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社歌に込められた思い@トグルという物語/エピソード2

トグルホールディングス株式会社

前回から、今回までのあらすじ】

伊藤嘉盛よしもりの考えや哲学を私『S』が発信するとして、それを私は、なぜやるのか。その輪郭を少し、彼とのダイアログで私は見ることができました。見えた輪郭から具体的な像をあぶり出すために、私が頼ったのは本と映画でした。「そこからインスピレーションを得よう」「そのための時間に年末年始を当てよう」そう考えて本を買い込みます。選んだ映画は、名作とされるタイトルです。語り継がれている、”不朽の名作”を見ました。そうして年が明け、私の頭に浮かんだアイデアを相談しようとした矢先、伊藤嘉盛よしもりのほうから連絡がありました。次のようなメッセージです。

「面白い企画が浮かんだので電話で少し話せませんか? 今日10分くらい空いてる時間あれば教えて下さい!」

2022年が明けて10日ほどが過ぎたタイミングで、外は雨です。急な話に、私は不意を突かれます。もっと予想外だったのは彼の企画です。伊藤嘉盛よしもりは電話で開口一番、私に告げました。

「社歌をつくろうと思っていて。音楽を消費することから使うことへ、というキーワードです。”乗りやすい”というか、咀嚼そしゃくしやすい形で音楽を届ければ、みんなが自ずと使ってくれるんじゃないかと思うんです」

このアイデアは数か月後に、プロの作曲家によって『ゼロイチの前夜』という曲になりました。ジャケットの画もプロの絵師によるものです。

「音楽を消費することから使うことへ」「みんなが咀嚼そしゃくしやすい形で音楽を届ける」とは、どういうことか。そもそも、なぜ社歌なのか。それらに込められた伊藤嘉盛よしもりの思いを伝えます。それは同時に彼の哲学を知ることでもあります。哲学は、企業カルチャーをつくること、株式会社という器の在りかたなどへも及びました。

社会派リアリティ・ヒューマン・ドラマ『トグル』の本編、エピソード2をお楽しみください。

カルチャーづくりに成功した集団が共通して持つ、三種の神器

伊藤:社歌をつくろうと思っていて。音楽を消費することから使うことへ、というキーワードです。”乗りやすい”というか、咀嚼そしゃくしやすい形で音楽を届ければ、みんなが自ずと使ってくれるんじゃないかと思うんです。

S:みんな、とは?

伊藤:トグルのメンバーもそうですが、トグルとは、まったく関係ない高校生とかも。

S:トグルメンバーだけではなく、無関係な一般の人、ということですか?

伊藤:たとえば、高校生がTikTokで私たちの社歌を使ったとしても、それはそれで、”いまふう”で面白いと思うんです。

S:くちずさむ、みたいな?

伊藤:そうそう。それで相談なんですが以前お伝えした、トグルの行動指針がありますよね。あれを文章化してほしいのです。

このときには、”行動指針”という言葉を使っていますが、2022年7月時点では、”バリュー”と表現されています。以下、トグルの12のバリューです。

1、徹底的に科学する、徹底的に行動する
2、泥まみれになる
3、旗を立てる
4、経験を組織の知恵にする
5、正々堂々とする
6、時間を短縮する
7、費用を倹約する
8、自己定義を刷新する
9、厳選した採用と成長する環境をつくる
10、ハードルを上げる
11、異議あり。よし、やろう
12、全体性を大切にする

伊藤:たとえば、一つひとつをインタビューするとか、会社(トグル)をなぜ設立したかとか。どういう会社にしたいか、などなど。それらをある程度の文章にすれば、そこからラップ調の歌詞にしてくれるそうです。

S:誰が?

伊藤:プロの音楽家です。

S:ある程度の文章からラップ調の歌詞にしてくれる、とは? 

伊藤:YOASOBI というアーティストの曲に『夜に駆ける』があります。ご存じですか。

S:知ってます。アニメーションのミュージックビデオを見たこともあります。

伊藤:あの曲に、元となる小説があることは?

