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二か月遅れのパーティー

 数年前から誕生日パーティーを友人家族と共にするようになった。人数が増えた分、家族4人だけのものだったパーティーは1、2か月毎のイベントとなり、我が家にしょっちゅう集っていた。しかし、年度が変わり、それぞれの環境が変わり、コロナが広がり自粛ムードのなか集まりづらくなっていた。先日、たまたま妻が友人家族と街中でばったり会い、そのままお宅へ訪問したことがきっかけで、1月にやるはずだった友人長女の誕生日パーティーを二か月遅れで開催しようとなった。何となく互いに遠慮していた催しを再開させる決定打となったのは、友人長女の「やりたい」の一言だった。




♪ ハッピバースデイトゥーユー ♪ 
 予約しておいたイチゴムースのホールケーキにロウソクを挿して火を灯す。暗くした部屋でロウソクの灯を眺めながら皆で歌うと気分も盛りあがる。歌が終わり、主役がロウソクに向かって息をかけるが、まったく消えない。全然消えないじゃん、もっと強く。再度挑戦するも炎は揺らぎもしない。あのさ、空中に吹いたってしょうがなくね?どこに向かって吹いてんの?

 やいのやいのと大笑いしてようやく火が消えた。やれやれ、と部屋の明かりを点けると大阪で下宿している娘がPC画面に現れた。遅いよ~、何やってたの? 誕生パーティーはいつもの魚屋さんでお皿にお刺身を盛りつけてもらい手巻き寿司と決まっているので、娘はリモート参加するために刺身を買い、自前で手巻き寿司を作っていて遅れたと料理を見せてくれた。これには「すごーい!」と主役も大喜び。娘と友人長女は保育園からの幼馴染だ。その後父である友人もリモート画面に参加してくれて、ハイブリッドパーティーはにぎやかに進んでいった。

 大学初年度の講義ほぼ全てをリモートでしか体験していない娘たちは、ここにきてようやく学友たちと共に過ごす時間が増えたことを素直に喜んでいた。趣味や家族や食事や恋愛などの他愛のない会話に、この大学に入学して本当に良かったと、やっと実感できたと娘は語る。それぞれの大学で環境は違うものの、求めていたのは素晴らしい授業でも美しいキャンパスでも最先端の施設でもなく、他人との交流だったのだ。飽くなき経済成長を絶対善としてきた社会に、その欺瞞と嘘を突きつけた新型コロナウィルス。危機を前に、人びとが求めたのはひとの温もりだった。

 娘たちの世代はZ世代と呼ばれる。そしてこのZ世代以降の価値観は、それ以前の世代とガラリと違うという。世界の1%が享受する放埓な富、豪奢な生活。そのために仕組まれた金融の嘘。懸命に勉強して働けば報われるという社会の嘘。トリクルダウンや信用という名の経済の嘘。そういった嘘を再生産し続けてきた大人の偽りに、Z世代は公然とNOを突きつける。彼らはぼくたち大人に云うだろう。
「本当は、知ってたんでしょ? 未来の世界が壊れるのを。自分たちは見なくて済むからいいやって、放っておいたんでしょ?」と。

 夜が更け、妻は上機嫌のまま突っ伏して居間の床で寝ている。カーペットによだれを垂らしてるんじゃないかと心配である。PC画面越しに娘たちは大阪で遊ぶ約束の日程を相談している。オレも行きたいなあ、などと息子まで参加したがっている。
 次は、誰の誕生日の番だっけ?

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