見出し画像

文化的に後戻りできない組織をつくったのは私@トグルという物語/エピソード6

前回から、今回までのあらすじ】

社内外にトグルのファンを作ることを目的に、私『S』は、伊藤嘉盛よしもりのビジネス哲学を言語化することを目指しました。

社内で起きていることを彼は、どう見ているのか。その出来事から何を感じているのか。それらを言葉にしてもらうために繰り返したのが、内省と対話です。何度も重ねるたびに、次から次へと彼が大切にしている価値観、ビジネス哲学が言語化されていきました。

  • 一緒に働くメンバーへの思い

  • 業界や社会への願い

  • 理想とする組織像

  • 仕事に取り組むときのポイント

そうした話を聴くたび、社内で起こる問題と向き合う伊藤嘉盛よしもりの姿勢を見るたび、私の中で強くなっていったのは「彼への誤解や勘違いを少しでも減らしたい」「彼への共感を強いるのではなく、理解を妨げるバイアスを一つでも取り除きたい」そんな思いでした。同時に感じたのは、なぜ誤解や勘違いが生まれるのか、ということ。その原因の一つに、今回のエピソードから複数回にわたって迫ります。テーマは過去です。

本企画のプロローグで彼は次のように話しました。

「以前の会社でうまくできなかったこと「失敗したな」と考えていることの一つに、文化醸成があります。 (中略) 自分の考えや思想、哲学を社内外に伝播することです。文化と呼べる何かが、以前の会社にも存在していたように感じますが「それは、あなたの考えや思想を本当に反映していましたか」そう問われると、答えはNOです。それをやるために必要なことをやりきることが、当時の自分には、うまくできませんでした。それは基本的に今も同じであると認識しています」

失敗だと感じた彼の経験が、企業文化を作りたいという思いの原動力になっています。どんな失敗であり、そこから彼は何を学んだのか。

社会派リアリティ・ヒューマン・ドラマ『トグル』の本編、エピソード6です。ご覧ください。

イタンジ売却劇の舞台裏で伊藤嘉盛よしもりが気づいた失敗

S:伊藤さんのビジネス哲学を言語化するために、今日まで何度も対話や内省を繰り返してきました。そのすべてを公開することが難しく、言葉として何を記述することが、伊藤さん(トグル)への誤解や勘違いを減らすことにつながるか。それをずっと考えています。考えて気が付いたのは、一つ、ハッキリしないことがあるということです。それを明らかにすることで、目的に近づける気がしています。それは、再会したときに話していた、以前の会社の失敗についてです。今日はそこを掘り下げたいんですが、よいでしょうか。

伊藤:わかりました。以前の会社の失敗とは、どんな話の流れでしたか?

S:会社の文化を作ることについてです。それをうまくできなかったと。それは、イタンジのことですか?

伊藤:はい。

S:その当時のことをもう少し教えてください。

伊藤:わかりました。お話しする前に、大事な前提が二つあります。一つは、これから話す内容は現在のイタンジとは関係のない話であるということです。あくまでも過去の状態に対して私が感じた個人的な感情であることをご了承ください。

S:わかりました。二つ目は?

伊藤:失敗という言葉についても、私が「経営者として失敗した」と反省しているだけで、イタンジが失敗したわけではないということです。そこもご理解いただければと思います。

S:伊藤さんの個人的な内省ということですね。承知しました。

伊藤:ちょうど私が、イタンジの株をVCから買い取ったあとの話です。当時、私を含めボードメンバーは4名いましたが、うち2名がイタンジを辞めると話していて。もう一人は「ちょっと私には、わからないです」と。続けますともやりますとも明言していない状況です。つまりは、ほぼすべてのボードメンバーがイタンジから離れると、そう発言しているようなタイミングがありました。

S:時期としては、いつくらい?

伊藤:イタンジを売却する半年から1年くらい前でした。

S:自社株を買い取ったあとに幹部(ボードメンバー)がイタンジを去ろうとしていた?

伊藤:もう少し正確に言えば、買い取りのプロジェクトが終わったときです。

S:状況としては、根幹となる社員が全員イタンジから、いなくなるほうへ向かっていた?

伊藤:組織としては崩壊へ向うリスクを抱えていたというか。事業を継続するのも難しそうな事態でした。

S:幹部(ボードメンバー)の人たちとの話し合いは、どうなったんですか?

伊藤:そこは、そうですね。関係者には立場や面子があります。この話がイタンジの現社員に届く可能性もあります。そこに配慮して、具体的なやり取りは遠慮させてください。

S:わかりました。では状況だけでも、少し教えてもらえませんか?