S:知りません、はじめて聞きました。

伊藤:『タナトスの誘惑』という小説です。インターネットで公開されています。そのURLをいま送ります。

伊藤:ちょっと読んでみてください。

S:(インターネット経由で送られてきたURLをクリック)いま、見ています。吹き出しもあって会話もあり、短い物語なんですね。

伊藤:そうなんですよ。『タナトスの誘惑』を読むと「『夜に駆ける』の歌詞は男性側のセリフと女性側のセリフで、わかれているんだ」などがわかります。小説を元にした曲である、という仕掛けになっています。

S:行動指針を使った物語風の文章をつくりたい、そういうことですか?

伊藤:たとえば、行動指針を少し掘った話や『十二あるうちの、とくに大事な三つについて』などをテーマにインタビューした話とか。すでに作曲家とは会話していて「曲や歌詞を書くうえでの情報は、すでに充分です」と言われています。むしろ、通常のオーダーに比べて情報量は多いくらいだと。

S:『夜に駆ける』における『タナトスの誘惑』のようなトグル版の小説を書いてほしい?

伊藤:小説という体裁、枠にとらわれず、行動指針などの情報から「トグルは何を一番、伝えたいか」というストーリーを用意したいんです。

S:制作の材料にしたいので、今回の社歌プロジェクトの全体像というか。その狙いなどをもう少し聞かせてもらえませんか?

伊藤:わかりました。これは仮説の段階ですが社歌は、カルチャーを組織に浸透させる材料の一つになり得るのではと考えています。私は、事業なら現場に飛び込むことを大切にしてます。言い換えれば『まずは、なんでも、やってみる』タイプです。

S:社歌を思いついたので、まずは、やってみる。そういうストレートな話ですか?

伊藤:単純化すれば、そうなります。

S:社歌が『カルチャーを組織に浸透させる材料』とは?

伊藤:私は、会社をつくるのはトグルで四度目で、四回目の起業です。そのうちの2社は売却しました。その陰、光が当たらないところでの失敗は数え切れません。数え切れない失敗から学び、それが事業成功のわだちになっています。これまでの起業を振り返ると、会社の文化づくりに成功したとは、いえません。正確にいえば、文化づくりに着手することすら、していなかった。この反省・失敗から、その重要性を学びました。四度目の起業となるトグルに、コンセプトとしてあるのは『文化面の設計からはじめる』ということ。その起源をさかのぼり、人類史のなかから『文化の醸成や浸透に成功した集団』を探しました。いくつか事例を見つけ、さらに探したのは、そのグループに共通している要素です。それで、わかったことがあります。人が集まって集団を形成し、そこに文化が浸透するとき、歌、マーク(印)、本の三つは必ず存在してきました。とくに『歌』は、3万年以上前から存在しているという話もあります。

S:3万年も前から現代まで受け継がれる歌というものに、可能性を感じるわけですね。

伊藤:それでいうと、忘れられない映画の1シーンがあります。アメリカの歴史を描いた映画です。映画の主人公たちは劣悪な労働環境で働くことを強いられていました。私が目を奪われたのは、朝から晩まで重労働を課せられ、虐げられるシーンの数々です。なかでも、過酷な農作業に『人生の絶望』を感じるなか、彼らがブルースを歌っているシーンは、私のなかに鮮明な記憶として残っています。

伊藤:映画の主人公を”マイノリティ”と捉えたとき、私自身も、トグルという会社も、彼らと重なる部分が私のなかにあります。事業において、私たちの毎日の一つひとつの仕事は、つらいことが多いものです。経営者には経営者の、実務家には実務家の、”つらさ”というのが、一人ひとりに必ずある。そういうときに、みんなで一緒になって歌えるような、みんなの心の支えになるような歌があればいいなと思いました。役職や立場を越え、一人ひとりが、”マイノリティ”として集まり、ともに歌えるような。社歌プロジェクトには、そうした私の思いがあります。私を含めたトグルメンバーの全員が事業において虐げられたとき、全員で一緒になって逆境を乗り越えたい。そんなときに一緒に唱えることができる言葉があれば、という思いがあるんです。

S:それを社歌に込めたい?

