ったAI闘争が、ビジネス領域で見られるようになる以前から、トグルは機械学習やディープラーニングの研究に力を注いできました。その一例が、一橋大学のソーシャル・データサイエンス教育研究推進センターとの共同プロジェクトです(2022年10月時点)。

ベンチャー企業が、なぜ大学と共同研究をするのか。それは、伊藤嘉盛よしもりがビッグデータや人工知能に、可能性を見出しているからです。その成果を業界や、社会全体へ実装することに、彼は真剣です。だから、研究機関への資金提供にも協力してきました。トグルにとって極めて高い関心事の一つが、AIなのです。そして、AIで伊藤嘉盛よしもりを語るとき、欠かせない概念に、閾値しきいちがあります。

(つづく、エピソード11へ)


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