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1,『N海岸にて』 石と交わる肉

ゆあーん、ゆおーん。ゆあゆおーん。

アメジスト・カラーのとろとろしたものが満ち干きするのをながめる。ほたるいしのようにきらきらとした光を発しながら、わたしの座っている砂浜は、アメジストに手を引かれるように引っ張られていった。磨かれたアクアマリンのように輝く水平線の手前は、ラピスラズリのような深みを見せている。

わたしはふわりと立ち上がり、水平に移動する。

ここではすべてが崩れゆくようになっていて、すべてが美しく不協和音を奏でている。わたしはここがすきだった。とろとろとしたものにひたせない足をひたす。真似をする。やわらかな温度が伝わってきてここちよくて思わずわらってしまう。

わらってしまったのに、わらってしまったのにわたしの眼は月長石のようににごった光を放つなみだをながしていた。わたしはいつもいらいらしていて、楽しくて、そして悲しい。

アクアマリンの先を見やる。かもめたちが飛びまわり、なにかがふわりふわと浮いている。なみだを流しながらではよく見えないけれど、あのふわふわ浮いているものはそこにずっと取り残されている。ような気がする。

ほたるいしの上を歩く。にぎにぎ。さらさら。踏みしめる、まねをするたびにあまりに輝かしくうつくしく光るので、またなみだが流れてしまう。いつからここにいるのか、わからないけれど、わたしはずっとここで月長石のなみだを流していた。なみだをひとしきり流し終わったあと、砂浜のうえにねころがるようにする。熱でないねつが伝わってくる。とろとろのアメジストが満ちてきて、それが身体を覆い、すこしへんなにおいをさせている。

ゆあーん、ゆおーん、ゆあゆおーん。

アメジストに身体をひたし、ほたるいしの温かみを感じていたところ。どっどどっどっどっど。おおきなトルマリンの波がわたしをさらった。さらわれたわたしは水のなかにとじこめられる。ごぽっごぽっという音をわたしの口が立てる。なにかが引っかかる気がする。なにかを思いだしそうな気がする。わたしはいらいらした。思い出せないことがあるときまっていらいらする。いらいらするとなみだが流れるのだ。月長石をトルマリンの水にばらまきながらわたしはあのとき(いつ?でもそんなときがあったような気がする)とおんなじようにラピスラズリの広く深い懐のなかにとびこんでいった。月長石は泡になってぱちんとはじけて消えていった。

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