伊藤:込めたいですね。繰り返しますが、これまでの事業において、私は企業文化をうまくつくることができなかった。その反省から学んだのは、言葉の重要性です。

S:重要性とは?

伊藤:どういう言葉で組織を設計すれば、よいだろうか。どうすれば100年にわたって続くような会社になるか。そういう問いと向き合っています。

S:会社を100年、続けたいんですか?

伊藤:100年とは、つまり、”永遠に”ということです。

S:永遠に会社を続けたいのは、なぜ?

伊藤:私がいなくなっても自動的に、なんだろうな。イノベーションが起きて、それが世の中で、できなかったことができるようになって。そういう会社ができれば、――。永久機関をご存じですか?

S:いえ、教えてください。

伊藤:コンセプトだけがあって、実際の物は存在しません。永久機関とはピンポン玉、ビー玉、パチンコ玉など、なんでもよいんですが、それが永遠に動き続けるような仕掛け、仕組みのことです。コンセプトとして、そういうイメージがあるんですよ。エネルギーの法則に反して永久に、鉄の玉が動き続けるとか。ピタゴラスイッチみたいな仕掛けが永久に動くというコンセプトを永久機関と呼びます。それをトグルのカルチャーづくりにおいて、イメージしています。会社、組織は絶対に廃れ、事業にも寿命があると思っています。同時に、私の頭にあるのは「言葉で組織をデザインすることで、廃れないような会社をつくることはできないだろうか」「永久に活動し続け、イノベーションを起こし続け、世の中で、できなかったことをできるようにする会社というものを設計できないか」という問いです。その問いから、トグルの行動指針を設計しました。

S:永久機関のイメージですが『水を貯めて流して』を繰り返すような、コツンと音が鳴る、”ししおどし”みたいなものですか?

伊藤:近いです。エネルギー保存の法則に反して永久に動き続ける、ポンプなしの、ししおどしですかね。

S:自分がいなくなっても組織が動く、みたいな話はITANDI(前の会社)の代表をしていたときにも伊藤さんから聞いたことがあります。もしかして、ずっと大事にしている価値観なんですか?

伊藤:あまり言葉にはしていませんが、私は大切にしています。自分が「どうにかなりたい」とは、あまり思っていません。誤解を恐れずにいうと興味本位・好奇心で私は会社をやっています。

S:そこに伊藤さんの一番の関心があるんですか?

伊藤:そうですね……。そう問われて「いいえ」と答えれば噓になりますね。

S:極端な話をします。いま開発しているサービス『MINE』が事業として成り立たなかったとします。しかし、別なサービスが立ち上がり、それが、”会社が永久に続く手段”であるなら、まったく気になりませんか?

伊藤:なりません。

2022年7月時点で、すでにトグルは、”最初”のブレイクスルーを起こしました。いまから半年以上前に、軽い気持ちで話していた、”夢物語”が現実となったのです。いずれ、そのエピソードもお伝えします。とくにMINE事業は、トグルメンバーの粘りと活躍によって、伊藤嘉盛よしもりの当初の予想を大きく超える成果を挙げました。

この日の電話は、伊藤嘉盛よしもりがトグルを通じておこしたい事業への思い、彼自身の哲学の話に移っていきます。

伊藤:そもそも、一つの事業の寿命は5年から10年と考えています。「世の中を変えうる、永久に動く、”ししおどし”のような会社をつくりたい」となれば、新規事業は一定の期間で必要になります。会社のビジョンに『イノベーションに熱狂する事業家集団』を掲げているのは、そのためです。

S:そうした組織をつくることが『令和版・新しい企業の在りかた』なのかもしれないですね。少なくとも、それをトグルで実現させたいという思いが伊藤さんにはある。トグルという会社で、いまは『MINE』を通じ、そのための、”スイッチ”を入れたいわけですね。

伊藤:私からすると本来、会社とは、そうあるべきなのかなとも思いますけどね。

S:そうあるべき、とは?