伊藤:当時、私を含めたボードメンバーは、ボロボロの状態でした。いつ誰が会社を去ってもおかしくない状態です。そのうちの誰が会社に残り、誰が辞めるか。そうした会話がなされていて。

S:そうだったんですね。

伊藤:最後は、ボードメンバー全員のコンセンサスが得られました。それからしばらくして買い手が現れて、イタンジの売却先が決まったという流れです。

出典◆https://resources.ga-tech.co.jp/Release/181001_GAtech_Itandi_Last.pdf

伊藤:結果的に、売却後のイタンジで社長を務めることになったのは野口さんです(上の写真中央)。いまでは200名くらいの組織に発展しているのかな。そういう意味では、イタンジの事業としては形になっていたと考えています。

S:イタンジが失敗したわけではないと。

伊藤:はい。

S:事業として形になっていたとは、引き継がれるに値する、価値ある事業を作ることができたという意味ですか?

伊藤:再現性をともなった事業を仕組化できた、という意味です。

S:でも、会社の文化を作ることに失敗した?

伊藤:文化面やチームとして、うまくいった組織だったと自己評価することはできません。

S:そのことを「失敗したな」と感じている?

伊藤:そうです。

S:何に「失敗したな」と思っているのかをもう少し聞かせてもらえませんか?

伊藤:事業とは離れたところで、研修、チームビルディングみたいな施策に取り組もうとしたことがありました。

S:たとえば?

伊藤:コーチングです。知り合いのプロコーチを招いて、研修をしました。ところが、なんというか、そうしたメンタル的なことが当時は、まったく響かない組織で。私は、物事の考えかたは大事だと思っています。メンタルモデルというか。そこをチームで共有していないと、いいチームは、できない。そう思うに至ったんですが、いざ、取り組もうとすると、そういう精神的な部分に興味がない組織だったんです。

S:言葉を選ばずに言えば、即物的だったというか?

伊藤:「そんなことやってるなら、営業行きましょう」という思想ですね。

S:実際に、そう言われた?

伊藤:ニュアンス的には、そのような雰囲気でした。

S:研修の反応は?

伊藤:みんな、ポカンです。私が研修を用意して、ファシリテーターとしてプロコーチを呼びました。「みんなのメンタルモデルを揃えよう」「発散しよう」という趣旨で。

S:どんな内容の研修だったんですか? 

伊藤:今の私たちが、ここでしているような会話です。

S:内省や対話?

伊藤:そうです。なぜ仕事をやるのか。やることによる影響は、自分の人生にどう表れるのか。そうした会話をしようと試みたんですが、まったくダメ。「これは文化的に後戻りできないな」そう直感しました。振り返ると、そうしたスタッフでチームを組成していたことにも気づくんですよね。でも、それを作ったのは私です。

伊藤:組織って、経営者の考えかたが2年や3年という歳月をかけて、会社というカタチになるじゃないですか。イタンジなら、それは私の考えかたであり、年月を経てイタンジという会社として具現化されたというか。用意した研修で、ポカンとするスタッフを見て私は思いました。「以前の自分を見ているようだな」と。

S:以前とは?

伊藤:イタンジ創業当時くらいですかね。

S:そのときに「社内でメンタル的な部分に取り組もう」と社内から声があがったら、当時の伊藤さんもポカンとした?

伊藤:したはずです。当時の私なら彼らと同じ反応を示したでしょう。心に響くことはなかったと思います。誤解してほしくないんですが、これは良し悪しの話ではありません。二元論で語るのはナンセンスです。

S:誰かの信念を他人が操作することはできないですもんね。

伊藤:だから「これは、もう、どうすることもできないな」と。諦め半分みたいな気持ちだったのが本音です。

S:社内でメンタル的な部分に取り組もうとしたのは、いつごろ?

伊藤:創業の3年後、4年後くらいです。

S:2012年にイタンジを創業。その当時に「社内でメンタル的な部分に取り組もう」と誰かから声があがったら、伊藤さんはポカンとしていたに違いないと。そんな伊藤さんが、それから3年後、4年後に、メンタル的な部分に取り組もうとした。なぜ、ですか。創業から時間がたって、事業とは離れたところで、社内のコーチングや研修に取り組んだ背景には、何があったんでしょう?

伊藤:それは、私がコーチングを受けたから、ということがあります。

(つづく/エピソード7へ)

この記事が参加している募集

オープン社内報

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?