伊藤:うーん…...。ししおどしを例に挙げます。”創業者”がいて、その人が、ししおどしの水を出し入れして動かすというのは、私には違和感があります。それよりも誰が、つくったのかがわからず、水を出し入れする人もいないのに水が流れ、ししおどしの周りに人が集まり、その人たちの心の癒しになったり、ししおどしとしての役割を果たしたりするような世界観を目指したい。そのほうがいいなと私は思っています。株式会社は法人です。法人とは、法”人格”があるわけです。人格なので、私は会社や組織を人と同じように捉えています。

S:人と同じように、とは?

伊藤:人は、一人の人間として自律・駆動しているほうが魅力的だなと私は思うんです。それは会社も同じ。環境や人、創業者に依存せず、自律して活躍する法人が魅力的だなと思うんです。そう思いませんか?

S:思います。そういう法人を目指そうとしたとき、伊藤さんがベンチマークしたり、ロールモデルにしたりしている対象はありますか?

伊藤:それでいえば、DAO(ダオ)ですね。

DAOとは、日本語では一般に、分散自律組織と訳されます。既存組織との違いとして、マネージャーや社長といった管理者が不在で、その役割をプログラムが担っていること。雇用(主従)関係はなく、トークンやプロトコルによる(相互)関係であること(※誰もがトークンを持つことで運営に参加できる組織)。ヒエラルキー構造などに代表される垂直的な関係性ではなく、フラットで水平方向の関係性であること。報酬は、株主や地主に代表されるような個人が独占せず、分散的であり、その機会が開かれていること。そうした点を『DAOと従来の組織の違い』として挙げることができます。Decentralized Autonomous Organizationの頭文字をとった通称。

出典◆https://blog.bybit.com/ja-JP/post/about-dao-jp-bltb7e44b9385d27511/

伊藤:自律分散的な商取引というか。発想や思想として、かなりDAOに近いですね。

S:たとえば、”DAO版・トグル事業”があったとしたら、どんなイメージですか?

伊藤:まず、すべてがスマートコントラクトといわれるブロックチェーン技術を利用した商取引になっています。不動産開発で説明すると、誰かが「不動産を買いたい」と意思表示したとします。たとえば「1億円でマンションを買いたい」という投資家がいたら、プログラムによって割り出されるのは、いくらで土地を買えばいいかです。「5,000万円ですね」となれば「建物は5,000万円で建てましょう」となる。実際には手数料などの細かい話がありますが、ここでは話を単純化して説明します。5,000万円で土地を仕入れる必要があるので、再び、プログラムの登場です。Uber Eatsのデリバーのような役割の人に、プログラムを介し、自動で「5,000万円の土地を仕入れてください」という指令(注文)が届きます。Uber Eatsのデリバーのような人なのか、飛び込み営業の専門スタッフなのかは、わかりませんが、そうした役割を担う人が担当すると。その人たちが「土地を買うことができました」となれば、プログラムを介して設計事務所へ自動的に契約が移行します。契約は、ほかにも建築会社やゼネコンなどへと続くわけです。契約が終わり、設計ができて、工事がはじまり、建物が建つ。完成したら投資家のもとに通知が届きます。

お待たせ致しました。
ご注文の商品『1億円のマンション』が
ご用意できました。

S:去年、再会したときに伊藤さんが話していた『主体がない不動産開発』の話と似ていますね(※プロローグより)。

伊藤:そうですそうです。あのときお話したアイデアは、DAOに極めて近いイメージでした。人が介在しないというか、すべてが事前に決められた設計や契約にもとづいて、物や財が動く。ブロックチェーンもそうです。中央集権的な管理者がいません。

S:管理者はいないけど、組織としては成立している。そういうイメージですか?

伊藤:はい。

S:管理を排除したいのは、なぜですか?

伊藤:なぜ、なんですかね笑。だた、思うことは、たとえば管理といえば『中央集権的』で、中央集権的といえば代表的なのは国家ですよね。でも国家にしても、その仕組みは誕生してから300年、400年ほどしか、たっていません。人類の歴史からすると、わずかな時間です。わずかな時間でしか運用されていない仕組みが絶対に正しくて、永遠に存在しつづけると考えるほうが不自然ではないか。そう感じます。私たちが生きているあいだに起こるかは、わからないですが、ブロックチェーン技術によって、いまの国家の在りかたが古いものになり、国家に代替する非中央集権的な集団形成の新しい仕組みが生まれるかもしれないですよね。

S:管理されることに違和感があるのは昔から?

伊藤:うーん……覚えてないです。でも、小さいころから永久機関的なコンセプトが好きでした。

S:たとえば?

伊藤:川辺で、”土を掘る遊び”をしました。土を掘って川の水を流し入れ、違う場所にもっと深く掘ったダムをつくって、そこへ水を流す。そういう穴掘りみたいなことをずっと、やってましたね。あとは、ミニ四駆。遊んだことありますか?

※写真はミニ四駆のイメージです。

S:あります。電池で動く小型の自動車模型ですよね。小さいドリルで車のボディに穴を空けて軽量化した思い出があります。

伊藤:私は、ミニ四駆用のコースをつくりました。カスタマイズ&チューニングして、2台のミニ四駆を同時に走らせ、ぶつかることなく走り続けるよう設計する。そこをミニ四駆が永遠に、グルグル走っているさまを見て、とても満たされた気分だったことを覚えています。

S:そういう仕組みを自分の手で創造したことへの喜びですか?

伊藤:子どものころの記憶なので、ハッキリとはわかりません。なんでしょうね。そういう『永遠に続く』みたいなものに、幼いころから興味があったんじゃないでしょうか。

S:普遍性とか?

伊藤:すべての人が興味を持つことかと思ってましたが、もしかして私だけなんですかね。

S:わかりません。少なくとも、私には似た思い出があります。子どものころ、砂場で穴を掘ったり砂を盛ったりして、水を流す。そんな経験です。

「いくらですか」用地取得における新セオリーは、これまでの非常識

伊藤:そういうの、なんでしょうね…。一人の人間の可能性を極大化したいというか、最大化させたいなどの願望なんでしょうか。

S:極大化の手段は、事業であり会社ということですかね。少し話題が変わりますが、たとえば、マネーゲームへの関心はどうですか?

伊藤:「マネーゲームに徹する」というより「規模は10分の1でもいいから、手触り感のある成長」に興味があるんですよね。

S:手触り感ですか。伊藤さんにとって、”成長”のイメージは?

伊藤:私にとって成長は実験、ラボ、研究室に近い発想です。「より、大きな研究ができる」「大規模な実験ができる」など。お金があって、はじめて実践できる実験というのは、あると思うんですよね。

S:たとえば?

伊藤:ITANDIを売却し、まとまったお金が入って、いまトグルという会社の事業で地上げをやっています。そこで前よりも「大きくなったな」と、”成長”を感じるのは、数千万円もする地図データをすぐに意思決定して購入し、人を採用し、一気に検証できていることです。地図を使ったMINE事業で「立てた仮説の通りに地上げをすることができるか」の検証ができました。その事実に「以前よりも成長したな」と思います。実験の規模が大きくなったという認識です。

S:理科の研究室から、専門の研究所を手に入れたような?

伊藤:そうですね。エクセルで頑張っていた日常にAIが現れ、AIを使っていくうちに計算容量が足らなくなって、それを増やすためにスーパーコンピュータを導入するというか。そこに「成長しているな」という実感があります。質の成長なんでしょうね。量の成長というよりは。量が複利的に増えていくことよりも、できなかったことをできるようにすることに興味・関心があります。

S:『質=実験施設の規模』という意味では、今後は「宇宙をテーマにしたような事業をやってみたい」そんなイメージですか?

伊藤:現時点では宇宙などは、まったく考えていませんが極端にいえば、そういうことですね。私が事業をするベースにあるのは、好奇心なので。

S:トグルのプロダクトや目指す世界観を詳しく知ると、いつも、ワクワクします。その理由が腑に落ちました。すべての根底に好奇心があるからですね。

伊藤:話を単純化して一つの側面から見れば、千人でやっていたことを一人で、できるようになったほうが私からすると「成長したな」という実感が湧きます。システムをつくり、それを使うことで「千人でやっていたことを一人で、できるようになった」などです。そのほうが「めちゃくちゃ成長したな」「達成したな」という手応えを得られます。

S:現時点のトグルの手応えは?

伊藤:手前みそですが、かなり好調ですね。とくに『MINE事業』です。まさか、ここまで事業検証がうまくいくとは――。

S:――思っていなかった?

伊藤:半信半疑でした。もっとも大きな学びとして、アンラーニングの必要性がありました。学び忘れをし、新しく学び直す必要があるなと。

S:たとえば?

伊藤:不動産開発事業においての常識とは「用地取得は極めて難しく、営業活動もめちゃくちゃ大変」というものでした。それを経験した大手デベロッパー出身の、トグルメンバーもいます。実際に彼らも同じ意見でした。でしたが、いま(2022年1月時点)のトグルがやっている営業活動では次の三つしか伝えてません。

「土地を買わせてください」

「値段だけでも出させてください」

「おいくらでしょうか」

伊藤:インターホン越しに、その三つしか伝えていないんです。

S:営業活動とは?

伊藤:地権者への飛び込み営業です。

S:なぜ、その三つなんですか?

伊藤:用地取得のための飛び込み営業は一般に、1年から2年くらいの期間にわたって訪問することを前提に、そのトークスクリプトを考えます。初回の訪問なら「不動産業をしております、伊藤嘉盛よしもりと申します。本日は顔だけでも覚えていただきたく訪問しました」そんな会話を想定した、ロールプレイングをするものです。それは、不動産開発事業における用地取得の常識とされてきました。しかし、もっと効果的な手段があることを見つけたんです。それが、先ほどのやりかたです。三つのセリフを伝えることで、まったく想定していなかった返事を地権者から、もらうことができました。

S:どんな返事ですか?

伊藤:「まあ、値段を出してくれたら検討するよ」です。初回訪問を想定した、従来のようなトークスクリプトは不要であることが、わかりました。

S:どうしてわかったんですか?

伊藤:検証を重ねた結果の産物ですが、定説や常識にとらわれないことを大切にしたのが大きかったですね。私たちの飛び込み営業メンバーは、業界未経験者です。不動産の専門知識を持たないチームです。彼らは不動産にまつわる話をすることができません。できないので、不動産の話をせず、地権者と話を進めるにはどうしたらよいか。そこを徹底的に追究、検証しました。たどり着いたのは『伝えたいことをストレートに伝える』という営業です。

S:『伝えたいこと』とは、先の三つ?

伊藤:そうです。その三つは、従来の『用地を取得するための飛び込み営業』において、非常識なアプローチです。ですが、私たちが試したところ、思いのほか地権者から反応がありました。年明けからの1週間だけで3件、4件の反応です。

S:反応とは?

伊藤:前向きな会話ができそうな地権者さんのリアクション、ということです。

S:1週間で3件、4件の反応とは、よい数字なんですか?

伊藤:よい、どころではありません。驚くべき数字です。トグルには、大手不動産ディベロッパーで、実際に用地取得を経験してきたメンバーがいます。彼の知識をもとに、10名体制でトグルは飛び込み営業をスタートさせました(2022年1月時点)。彼へ私は聞きました。

「成果が出る時期は、いつくらいだと思う?」

伊藤:彼の意見はこうです。

「少なくとも3か月は坊主(0件)を覚悟しておいたほうが、よいと思います。よくて、年内に2件の成果が挙がればいいんじゃないですかね」

S:2件の成果、とは?

伊藤:2件の土地を買うことができる、です。

S:10名体制の飛び込み営業を1年続けて2件の成果が出ればよいだろうという、経験者の見立てなんですね。

伊藤:でも、はじめてみたら、もはや買えそうな案件(土地)が3件、4件くらいあるという状況です。

実際にトグルは、そのうちの2件を買うことに成功しました。2022年6月時点の出来事です。10名体制の飛び込み営業を1年にわたって続け、成果は2件くらいだろうという予測は、よい意味で大きくハズレました。その予兆を「もはや買えそうな案件(土地)が3件、4件くらいある」という事実から、このときの伊藤嘉盛よしもりは掴んでいたのでした。飛び込み営業を本格化させて、わずか1週間ほどの出来事です。

S:大手不動産ディベロッパー出身の人の反応は?

伊藤:反省の言葉を口にしていました。学び忘れ、アンラーニングの必要性を痛感していたようです。「学んだことを忘れないといけない」そう話してました。

S:『年間2件くらいの成果が出れば』そう考え、飛び込み営業をスタートさせた。スタートした1週間で、その成果が見込めそうだ。それを感じると?

伊藤:そうです。

S:滑り出しは極めて順調ですね。

伊藤:テクノロジーの効果も欠かせませんでした。

S:テクノロジーとは?

伊藤:リストです。トグルでは、飛び込み営業をするための該当地をテクノロジーで割り出しています。まだ不完全ではありますが、それによって効率的に飛び込み営業ができています。

S:何が、まだ不完全なんですか?

伊藤:精度です。テクノロジーによるリストの精度を高めることができれば、”反応”を得ることができる確率はもっと高まります。トークの内容だけではなく、テクノロジーも効いているということです。これが私がいう行動指針の『徹底的に科学して、徹底的に行動する』なんですよね。

S:もう少し解説をお願いします。

伊藤:前提が、ないじゃないですか。思い込みを捨て、やってみることの重要性です。「用地取得の飛び込み営業には最低でも1年から2年くらいの訪問が必要」「用地取得は極めて難しく、営業活動もめちゃくちゃ大変」そう思われていた不動産業界の定説をトグルは、ひっくり返したわけです。大手不動産ディベロッパー出身のメンバーは飛び込み営業について、こうも話していました。

「絶対に、してはいけないのは値段の話です」

伊藤:価格の話を最初にしてはダメだというわけです。値段の話をして断られたらオシマイだと。「いきなり、そんな失礼なことをしてはいけない」「値段の話はするな」というのが常識でした。

「たくさん失敗しよう」「なんでもやってみよう」メッセージに込められた哲学の原体験

S:トグルの場合まったく逆ですね。あえて、”逆”を試したんですか?

伊藤:”逆”というよりは『ゼロベース』ですね。世の中に広まる定説や「これが常識だ」という固定観念などを排除し、ゼロベースで実験するスタンスをもっとも大切にしています。こういう発想がないと「絶対に値段の話をしない」という常識に従った営業活動になり、10名の営業メンバー全員が値段の話をせず、私たちは1年から2年の期間にわたって訪問営業をすることを繰り返していたと思うんですよ。だけど私は「たくさん失敗しよう」と声をかけました。メンバーには「なんでもやってみよう」と話しています。

S:定説があるだけでなく、それを仕事で経験しているトグルメンバーにとって、常識は説得力を持った成功体験ですよね。その体験に、本人を含めて周りも、無条件に従うことをしなかった。簡単なことではないように感じます。今回の出来事は、今後のトグルにも大きく影響しそうですね。今回の話は、いつか必ず、トグルメンバーに伝えたいな。

伊藤:今回の件を実際に目撃したメンバーは、もしかしたら価値観が変わるかもしれません。それが、”いいことだな”と思うんですよね。

「テクノロジーを使ったら、ノンスキルで地上げをすることができるのかも」

伊藤:『地上げ』は参入障壁が極めて高いと思われていた領域です。大手ディベロッパー出身のメンバーは「無理なんじゃないかな」「いやー、ちょっと厳しいと思うよ」そう話していました。話しながら「でも伊藤さんが主張するから、やってみないと、わからないですけどね」と。そうやって言葉にしてみた、というくらいで。

S:自分の成功体験よりも伊藤さんの言葉に、”乗った”? 

伊藤:そうでなければ、そもそも、この会社にいる必要がなくなってしまうじゃないですか。

S:「伊藤さんが、そこまで主張するなら、やってみよう」と?

伊藤:とりあえず「やってみよう」と口にしてみた。という状態だったんじゃないでしょうか。それが現実となった。不動産業界出身のメンバーからすると「マジかよ」と。

「世の中、もしかして本当は常識とは違う、”真実”が隠れているのか」

「それを探しに行って見つけることができる瞬間って、本当にあるんだ」

伊藤:それらをはじめてトグルメンバーは体験していると思うんです。いままで「これが常識だから」そう教えられていた業務があって、それとは真逆の仕事をトグルでしたら、想像以上の成果が出たと。この現実を目の当たりにして違和感というか――。各々のなかで、成長のブレイクスルーに、つながるような違和感を覚えているんじゃないかと思います。

S:想像以上の出来事に、現実を受け入れることが、できていないのでは?

伊藤:いや。あまりにも地権者から反応があるので、メンバーも自分の目の前の現実を受け入れざるを得ないはずです。でもそれは、その人の人生において、プラスの体験になるんじゃないかなと思うんです。今回のような出来事を自分の目で見て体験したことがあるのと、ないのとでは全然、人生や物事への前向きさが違うというか。

S:前提を疑ってかかるというか、常識にしばられない癖だったり、マインドだったりを持つことができそう?

伊藤:そういう人が増えたらいいなと私は思うんです。

「もしかしたら真実は違うところに、あるんじゃないか」

伊藤:そんなふうに思える人が増えたらいいなと。それはトグルメンバーに限らずです。たぶん、みんなが思っているように世界は、できていないと私は思うので。

S:そういう人を増やしたいのは、なぜ?

伊藤:うーん......。さっきの話じゃないですが、人の可能性を極大化したいんですかね。

S:現代人は、”何か”に自分の可能性が制限されていると感じる。そういうことですか?

伊藤:そういう意味では、先ほども話したように、”大きい組織”などの、多くの人が無条件に信じているものを私は、あまり信じていないですね。

S:それは子供のころから?

伊藤:そうですね。ことわざに「長い物には巻かれろ」がありますが、そうしたことを親から教わったことが一度もありません。

S:覚えている『教え』は、ありますか?

伊藤:『自分の頭で考えろ』ですかね。幼いころの話です。父親にスキーへ連れて行ってもらったことがあります。はじめてのスキーでしたが、少しだけ滑ることが、できるようになって。でも滑りかたは、インストラクターに教わるわけでもなく、父親から丁寧に手ほどきを受けるわけでもなく。背中を押されて滑る、みたいな程度です。それが少し、できるようになったら「よし、行くぞ」と。そのエリアで一番、難しいとされるゲレンデがある山に来ていたんですが、その山にある上級者コースに連れて行かれました。そこで父が一言。

「これがスキーだ」

S:どう思いました?

伊藤:怖かったです。

S:滑れた?

伊藤:滑れました。でも骨折しました。レスキュー隊に助けられたのを覚えています。本来なら子供なんだから初心者コースとか、なんだったら子ども用コースもあって。いきなり上級者コースに連れていく前に、そういうコースで経験を積むという発想もあると思うんですよ。階段をあがるようにとか。

S:ステップアップ?

伊藤:そう。振り返ると父親には、ステップアップみたいな発想が、まったくありませんでした。「一番上から行け」「一番上を知っていることが、すべての解決方法だ」そういう教育を私は受けてきました。

S:原体験ともいえる、伊藤さんの哲学の一端を象徴するエピソードですね。

伊藤:こんな感じで、大丈夫そうですかね。社歌プロジェクトにまつわる制作の材料というか、イメージは湧きそうですか?

S:大丈夫です。だいぶイメージが湧きました。ありがとうございます。

(つづく/エピソード3へ)


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